最高得点句
からだぢうが月になつて手すりに手を置く
コンプリート句
からだぢうが月になつて手すりに手を置く
互選集計
(7点)からだぢうが月になつて手すりに手を置く◎◎○○○○● ※コンプリート句
(4点)漕ぐ手を休め水にうつる◎◎△△
(4点)たんぽぽの花に煙草の煙かけて恋する者よ◎◎△△
(3点)子供が見ている木の実落ちず○○○△△△
(3点)みんな寝たあと花が黄色い花粉をこぼす◎○△△
(2点)若き日がゆくたんぽぽは空を見てばかり◎△△
(2点)弱い秋の日の草に残つたほのかな体温○○△
(2点)ながい日の本が静かに厚みをもつ○○
(1点)手も足も手で洗つている○△△△△
(1点)月夜のそこだけが暗くて映画館の裏道○○●△
(1点)ビールの泡が消えてからの春の浪音○△△△
(1点)子供の先生の木一つない家をたづねる○○●
(1点)履歴書をかく父と算術をしている子と秋の夜○△△
(1点)ここも此の世かかかる所に野はひろし○△
(1点)夜の花瓶が真赤にて寝汗びつしり○△
(0点)月を見て眠つた子月が残つている○●△
(0点)軍服の写真と未亡人といつも寝ている猫○●△
(0点)林檎を描き一日林檎とともにある○●△
(-2点)答の小さい割算割つてねむくなつている●●△
(無点)空は灰色に静まりてもろき木の葉なり△△
(無点)網棚の旅行鞄も畑の鴉も停まつている汽車△△
(無点)手紙なら青い切手で港に船がまつている△△
(無点)海、風呂敷がひろがつて落ちている△△
(無点)雀囀り鴉は少し遠くにいる△△
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。
【作者紹介】
※全句、芹田鳳車。出句は彼の第三句集『自画像の顔』より。
芹田鳳車(せりた・ほうしゃ)
1885年10月28日、兵庫県網干に生まれた。旧姓児島、姫路市鷹匠町、芹田家に入婿。日本大学商科卒。「懸葵」「宝船」等に投句していたが、「層雲」創刊とともに井泉水に師事した。1948年、輪禍に遭って脚部骨折、1954年6月11日、脳溢血にて長逝、行年70。句集『雲の音』『生ある限り』『自画像の顔』がある。(『自由律俳句文学史』より)
以下、選評。
返信削除◎……特選
○……並選
●……逆選
△……コメントのみ
08.からだぢうが月になつて手すりに手を置く(7点) ※コンプリート句
返信削除◎月が大きな夜なのであろう。吸い込まれるように魅入られ、彼我の境界もあいまいになる。自らの存在が心許なくなり、ふと手を置いた手すりが現実に引き戻してくれたのであろう。(働猫)
◎すごくいいです。全身で月に見入っている感じがすごく出ている。ああなんて美しいと動悸を抑えながら手すりに寄り掛かったのでしょう。数え切れない程ある月の句の中で、こちらはまちがいなくベスト3に入る名句といえましょう。大好きです。(玉虫)
○「空をあゆむ朗々と月ひとり」と合わせて鑑賞したい句。(古戸暢)
○ここまで月まみれになってみたい。手すりに月の粉がつきそうです。(水名)
○月の光を浴びて自分が自分でなくなっていくような感覚。狂気との鬩ぎ合い。手すりは理性か。だとすれば、置くでは弱い気も。(獄美)
○月で満たされる気持ちはどのようなものだろうか。手すりに手を置いたことで、そのうち月そのものになってしまいそうである。(雪兎)
●かっこいい句なのだが、句意が図れない。八つ当たり的に逆選でいただくこととしたい。(洋三)
07.漕ぐ手を休め水にうつる(4点)
返信削除◎すんなりと入ってくる(祖啓)
◎詩的。きれいな句。(洋三)
△ナイスボート。美しい情景である。(働猫)
