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第二十二回 研鑽句会
最高得点句
お茶をついでもらう私がいっぱいになる
コンプリート句
若さとはこんな淋しい春なのか
互選集計
(5点)お茶をついでもらう私がいっぱいになる◎◎〇△
(4点)夜が淋しくて誰かが笑いはじめた◎〇〇
(3点)気の抜けたサイダーが僕の人生◎◎●△
(3点)遠くから貴女とわかる白いブラウス◎〇△△△
(3点) かあちゃんが言えて母のない子よ〇〇〇△
(2点)洗面器の中のゆがんだ顔すくいあげる〇〇△△
(2点)裸をふいてもらい月にのぞかれてい〇〇△
(2点) 若さとはこんな淋しい春なのか◎〇●△
(2点)春風の重い扉だ〇〇△△
(1点)だんだん寒くなる夜の黒い電話機〇△△△
(1点)淋しさは夜の電話の黒い光沢〇△
(1点)今日がはじまる検温器のふたとる〇△
(1点)影もそまつな食事をしている〇△△
(1点)立ちあがればよろめく星空〇△
(1点)父と子であり淋しい星を見ている〇△
(0点)点滴と白い月とがぶらさがっている夜△△
(0点)あけっぱなした窓が青空だ△
(0点)合掌するその手が蚊をうつ△△
(0点)雨降りは遊びに行けないボクの長ぐつ△
(0点)淋しい犬の犬らしく尾をふる△
(0点)鬼とは私のことか豆がまかれる△
(0点)電話口に来てバイバイが言える子になった△
(0点)水滴のひとつひとつが笑っている顔だ△
(0点)何もできない身体で親不孝している△
(0点)初夏を大きくバッタが飛んだ△△△
(0点)抱きあげてやれない子の高さに坐る△
(0点)ずぶぬれて犬ころ〇●△△△△
(-1点)淋しい指から爪がのびてきた●△△
(-1点)無口な妻といて神経質な夏暑くなる●△△
(-2点)自殺願望、メラメラと燃える火がある●●△△
【作者発表】
全句、住宅顕信(1961-1987)。
13. お茶をついでもらう私がいっぱいになる(5点)
返信削除◎特選はこちらに。詠み人は弱っている感じがする。弱っているときだからこそ、お茶をついでもらうというたわいもないことに胸がいっぱいになるのでしょう。小さな親切があたたかく満たしてくれる光景を素直な表現で切り取ってみせました。こちらも素直にぐっとくる佳句です。(小笠原玉虫)
◎共感できた。(古戸暢)
○まるく治まる。(祖啓)
△心が満たされていくのか。それとも単に器が満たされただけなのか。もう飲めないのに注がれているのだろうか。(働猫)
30. 夜が淋しくて誰かが笑いはじめた(4点)
返信削除◎従来の俳句にはない瑞々しさと救いをこの句に感じ、自分でも自由律俳句を書いてみようという気になった。まさに青春の詩情を凝縮したような句である。(雪兎)
○寝覚の「ごぶたま」でも取り上げられていた句。自分の解釈としては、「誰か」は自分とはかかわりのない遠くの家の人物である。季節は夏から秋にかけてであろうか。窓は開けている。一人の夜を過ごしている。あるいは眠れずに床にいるのか。どこか遠くの団欒の声が聞こえる。笑い声は他人の幸福の象徴だ。それを聞きさらに寂しさは募る。寂しさは募るのである。寂しい自覚はその前からあった。「淋しくて」さらに寂しくさせる「笑い」が聞こえてくるのだ。(働猫)
○いいですね。狂った感じにドキリとします。無茶をするのも馬鹿笑いするのもさみしいから。いまでもそういうひとはたくさんいますね。「夜が淋しくて」はもうちょっとどうにかならなかったかなとは思う。淋しいって言わないでさみしさを感じさせられればなおよかった。淋しいって言っちゃうのは純情すぎる。(小笠原玉虫)
11. 気の抜けたサイダーが僕の人生(3点)
返信削除◎自虐的で、作者のさみしげな笑いが伝わってくる。(水名)
◎たまに飲みたくなる。(祖啓)
●もう少し潜在的なものが欲しい。あまりにわかりやす過ぎる。(雪兎)
△刺激はなくとも甘さがあるのだろう。贅沢をいうものではない。(働猫)
23. 遠くから貴女とわかる白いブラウス(3点)
返信削除◎「白いブラウス」という語の発見がすばらしい。服は人間性の象徴だ。白いブラウスが似合うのは清潔で上品な美しい女性であろう。愛する女性を見つけた喜びに満ちている。(働猫)
○おだやかな初夏の明るさが目に浮かぶ。(水名)
△清潔なのに、どことなくかなしみが漂うのは何故だろう。(雪兎)
△愛しいひとなのだろうか。「白いブラウス」から、まぶしい夏の日を思った。(洋三)
△いいです。好きな人がやってくるのを窓から見ているのかな。清楚で優しい恋人のイメージですね。嬉しさが静かに伝わってきますね。(小笠原玉虫)
