2012年5月3日木曜日

第一回 鍛練句会


最高得点句
今日からニートの女と歩く

最低得点句
マルクスの詩集だよかわいいね


互選集計
(4点) 今日からニートの女と歩く◎◎
(3点) たった一つのめしを食う夜◎○
(3点) 意を決して出るあたたかい雨だ○○○
(2点) 日付けをとり替えて暮れる◎
(2点) ひみつ基地に妹忍び込んでいた○○
(2点) ポンと出た月がまあるい○○
(1点) 貧乏を揺すって桜を見上げる◎●
(1点) 春の雨の軒下の知らない猫と居る◎●
(1点) 片目の伯父を父は見るなと○
(1点) 貸した本から落ちて陰毛○
(1点) 春の麗らの万年床の下のカビ○
(1点) 道暗くやけに黄色の濃い満月だ○
(-4点)マルクスの詩集だよかわいいね●●●●
(無点) なにか捨てて来た道をかえりみる
(無点) ふらふらと来て故郷の空き家の荒れ草
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。


作者発表

【藤井雪兎】
片目の伯父を父は見るなと
マルクスの詩集だよかわいいね
ひみつ基地に妹忍び込んでいた

【馬場古戸暢】
貧乏を揺すって桜を見上げる
今日からニートの女と歩く
貸した本から落ちて陰毛

【天坂寝覚】
日付けをとり替えて暮れる
たった一つのめしを食う夜
なにか捨てて来た道をかえりみる

【渋谷知宏】
春の雨の軒下の知らない猫と居る
意を決して出るあたたかい雨だ
ポンと出た月がまあるい

【矢野風狂子】
ふらふらと来て故郷の空き家の荒れ草
春の麗らの万年床の下のカビ
道暗くやけに黄色の濃い満月だ

【木葦】
※選句のみにて参加

23 件のコメント:

  1. 今日からニートの女と歩く(4点)

    【句評】
    ◎「きっと何処かで起こっている筈の出来事ですが、この句を読むまで忘れてました。まさに盲点」
    ◎「『今日から』と『ニートの女』という言葉の組み合わせを眺めているうちに、この『女』は“子育てを終えた女性”を指しているのではないかという思いに至った時に、『女』へ気持ちを素直に表せない男の照れが見えました。そして、その女『と歩く』。きっと、ずっと歩いていく。一組の夫婦の、夫視点からのドラマを見たような気持ちです。そういうドラマ、僕は好きです。多分にロマンチックな解釈だとは思いますが。律も4・4・4と来て3と来るので、解釈と合わせてイージーリスニングのような安心感をおぼえました」

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  2. たった一つのめしを食う夜(3点)

    【句評】
    ◎「わびしさの中に無頼な印象を受けました。ただめしを一つと言うのか疑問です」
    ○「この人の『めし』は、これから何度も出て来るのでしょうが、どこまでも『一つ』なんですよね。広がりの無い食事のさみしさが辛いです」

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    1. 作者です。
      まずは、特選、並選いただきありがとうございます。

      で、早速言い訳をしますが、「めしを一つと言うのか」という疑問については、それは仰るとおりで僕も最後まで迷っていました。
      とは言え、この句においては並選に入れていただいた方が仰るような「広がりの無さ」を表したく、であるならば「一つ」という言葉が適当であろうという自分なりの結論もあり、且つ僕自身の食事が丼一つで済むことしばしばということもあり、結果としてこの形に落ち着きました。

      そろそろ健康について考えてみよう、と思っている今日この頃です。

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    2. いや、「めし」を「一つ」という数え方で抽象化というか概念化するのは面白いと思いましたよ。
      これが「二つ」だと恋人、「三つ」だと家族、「十」だとビッグダディ。

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    3. あ、ちなみに私が並選でこの句を取りました。

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  3. 意を決して出るあたたかい雨だ(3点)

    【句評】
    ○「冷たいとばかり思っていた雨が意外とあたたかかった。物事はやってみないとわからない。勇気づけられる句です」
    ○「傘はどうしたのだろうか」
    ○「誰にでも思い当たるふしのあるトリビアルな句。見落としがちな小さな発見に“おっ!”と驚かされる」