△運動と静止の対比からくる気づき。大抵はどちらかに偏りすぎて、足らないものを無理に言葉を省略したり過剰にすることで作為的になりすぎてしまうように感じることがあるが、この場合は句の明快さが気づきの明快さそのものだから、嫌味がない。(獄美)
04.たんぽぽの花に煙草の煙かけて恋する者よ(4点)
返信削除◎冗長さがよい。(古戸暢)
◎はらっぱで恋人を待つ若者の一コマでしょうか。たんぽぽと喫煙という組み合わせが新鮮でした。(水名)
△これは草の上に寝そべっている景だろうか。思春期に憧れたものだ。でも、草の上で煙草を吸ってはいけない。こう思ってしまう辺りに自分が大人になったことを気づかされる。(洋三)
△なんとなく思春期の少年の恋を思った。煙草も大人への憧れの象徴のような。(働猫)
05.子供が見ている木の実落ちず(3点)
返信削除○助けたい(祖啓)
○子供の頃、その瞬間が見たくて熱心に見つめたものってそういえばたくさんあったよなと鮮やかに思い出させてくれました。時計の針とか、パチンコ屋の大看板が消える瞬間とか、ああもう懐かしい。簡潔で短いのもいい。ほんとにいい句だな。(玉虫)
○子供に見せるべく木の実がわざわざ自分から落ちた、と感じることも。(獄美)
△その「子供」と「木の実」を見ている作者の心情を思ってしまう。(洋三)
△「~しそうで~しないもの」があることを子どもはこうやって知っていくんです。(水名)
△柿の木の下で口を開いて待っているのか。そんな光景はのび太でしか見たことないけど。(働猫)
どの程度の時間を詠んだものなのか気になる。
削除23.みんな寝たあと花が黄色い花粉をこぼす(3点)
返信削除◎自慰のイメージ。こぼすとは男のものだが、なぜか百合を浮かべた。女の慎ましい自慰だ。花も人知れず自慰をしているのか。(獄美)
○作者のみが見ることができたる瞬間。その喜びも感じられます。(水名)
△だれが見ていたんだろう。その情景を。作者は「みんな」に含まれていないのだろうか。(働猫)
△いいですね。絵本みたいです。花粉のイメージと、眠りの精サンドマンがまく眠りの砂のイメージが重なります。(玉虫)
らしい一句。
削除03.若き日がゆくたんぽぽは空を見てばかり(2点)
返信削除◎過ぎ去ってゆく若さをただ黙って見守るしかないたんぽぽが愛しくてたまらない。そして、若さは留めておくことができないから美しいのだ。(雪兎)
△このたんぽぽも好きだな。(水名)
△若者は目を輝かせて空を見ているが、その実何も見えていないのだ。振り返って見たとき、見落して来たものに気づき愕然とするのだろう。(働猫)
この句もよい。「04」のたんぽぽ句を採ったがために、こちらを選からはずした。
削除24.弱い秋の日の草に残つたほのかな体温(2点)
返信削除○この体温は恋人の体温と思います。冬が近い秋、二人で草の上に寝転がってなにを話したのでしょう。「ほのかな」が寂しいです。(水名)
○きみといた時間の余韻に浸っているのだ。(働猫)
△ちょっと涼しすぎるかなと思いつつ、草の上にじっと座って物思いにふけっていたのでしょう。どいたあとの草に体温が移ってほんのりあったかかった。ああ、こちらの句も子供の頃を鮮やかに思い出させてくれました。ちょっと寒くてもじっと座っていたい秋の日、確かにわたしにもありました。(玉虫)
これはこれでよいが、「弱い」の直球具合に疑問を感じた。
削除20.ながい日の本が静かに厚みをもつ(2点)
返信削除○日当たりのいい部屋でロッキングチェアに座り読書をしている。眠気がさしてきて、手に持った本が重くなっていく。なんと豊かで幸福な眠りであろう。私がこんなにゆったりした時間を過ごせるのはいつになるのだろう。うらやましい限りである。(働猫)
