2014年12月4日木曜日

第二十九回 鍛錬句会

最高得点
石仏に祈りに戻る  働猫 (4点)

(4点) 石仏に祈りに戻る  ◎○○
(3点) 悔いあって朝風呂の熱い  ◎○△  
(3点) 不在のきみの寝巻きを拾う  ◎○  
(3点) 帰る身に大き過ぎる月   ◎○
(3点) 蠅を逃がす寒空  ○○○
(1点) 夕闇ドウダンの赤を授かる  ◎●△△ 
(1点) 月の鋭角ふれた耳が冷えている  ○○●
(1点) 息切らすバッティングセンターあいつを許そう  ○△△
(1点) にじんだ月に泣いてやらない  ○△
(1点) ぼくに来なかったヒーローとして生きる ○
(0点) 枯れ葉蹴散らすお人好しです  ○●△△
(0点) 弱った父がさみしい野分  ○●△
(-1点)遠のく声に手を振る  ●△
(無点) 禁煙パイポに歯型ついとる  △△△
(無点) 空き缶踏んで我が居間  △△
(無点) こんなひとたくさんいるだろう夜長の窓の淵にいる  △△
(無点) カツカツと夜の道もうすぐ冬が来る  △△
(無点) カレンダーめくるガラスの嘴が立冬だ  △△
(無点) 貝殻が光る幸せに生きればいいのに  △△
(無点) 濡れた草原の空き缶を蹴ってしまう  △△
(無点) 私の知らない苦しみもある白い墓  △
(無点) ゴキブリと出会う野外の十一月二日  △
(無点) リコリスどもの枯れて突っ立つ  △
(無点) 波立つ川面に秋風我が影  △
(無点) 血の気のないキーボードをたたく深秋  △

(以上、25句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。

◇作者発表

【馬場古戸暢】
空き缶踏んで我が居間
禁煙パイポに歯型ついとる
ゴキブリと出会う野外の十一月二日
遠のく声に手を振る
波立つ川面に秋風我が影

【畠 働猫】
石仏に祈りに戻る
私の知らない苦しみもある白い墓
貝殻が光る幸せに生きればいいのに
ぼくに来なかったヒーローとして生きる
帰る身に大き過ぎる月

【小笠原玉虫】
にじんだ月に泣いてやらない
悔いあって朝風呂の熱い
不在のきみの寝巻きを拾う
リコリスどもの枯れて突っ立つ
弱った父がさみしい野分

【風呂山洋三】
息切らすバッティングセンターあいつを許そう
カツカツと夜の道もうすぐ冬が来る
夕闇ドウダンの赤を授かる
枯れ葉蹴散らすお人好しです
蠅を逃がす寒空

【梶原由紀】(ゲスト)
月の鋭角ふれた耳が冷えている
こんなひとたくさんいるだろう夜長の窓の淵にいる
カレンダーめくるガラスの嘴が立冬だ
濡れた草原の空き缶を蹴ってしまう
血の気のないキーボードをたたく深秋

◇ゲスト紹介
「海紅」最年少にして結社誌校正を手掛ける秘蔵っ子。
しかも自身が司会を務めた「自由律俳句フォーラム」では、自由詠の部二位という実力者でもある。

25 件のコメント:

  1. 石仏に祈りに戻る  (4点)

    ◎今回の特選はこちらに。大変いいです。わたしの中の自由律俳句の理想と言っていい。感情表現はひとつもないのに、詠み人の心境が伝わってくるようです。きっと普段は神仏に祈ったりしないタイプなのでしょう。そんな人が、通り過ぎつつ石仏の存在にふと気付く。そして戻ってまで拝む。いま病気の家族を抱えているわたしには非常にぐっとくる景でした。リズムもいいし短くぱっと終わるのもいい。素晴らしいです。(玉虫)
    ○一読、意味をとれなかった。(古戸暢)
    ○「戻る」がいいです。(洋三)

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  2. 悔いあって朝風呂の熱い  (3点)