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  4. 日付けをとり替えて暮れる(2点)

    【句評】
    ◎「夕暮れ時の居間でのひとときを想像した。日々の暮らしぶりがこめられている」

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  5. ひみつ基地に妹忍び込んでいた(2点)

    【句評】
    ○「『ひみつ』と平仮名なところが、子供の頃の思い出なんでしょうか、可愛らしい印象を受けました」
    ○「これはもう、単純にこの情景が好きです。忍び込んでいた妹も、それを見つけた兄も、どちらもかわいらしい。もう少し言うと、『ひみつ基地』というものは絶対的に男子を象徴するものだと思うのですが、そこに女子という異物である妹が入り込んでいるということの緊張感。それが6・4・6・2、または6・4・8の律に乗ることで更に緊張感が煽られ、そしてその後の波乱も感じさせられます。ですが、内容が内容ですので結果ほほえましくなるという辺りが童話的というか、絵本や児童小説の安心感に似ている気がします。そして、その安心感と同時に、そう感じるようになってしまった自分が寂しくもある。童謡のような句だなと思いました」

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  6. ポンと出た月がまあるい(2点)

    【句評】
    ○「不意にある月は美しい。簡潔ないい句です」
    ○「『ポン』という音の表現が決め手」

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  7. 貧乏を揺すって桜を見上げる(1点)

    【句評】
    ◎「貧乏ゆすりと貧乏がかぶっているのかと思いますが、ここは貧乏という状況を採りたい。桜はゆすれば散るかもしれない。貧乏ゆすれば何が出るのかな?桜のような美しい思いを感じました」
    ●「『貧乏を揺すって』とは貧乏揺すりのことでしょうか?その辺が曖昧でしたので逆選とさせて頂きます。具体的な説明をお願い致します」

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  8. 春の雨の軒下の知らない猫と居る(1点)

    【句評】
    ◎「剰な演出なども無く、淡々とした景の描写でありながら、そこからほのかに作者の心情が感じられてくる。シトシトと降り続く『春の雨』に、『知らない猫』と二人っきりで『居る』作者が共鳴し合い、春愁のアンニュイな空気を醸し出す」
    ●「恐らく僕の側に問題があると思いますが、『の』の使い方に少し引っかかりを感じました。恐らく響きを重視したんではないかと思うのですが、かえってそこのところでうまく飲み込めませんでした。『春の雨の軒下』で、『居る』と、景色が落ち着いているだけに、『春の』『雨の』『軒下の』と3・3・5のリズムで来たことで妙にそわそわしてしまい、最後の『居る』に着地し損ねてしまったような気もします。景色全体ではなく、『知らない猫と居る』自分にフォーカスするとそのそわそわが気まずさに感じられていい味だと思うのですが。あ、そういうことなんでしょうか。ぜひ皆さんの意見、または解釈を聞いてみたいです」

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    1. どうも作者です。
      特選と逆選をいただいて、面白いと感じましたし、正直嬉しくもあります。
      この句はある事実に基づいて作っています。
      帰り道の途中、雨が降った。
      商店の軒下に雨宿りをしたら猫が居た。
      「の」の3連発ですが、すべて情景のコマ送りのように使いました。
      春→雨→軒下→知らない猫と言う流れ。
      居るのはこの場合私でしたが、他人でもこの句のように詠めます。
      句意的には、春の雨に猫と雨宿りをしている。
      ただそれだけですね。
      特選に入れてくれた方が仰るとおりで、「春の」とつけたところに仄かに想いを込めたつもりです。
      滅多に雨宿りなんかもしないので、非常に気になった事柄でした。
      逆選の句評にありました「3・3・5のリズム」は、言われてみて初めて意識をしました。
      僕はリズムありきでは句を作ってはおらず、そこに違和感を覚えられたんだと言う事が分かりました。