○作者の願望を表しているようだ。私の経験によると、本の厚みは、心理状態によって変わる時がある。(雪兎)
13.手も足も手で洗つている(1点)
返信削除○きれいだ(祖啓)
△当たり前と言えば当たり前だが、視点が面白い。(洋三)
△言われてみればそうだなあ。(水名)
△それはそれとして、足でされてよろこぶ男なんて本当にいるのだろうか。理解できない性癖の一つである。(働猫)
△汚れたものでいくら洗えどもおちない汚れの塊こそ人間だ。それでも洗いつづけなくてはならない。(獄美)
「それはそれとして」の「それはそれとして」感が強すぎるように感じた。
削除10.月夜のそこだけが暗くて映画館の裏道(1点)
返信削除○表は華やかな看板が照明に照らされているのだろう。「裏」と「表」を同時に感じさせるところは是非とも見習いたい。「映画館の裏道」というのが、またいい。(洋三)
○特選の次の選はこちらに。これはもう景観をそのまま詠んだと見せかけて、人生を感じさせる句ですね。物語の中の架空の人生と、それに思いを馳せる人々のそれぞれの人生と。人と人の気持ちが集まるから、映画館の裏道は暗いのですよね。そんな人間たちをお月様はいつも静かに見下ろしている。そして皆を優しく照らしている。静かな感動がじわりと広がる佳句です。(玉虫)
●イメージはありがちだが、気になったのは、暗さの中に彼が居ないような気がしたこと。その距離感をどう受け止めるか。ぼくは進んで彼自身が「そこ」に立つことの不安をもっと感じたい。(獄美)
△しょんべんくさそうである。(働猫)
鳳車がみた「映画館の裏道」と、私たちが知っているそれとでは、違いが大きいだろう。憧れをもつ景。
削除19.ビールの泡が消えてからの春の浪音(1点)
返信削除○好きな景。「からの」はいらない気もする。(古戸暢)
△飲みながらまどろんでいるのだろう。「春の浪音」という表現が、船を漕ぐ様子を連想させる。(働猫)
△すごくいいです。ビールを飲みながら海をじぃっと見ているのでしょう。時間の経過と静けさを感じる句。(玉虫)
△泡の弾ける音で静かすぎる世界を少しだけ騒がしくしてやるのか。泡が消えるまでのささやかな時間と、やがてくるぼんやりとした静かなさみしさ。(獄美)
06.子供の先生の木一つない家をたづねる(1点)
返信削除○なにもない感じがよい。(古戸暢)
○育てることの意地のようなものが木に託されているが、先生と呼ばれる人物と何があったのか、二人の大人はそれぞれ彼か彼女なのか、ドラマ性が強く立ち上がってくる句。(獄美)
●木がないとか、よけいなお世話である。(働猫)
09.履歴書をかく父と算術をしている子と秋の夜(1点)
返信削除○どちらも集中しているのだろう。「秋の夜」が効いている。(洋三)
△これはさみしい。父は丁寧に学歴などを書き、子は一生懸命問題を解く。外では虫の声がしているかもしれません。(水名)
△昭和の匂いがする。現代であれば、こんなにのんびりとできない状況ではないだろうか。(働猫)
冗長さが必要な景か。
削除02.ここも此の世かかかる所に野はひろし(1点)
返信削除○あの世のような場所を求めてここまで来たが、結局この世からは逃れられなかった、と解釈した。分かり辛い句だが、何故か無視できない。(雪兎)
△鳥辺野、化野、蓮台野。野辺送りをイメージした。(働猫)
15.夜の花瓶が真赤にて寝汗びつしり(1点)
返信削除○実にいいですね。悪夢って感じがする。夜の暗さと花瓶の真っ赤な色の取り合わせが不吉な印象。花瓶が結露してるイメージと、悪夢に飛び起きると寝汗でびっしょりというイメージの重なりが面白い。自分も去年夜中・悪夢・凌霄花で似たようなの詠んだけどうまくいかなかったなーと思い出しました。こんな風にやらなきゃね。(玉虫)