    ◎風呂の熱さは自分のさじ加減次第だと思うのだが、そうできないということはこれは温泉だな。温泉宿だろう。昨夜の宴会での醜態を悔いているのだ。悔やんでもだめだ。あなた以外のだれもがあなたの行為を忘れてはくれない。もう二度と酒を飲むまいと何度目かの禁酒を思うのであろう。(働猫)
    ○ 悔いと朝風呂の体感がうまくかみ合っている。眠っただけでは切り替えられないことがあったのか。朝風呂の熱さが、自身への戒め のように伝わってくる。外気と風呂の温度差が、気持ちを切り替えようとする思いを暗示させる。(由紀)
    △お風呂に入るとスッキリしますよね。(洋三)

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  3. 不在のきみの寝巻きを拾う  (3点)

    ◎寂しさというよりも虚無感を覚えました。(洋三)
    ○「不在の」がよいですね。まだ失ったことに慣れていない状況。その混乱ややがてくる悲しみに共感します。(働猫)

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  4. 帰る身に大き過ぎる月  (3点)

    ◎ 言葉がシンプルに練られているのが良い。自身と月を並べることで、月がより大きなものに見えてきて、自身がより小さいものに見える。帰り道の内省的な気持ちをうまく現していると思う。(由紀)
    ○いいですね。まず映画みたいにバッと映像が浮かびました。どこから帰ってゆくのかと考えたとき、これは実家から一人住まいの部屋へ、という感じがしました。出てしまった実家は自分のうちでありながらよそんちみたいでもあり、という、何かこう、ちょっと寂しいような、同時に安堵するような感じがありますよね。親に「それじゃ」と言って出て、親の心細そうな視線とか思い出しながら、ちょっとプレッシャーみたいなものを感じて、でも一人になれる自分の部屋に戻ることに安堵したりもして、そんな己が身に覆いかぶさるようにして、大きな月が煌々と輝いている。すごく鮮やかに一瞬を切り取ったなと思います。実に素晴らしい作品です。(玉虫)

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  5. 蠅を逃がす寒空  (3点)

    ○この前、蜂を逃がしたばかりです。(古戸暢)
    ○ 色調がうつくしい。蠅を逃がすのは救いなのか。蠅の色も寒空の色も冷たく、本当は救われないのかもしれない。逃がす手も美しい白い手が浮かぶ。(由紀)
    ○実に偽善的でよい。人間の本質のようだ。(働猫)

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  6. 夕闇ドウダンの赤を授かる  (1点)

    ◎綺麗。(古戸暢)
    ● 「赤を授かる 」まで言ってしまうと、赤のダメ押しのように感じてしまう。また、夕闇とドウダンが並列の関係なのか、夕闇がドウダンの赤を授かっているのか分かりにくい。色合いがうつくしいだけに惜しいと思う。(由紀)
    △こちら、説明しづらいのですが、スッゴく海紅風だなと思いました。景色を見て、植物を見て、みたいな。海紅句が皆こんな感じというわけではないのですが、伝統的にこういう傾向があるなと感じています。そうだそれだ、非常に伝統的な感じがすると言いたかったのです。(玉虫)
    △黒と赤の対比がきれいですね。「授かる」という表現が効いています。(働猫)

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  7. 月の鋭角ふれた耳が冷えている  (1点)

    ○痛みを覚えます。(洋三)
    ○「鋭角」は月の細さなのか、それとも月の光に照らされた耳が三角なのか。なんとなく後者で耳の持ち主は犬や猫のように感じた。月明かりの中、そばに侍る犬または猫を撫でる様子ととる。(働猫)
    ●今回逆選にしたい句が見当たらなかったため、ほんとに言いがかり的にこちらに。少しねポエトリーすぎるなと思ったんですね。景は浮かぶ。ものすごく寒い夜。満月が鋭く光る。冷たい空気で痛くなった耳はまるで月の端っこに触れて切れたみたいに感じるってことかなと。でもね何かね「月の鋭角ふれた耳」がスウィートすぎるように思った。まぶしい月、冷たい空気、痛くなる耳、って句材は非常にいいと思うので、もうちょっと乾いた感じにしたら面白いかなと思いました。可能性を評価して逆選としたいと思います!(玉虫)