      実際この「の」は、私の所属している「海紅」では、今でも使われている技術でもあります。
       夜の菜の花の匂い立つ君を帰さじ   一碧楼
       又隣のドラ声の夕べの真ツ白な月だ  碧梧桐
      古い句を引きます。

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    2. 私も「の」助詞で言葉を繋ぎ、口唱性を高める技術はよく使います。五・七・五の定律を捨てた自由律は韻文である為に、やはりどこか『うた』としての口唱性や、韻を意識する必要があるのではないかと思います。とはいえ、そんな事ばっか気にして句を作ってる訳じゃないですけどねw

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    3. 手ずからの解説、ありがとうございます。
      逆選とはしたんですが、仰る通り理由はリズムへの違和感だけでしたので、今回解説を読んで「コマ送り」という表現に解釈・想像が至らなかった自身の不明を今更恥じています。

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    4. 風狂子さん、寝覚さん
      リズムありきで作っていないと申しましたが、優先順位の問題だけで、韻と言いますか、言葉のリズムと言いますか、これらが大事なのはよく分かります。
      でも改めてご指摘いただいたので、ほんとに嬉しかったです。
      どうもありがとうございます。
      今後ともよろしくお願いします。

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  9. 片目の伯父を父は見るなと(1点)

    【句評】
    ○「タブーの話。片目に限らずいろいろありますが、それらをひっくるめていると思います。実際の話でしょうか」

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  10. 貸した本から落ちて陰毛(1点)

    【句評】
    ○「陰毛の守備範囲にはいつも驚かされます。こういった句はこれからも読みたいです」

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  11. 春の麗らの万年床の下のカビ(1点)

    【句評】
    ○「男の一人暮らしをよく詠んだ。しかしいい加減、布団を干すべきだと思う」

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  12. 道暗くやけに黄色の濃い満月だ(1点)

    【句評】
    ○「月が黄色というのは普遍的なイメージだと思うのですが、そこで更に『やけに』『濃い』としたことで、月の明るさはもちろん道の暗さも引き立って、侘び寂びのにおいを強く感じます。そしてそれだけに留まらず、月の色を『黄色』と念押しされたことで、全体的にモノトーンの風景の中に『やけに黄色の濃い満月』が鮮やかに浮かび上がり、あたかもモダンアートのような景色が見えました。その景色が5・7・7という強固な律に乗っているので、これはもう句というより画だな、と。ポスターにして部屋に飾りたいくらいです」

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  13. マルクスの詩集だよかわいいね(-4点)

    【句評】
    ●「私が無学の為か意味不明です。韻律も弱い」
    ●「マルクスに詩集ってあるのかどうか分かりません。あったとしても、マルクス主義が『かわいい』と合うかどうか分からないので選びました」
    ●「『マルクスの詩集』と『かわいいね』のつながりがわからなかった」
    ●「定型俳句の若い人達が詠んでいる様な句。何となく狙いどころが解らないでもないが、残念ながら、その狙いが成功しているとは言い難い」

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    1. はいどうも。逆選王の藤井雪兎です(笑)

      マルクスはあの「資本論」で有名なマルクスです。
      彼は実際に詩集を出してるんです。ホントに。
      私は別に左の人間というわけではありませんが、
      世界中の人々を良くも悪くも大きく動かした彼が若い頃に詩を書いていたと知った時、「かわいい」と思ってしまったんです。

      まあ弁解しているみたいなので(笑)この辺にしときます。

      ちなみに、「定型俳句の若い人達が詠んでいる様な句」という句評はまさにその通りです。
      それを意識してこの句を書きましたから。
      でも今回の句会の結果で色んな事がわかりました。
      句評、誠にありがとうございました。

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    2. どうもこんばんは。
      この句は雪兎さんでしたか。
      マルクスに詩集があるとは、知りませんでした。
      ちなみに僕も御句を逆選しました...(汗)

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    3. 渋谷さん今晩は。そうです私です(笑)
      まあ…ある意味この句は、この「鉄塊」という場を試す目的もありましたから悔いは無いです。
      あと、昨今の「あまりに現代的な」定型俳句に対する反証のようなものも欲しかったのでお気になさらず(笑)

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