△「真赤」に不安な気持ちがよく表れている。普段意識しなかった色が心に突き刺さってきたのだろうか。(働猫)
12.月を見て眠つた子月が残つている(0点)
返信削除○実際に残されたのは作者なのだろう。こういう言い回しに惹かれてしまう。詩的だ。(洋三)
●逆選ほんとに困りました。正直とりたいものがないです。で、言い掛かり的にこちらに。なんか見覚えがあるというか、星とか星座とか月とか観察してた子供が寝ちゃったという句はほかに幾たりも見たよね、ちょっとありきたりかな、とそれだけで逆選とさせて頂きました。いい句だとは思うんです。(玉虫)
△子供が楽しみにしていた月なのであろうか。月もその夢を見守ってくれているのだろう。(働猫)
17.軍服の写真と未亡人といつも寝ている猫(0点)
返信削除○一つ一つが独立して在るのではなく、「写真」と「猫」を「未亡人」が抱いて寝ているととるべきであろう。戦争により伴侶を失った寂しさを情景だけでよく語っている。(働猫)
●どんな素材を探してくるかというのはもちろん大事ではあるが、これは素材のみで料理をしていない。またその素材もあまりにこれ見よがしで面白くない。気をつけたいものである。(雪兎)
△静かでさみしい光景が胸を打ちます。静かだから一層さみしさが際立つような。(玉虫)
全体としてひとつの家を成している様を写生した句と読んだ。
削除22.林檎を描き一日林檎とともにある(0点)
返信削除○寂しくない(祖啓)
●「林檎」の連発はリズムも良くて好きですし、風景も目に浮かびますが、結局、「一日かけて林檎を写生した」ということじゃないかと…。(水名)
△だれとも話をしなかった。そんな一日があってもいいと思う。それはそれで豊かなことだ。(働猫)
こうした一日を過ごしたい。
削除18.答の小さい割算割つてねむくなつている(-2点)
返信削除●前半部に蛇足感を覚えた。(古戸暢)
●うらやましい(祖啓)
△分け前はどうしても少なくなるのだろう。寝てしまえば、それさえも奪われるかもしれない。(働猫)
01.空は灰色に静まりてもろき木の葉なり(無点)
返信削除△冬空だが枯葉は秋か。雪の降らない地域の人の句であろうか。(働猫)
△枯葉を「もろき木の葉」としたのが良い。(雪兎)
11.網棚の旅行鞄も畑の鴉も停まつている汽車(無点)
返信削除△旅行鞄と鴉を同列に扱うことで、異様な雰囲気になったと思います。空気まで静止した世界。(水名)
△汽車が停まっている間、すべての景色も止まって見えているのだろうか。気の乗らぬ旅なのかもしれない。(働猫)
勝手に満州を想像した。
削除14.手紙なら青い切手で港に船がまつている(無点)
返信削除△美しい。歌詞のようである。とりたかった句。(働猫)
△何故か「コクリコ坂から」を思い出しました。(雪兎)
16.海、風呂敷がひろがつて落ちている(無点)
返信削除△ドラえもんで見た。タイム風呂敷だろう。海から古生代の生き物がワーッと顔を出すのだ。ワーッと。(働猫)
△広がった風呂敷が海のようで、そのまま消えてしまいそうな。(雪兎)
好きな景ではあった。
削除21.雀囀り鴉は少し遠くにいる(無点)
返信削除△そのままの句であるのだが、その位置関係から緊張や不和を感じ取ることができる。(働猫)
△少し遠くにいるのが鴉らしくて良い。(雪兎)
いかがでしたでしょうか。今回は「層雲」創刊からの古株の層雲人、芹田鳳車を取り上げてみました。
返信削除彼のようにまだまだ表に出ていない層雲人は他にもおりますので、どんどん紹介していきたいと思います。
当たり前のことではありますが、山頭火・放哉だけが自由律俳句ではないのです。