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  8. 息切らすバッティングセンターあいつを許そう  (1点)

    ○大変いいです。むしゃくしゃした気持ちを体を動かすことで振り切ろうとしているのですね。で、最終的に出した結論が「許そう」であることがぐっときました。句としてはわたしの好みからするとちょっと長いかな。バッティングセンターまでをもうちょい短く出来ないかなとも思いますが、これで最上のような気もします。(玉虫)
    △ 息を切らしてバットを振るぐらいだから、きっと本当は並々ならぬ思いがあるのだろう。句の背景に、優しさやあいつとのドラマが含まれているのが面白い。(由紀)
    △さわやかですね。青春ですね。(働猫)

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  9. にじんだ月に泣いてやらない  (1点)

    ◯強がりな感じが良いです。(洋三)
    △「にじんだ」ということはすでに泣いているわけで、「泣いてやらない」というのは、意地の張り方としてもあたりまえかと思う。(働猫)

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  10. ぼくに来なかったヒーローとして生きる  (1点)

    ○いいですね。子供時代にとうとう癒されなかった心の傷があるのでしょう。けれど、自分のトラウマはトラウマとして、同じような子供、人のためには、自分が来てほしいと思っていた存在として接しようという決意が見て取れます。これは簡単じゃないことです。それでも自分はそうなろうという心意気に打たれました。句としてはちょっと雪兎さんぽい感じがありますね。傷つきながらも澄んでいる。大変好みです。(玉虫)

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  11. 枯れ葉蹴散らすお人好しです  (0点)

    ○ 枯れ葉は故意に散らしたのか不本意に散らしたのか。いずれにしても、枯れ葉を蹴散らすと音も激しいし、見た目も悪目立ちしてしまう。句は、お人好しの要領の悪さをうまく表わしていると思う。(由紀)
    ●お人好しであることを主張することと「枯れ葉蹴散らす」ことの関係がよくわからない。(古戸暢)
    △「濡れた草原」の句にも通じる世界観。こちらは乾いていますが、ちょっと可愛くもありますね。チキショー!!と蹴散らすにも枯れ葉ぐらいで、きっと優しいひとなのでしょう。おいしい銀杏を拾って帰りましょうね、と、銀杏の方へ引っ張って行きたくなります。(玉虫)
    △誰かの掃き集めた枯葉を蹴散らしている奴が「お人好し」を名乗る矛盾を笑うべきなのか。「お人好しです」はなんとなく許してしまうキラーフレーズかもしれない。(働猫)

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  12. 弱った父がさみしい野分 (0点)

    ○必然とはいえ。(古戸暢)
    ●対比が良いです。ただ「さみしい」としてしまうのは勿体ないと思います。(洋三)
    △まだ元気だったころは、台風が来るたびに「ちょっと裏の畑の様子を見に行く」と出かけていた父だが……。死亡フラグを立ててはへし折ってきた父の弱った姿は寂しいものであろう。(働猫)

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  13. 遠のく声に手を振る  (-1点)

    ●句と言うには不足するところがあるように思う。(働猫)
    △ノスタルジアを覚えます。(洋三)

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  14. 禁煙パイポに歯型ついとる  (無点)

    △禁煙がしんどくてぐぅっと噛みしめてしまうのでしょう。そしてそんなしんどさをちょっと他人事みたいに眺めていそうな雰囲気が面白いです。(玉虫)
    △確かにイライラする。(洋三)
    △「歯型」が執着を感じさせておもしろい。(働猫)

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  15. 空き缶踏んで我が居間  (無点)

    △酒飲みの散らかった部屋なのでしょう。荒んだ生活をしていそうで心配になりますね。(玉虫)
    △ビールだろうか。かたづけなさい。カーテンを開けなさい。(働猫)

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  16. こんなひとたくさんいるだろう夜長の窓の淵にいる  (無点)

    △海紅風の句だなと思いました。景はよく分かる。もうちょっと整理したら更に良くなりそう。(玉虫)
    △『こんなこいるかな』っていう絵本がありますね。いえ、ただそれだけです。(働猫)