24. かあちゃんが言えて母のない子よ(3点)
返信削除○言葉としては覚えても、呼ぶべき「母」はいない。辛い句。(洋三)
○この「かあちゃん」の響きは、おそらく私が聞いたことのないものだろう。(雪兎)
○とうちゃんがいるから大丈夫。(古戸暢)
△まだわかっていないのだろうか。悲しい句である。(働猫)
6. 洗面器の中のゆがんだ顔すくいあげる(2点)
返信削除○ゆがんでいるのは水のせいか、それとも顔そのもののせいか。ふれてみよう。(雪兎)
○大変いいです。顔を洗うって誰でも毎日やる行為ですが、この句は何故か入院中のイメージがある。水が揺れるから映ってる顔が歪むってこと以前に、苦虫を噛み潰したような顔をして洗面してるんでしょうね。不安と焦燥と、自嘲を感じます。(小笠原玉虫)
△単なる写生ではなく、作者の心情が窺える句。(洋三)
△また苦しい一日が始まるのだろう。(働猫)
9. 裸をふいてもらい月にのぞかれてい(2点)
返信削除○いわゆる清拭を行ってもらっているのだろう。羞恥心を「月」を用いてさらりと表している気がした。(洋三)
○自分の不自由さを月に見咎められているように感じたのだろうか。悲しく寂しい句である。(働猫)
△大変いいです。入院中かな。いや、病院はそんな時間に拭かないか。月きれいってんじゃなく、こういうふうにすると妖怪みたいですね。お月様を詠んだ句はたくさんありますが、断トツで印象に残る句のひとつです。(小笠原玉虫)
17. 若さとはこんな淋しい春なのか(2点)※コンプリート句
返信削除◎この句は胸に深く突き刺さる。(洋三)
○「なのか」は自問自答なのか、読者へのといかけなのか。青春の一句として、読まれ続けるだろう。(水名)
●演歌みたいだよな。五七五なのもこの内容だとダサい。(小笠原玉虫)
△若さとはそういうものだろう。(働猫)
20. 春風の重い扉だ(2点)
返信削除○この句の作者は、春を迎える準備が出来てないのだと思う。冬はある意味麻薬だ。(雪兎)
○春の風の強さを言いながら、新しいことが始まる春という季節への不安や憂鬱さを表現しているのだろう。(働猫)
△晩春の風の向こうにはなにがあるのだろう。「重い」に作者の境遇がうかがえる。(水名)
△いいです。風が強くて扉が開きづらいのでしょう。誰にでも覚えがある光景ですね。でもウキウキ嬉しそうな感じが伝わってきます。好きな句です。(小笠原玉虫)
1. だんだん寒くなる夜の黒い電話機(1点)
返信削除○黒電話の存在感がすごい。(水名)
△「寒くなる」内容の電話だったのであろう。私にも覚えがある。(洋三)
△鳴らない電話を待っているのだろうか。焦燥や時間の経過が「寒くなる」という語で表現されている。(働猫)
△黒電話句二句ありますが、好きなのはこちら。冬が深まり、電話の向こうの相手をさらに遠く感じる夜なのかな。触覚と聴覚を刺激される句です。(小笠原玉虫)
4. 淋しさは夜の電話の黒い光沢(1点)
返信削除○時代を感じる。(古戸暢)
△電話は寂しく沈黙している。作者を呼び、必要とする者がいないということだ。ただつややかに光る電話を見つめながら寂しさを募らせているのだろう。(働猫)
5. 今日がはじまる検温器のふたとる(1点)
返信削除○入院生活の朝は検温から始まる。風邪をひいた時くらいしか熱を計ることなどなかったはず。非日常が日常へとすり変わったことを表した句のように思えた。(洋三)
△朝の習慣なのだろう。闘病という変わらぬ日常か。(働猫)
10. 影もそまつな食事をしている(1点)
返信削除○この人も、忍者か。(祖啓)
△自分の境遇を影や窓・鏡に映る姿に代弁させる手法か。(働猫)
△いいですね。放哉以来の伝統を真っ直ぐ受け継いでる感じ。こういうひとりぼっち感、自己の突き放しっぷりは好きです。いや、突き放してないかな。うん突き放してないやこれは。むしろ自分大好き奴ですね。(小笠原玉虫)
14. 立ちあがればよろめく星空(1点)
返信削除○ 好き。ほかの句も同じ詠み人だとすれば、体調が悪いからよろめくのかなと思うけど、お酒に酔ってよろめいているのかもしれないし、どちらにしても心細くておぼつかない感じが非常に好みです。ぐにゃりとよろめけば星空もつられて歪むのでしょう。こういう星空の詠み方は面白い。(小笠原玉虫)
△身体が弱りよろめいたからこそ発見できた星空の美しさなのだろう。(働猫)
22. 父と子であり淋しい星を見ている(1点)
返信削除○あえて「淋しい」としたところに、面白みを感じる。(古戸暢)
