◆最高得点句
歯を削る機械があつて僕は小さな猿になる 中村一洋
◆互選集計
(4点)歯を削る機械があつて僕は小さな猿になる ◎○○
(3点)まぎれもせぬ蝶の屍として流れてゆく ◎○
(3点)ひとりでいるから蟹を怒らせている ◎○
(3点)アイシャドウ強く塗つて女は冬を笑いつづける ◎○
(2点)重い扉こんなまぶしい鍵がある ○○
(2点)ほんとのこといえないゆびさきのさむさ ○○
(2点)波はいつも同じ位置にくだけてゆく乳房 ○○
(1点)烏賊さいてその夜抱かれる女である ◎●
(1点)すつかり枯れた景色に灯を吊つておく ○
(1点)やがて夜明けの 鍋釜ひかりだした ○
(1点)ひとり欠伸の涙をもらう石蕗の花 ○
(1点)ひまわりにいつも見られる情事の寒さ ○
(0点)地にことばあるかどくだみの白い夕ぐれ
(0点)ちびた口紅 家計守らねば
(0点)妻のふるさとというても小さき流れ川なり
(0点)こおろぎが近寄るこちらも話したいことあり
(0点)人は草を摘む牛は何処にいる牛のこえ
(0点)不機嫌でくれば水族館のタコふてくされて
(0点)さびしいぞ夜もサクラが満開で
(0点)熱のある子につけておく小さな灯りも明けちかい雨音
(0点)春の雨の靴の下で貝殻が砕ける
(0点)たれか田植えの田にうつるまなこを撮れ
(0点)ひとの家にくらして裏へ廻われば菜が青い
(0点)凍土から芹の香はずんで鳴る受話器
(0点)風でなく猫でなくひるの工房を過ぎた
(0点)昼かなかな夕かなかなに追われて書く
(0点)六時の高さから鵙が冬をくばりにくる
(-1点)とかげの目がぬれて原爆忌祈りの時刻となる ●
(-1点)初冬のひかりのなかでススキのいのちが終つている ●
(-2点)人は馬の文明の股を好色の釈尊 ●●
以上、30句。
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点、コメントのみ(△)無点として集計。
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◆作者発表(『自由律俳句作品史』掲載順)
飯塚朋子
重い扉こんなまぶしい鍵がある
ほんとのこといえないゆびさきのさむさ
竹村国子
烏賊さいてその夜抱かれる女である
坂井千代子
地にことばあるかどくだみの白い夕ぐれ
津田露
ちびた口紅 家計守らねば
中村一洋
歯を削る機械があつて僕は小さな猿になる
中塚檀
妻のふるさとというても小さき流れ川なり
こおろぎが近寄るこちらも話したいことあり
村田治男
人は馬の文明の股を好色の釈尊
浦賀廣己
すっかり枯れた景色に灯を吊つておく
北田千秋子
人は草を摘む牛は何処にいる牛のこえ
中谷みさを
とかげの目がぬれて原爆忌祈りの時刻となる
西村秀治
不機嫌でくれば水族館のタコふてくされて
初冬のひかりのなかでススキのいのちが終つている
さびしいぞ夜もサクラが満開で
勝慶子
波はいつも同じ位置にくだけてゆく乳房
池沼両間子
熱のある子につけておく小さな灯りも明けちかい雨音
まぎれもせぬ蝶の屍として流れてゆく
春の雨の靴の下で貝殻が砕ける
漆原利男
たれか田植えの田にうつるまなこを撮れ
江崎美実
ひとの家にくらして裏へ廻われば菜が青い
やがて夜明けの 鍋釜ひかりだした
切目とき
凍土から芹の香はずんで鳴る受話器
小島花枝
ひとり欠伸の涙をもらう石蕗の花
水谷雅
風でなく猫でなくひるの工房を過ぎた
村山砂田男
ひとりでいるから蟹を怒らせている
昼かなかな夕かなかなに追われて書く
高須梅之助
ひまわりにいつも見られる情事の寒さ
アイシャドウ強く塗つて女は冬を笑いつづける
六時の高さから鵙が冬をくばりにくる
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『自由律俳句作品』所収の作品のうち、1920-24年に出生した俳人の句より30句を抽出した。その中には、中塚檀(1922-1993)や北田千秋子(1923-)の名前もみられる。彼らはおよそ、戦前より昭和後期、果ては平成に至るまで生き抜いた。山頭火・放哉以降顕信以前にあって、現代においても読まれるべき様々な句が詠まれていたことについて、私たちはより一層自覚的でなければなるまい。
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出典:上田都史ほか編『自由律俳句作品史』永田書房、1979年。
出典:上田都史ほか編『自由律俳句作品史』永田書房、1979年。