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  17. カツカツと夜の道もうすぐ冬が来る  (無点)

    △カツカツという音と冬の厳しい感じのうつりがいいなと思います。冬の足音って感じがしますね。(玉虫)
    △ハイヒールかな。冬の空気は澄んでいて、靴音も濁りなく響くような気がします。(働猫)

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  18. カレンダーめくるガラスの嘴が立冬だ  (無点)

    △こちらも「月の鋭角」の句と同様、ちょっと詩っぽすぎるなと思いました。冬に向かっていく日々を促進していくものはきっとガラスの嘴のようなものなのだな、と、すごく分かるなと思いつつ、俳句にしてはちょっと詩的すぎるかなーと思ったのです。あくまでわたし個人の好みからいえば、ですが。皆さんはどうお考えになるかな。(玉虫)
    △「ガラスの嘴」が何なのかわからなかった。なんですか。(働猫)

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  19. 貝殻が光る幸せに生きればいいのに  (無点)

    △うーむむむ。「貝殻が光る」は美しい光景。乾いた感じもするしいいなと思う。んが、後半が一気に句をいただけなくしているな。これね「私はこれでいいの……」みたいにやたらと薄幸な方へ突き進む女とそれにほだされる男、って感じがしていやな気持ちになるな。「いいのに」ってところが演歌風でもある。うん。あんま美しくないです。薄幸な異性がやたらと好きな人を見て、何でいやな気持ちになるかというと、そこに支配欲が透けて見えるからなんだな。きっと自分では己が支配欲を自覚してない。でも不幸な異性に惹かれてしまう人は、自分の支配欲に気付いた方がいいと思う。支配欲が強い人はいっそ「お前は俺のものだダッシャー!!!」的に詠んだ方が美しいと思います。(玉虫)
    △ 貝殻と波と幸せを希求する思いとが、光ることで呼応しているように見える。(由紀)

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  20. 濡れた草原の空き缶を蹴ってしまう  (無点)

    △このダメっぽさ、非常にいいですね。むしゃくしゃして空き缶を蹴るんだけど、バシャッとして不快、みたいな。「濡れた草原」という言葉が詠み人の心象風景そのものでもあるみたいなダブルミーニング的なところも好みです。(玉虫)
    △あ、中に雨水がたまっていて、それが自分にかかるパターンのやつだ。「蹴ってしまう」にはその後悔が表れているのですね。(働猫)

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  21. 私の知らない苦しみもある白い墓  (無点)

    △こちら、もう一句並選をとれるとしたらとっていました。少し説明的かなという気もしますが、扱っている句材が非常にわたし好みです。苦しまないで死ぬ生き物はあまりおらず、勿論人もほとんどが苦しんで死ぬ訳ですが、埋葬された一人々々にそれぞれの苦しみがあったと思うと、胸に迫るものがありますね。そして皆いまでは静かに眠っている。そのことがさみしくもあり、救いのようでもあり。おのずと生と死を考えさせる良句です。(玉虫)

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  22. .ゴキブリと出会う野外の十一月二日  (無点)

    △北海道なのでよくわからないのですが、野外だったら別に嫌じゃないような気がします。11月2日にはどんな意味があるのかな。(働猫)

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  23. リコリスどもの枯れて突っ立つ  (無点)

    △「リコリス」と言われるとあのぐるぐるの不味いお菓子を思い浮かべてしまうのですが、「枯れて」とあるので、これは彼岸花のことですかね。(働猫)

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  24. 波立つ川面に秋風我が影  (無点)

    △「波立つ」「秋風」はどちらかに絞れそうだ。影が揺らめく様子を詠めば「波」も「風」もはっきりと言葉にする必要がなくなる。(働猫)

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  25. 血の気のないキーボードをたたく深秋  (無点)

    △このキーボードは、楽器だろうか。血の気がないのは白い鍵盤を表したものか。それともパソコンか。どちらにせよ無機質な世界で不本意に生きている感じがよく出ている。(働猫)

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