△父と子には会話はないものだ。ただ寂しさだけを共有し星を見ているのであろう。(働猫)
2. 点滴と白い月とがぶらさがっている夜(0点)
返信削除△病室に横たわっていると、何もかもが自分より上にある。遠い月も命を?ぐ点滴も同じく夜にぶらさがっているのだ。(働猫)
△ありがちだけど好きな景です。(小笠原玉虫)
3. あけっぱなした窓が青空だ(0点)
返信削除△さわやかではある。しかし一連の句と比べてみると、その青空もまた自分とは無縁の世界であるように読めてなお悲しい。(働猫)
7. 合掌するその手が蚊をうつ(0点)
返信削除△アイロニー。(洋三)
△仏を拝みながら殺生を犯してしまう。不信心なのではなく、人間とはそういうものという気づきなのだろう。自身もまた、いつか大きな存在にうたれて命を落とす存在に過ぎないのだという諦観かもしれない。(働猫)
8. 雨降りは遊びに行けないボクの長ぐつ(0点)
返信削除△穴が開いているのだ。(働猫)
12. 淋しい犬の犬らしく尾をふる(0点)
返信削除△犬らしさとは何か、という点で人それぞれに定義は違うはずだが、不思議と共感できる句である。(働猫)
15. 鬼とは私のことか豆がまかれる(0点)
返信削除△追儺で追われる疫癘として自分を捉えているのだろう。ほほえましい年中行事の子供の声さえも自身を追い詰めるものに感じられてしまうのだろうか。(働猫)
18. 電話口に来てバイバイが言える子になった(0点)
返信削除△姪か甥であろうか。電話でしか声を聴けない子供の成長を微笑ましく思うのであろう。(働猫)
19. 水滴のひとつひとつが笑っている顔だ(0点)
返信削除△コップの水滴であろうか。そこに映るのは自分の笑顔であろう。訪ねてくれた人物への嬉しさで顔が綻んでいる自分自身を句にしたのであろうか。(働猫)
21. 何もできない身体で親不孝している(0点)
返信削除△身体が不自由で何もできない。だが親不孝だけはできる。なんとやるせない思いであろう。(働猫)
25. 初夏を大きくバッタが飛んだ(0点)
返信削除△このバッタの飛ぶ様子は、見上げるような視点でイメージした。(雪兎)
△今回の句群ではほぼ唯一明るい希望に満ちた句。夏が始まる喜びを感じる。(働猫)
△単純な言い方だけど、夏の喜びが真っ直ぐ伝わって来て好きだな。(小笠原玉虫)
26. 抱きあげてやれない子の高さに坐る(0点)
返信削除△子供の状態によるのか、作者の状態によるのか。ともかく抱くことができないのである。せめて目線を合わせて一緒にいようという気持ちであろう。(働猫)
29. ずぶぬれて犬ころ(0点)
返信削除○犬の良さがでている。(祖啓)
●自由律俳句としてどうか、考えさせられる句。(古戸暢)
△「犬ころ」に私自身を見るようだ。(洋三)
△哀愁だけでなく、ユーモラスでもある。昔飼っていた犬が、犬小屋があるのに、雨が降ってもはいらず。この句の状態だった。(水名)
△そうした犬の姿に自分を重ねているのだろうか。(働猫)
△余りにも有名な句なのであえて今回はとりません。それでもスゲェな!!濡れて冷たい感じ、みじめな感じを己に重ねているのかな。ズバリ言われてズキリとくる句です。(小笠原玉虫)
27. 淋しい指から爪がのびてきた(-1点)
返信削除●放哉のオマージュか。別に悪いことではないが、他に逆選にしたい句もなかったので、この句を逆選でいただくこととしたい。(洋三)
△何もしなくとも爪はのびるものだ。何もこの手の中には無いというのに。(働猫)
△放哉で似たようなのあったなぁなどと。(小笠原玉虫)
28. 無口な妻といて神経質な夏暑くなる(-1点)
返信削除●重苦しい夏はよく伝わるが、やや冗長に感じた。(水名)
△沈黙が苛々を募らせる。暑く長く感じる時間。(洋三)
△妻を無口にしているのは自分自身なのだ。それに気づいているからこそイライラは募る。夏の暑さがより一層イライラを募らせるだろう。(働猫)
16. 自殺願望、メラメラと燃える火がある(-2点)
返信削除●困る。(祖啓)
●今見れば陳腐な言葉の羅列でしかない。(働猫)
△穏かな気持ちで火を見つめるのはなかなか難しいことだと思う。(雪兎)
△並選もう一句選べるなら間違いなくこちらに。非常に若くてみずみずしい感じがする。自殺に対してメラメラ燃えることが出来るのは子供だけです。大人がそれを求めるときは静かな諦めしかないよなぁ。だから、バカでも何でも自殺を思うと燃えちゃうような態度はうつくしい。 自殺には賛成出来ないけど、そういうものに情熱を燃やせるって単純に羨ましいよな。眩しい。(小笠原玉虫)