2013年12月30日月曜日

鉄塊第五回VT句会選句選評結果



▽最高得点句

フタの裏に有る静寂  (11点)【中筋祖啓】



▽部門ごと上位句

【自由律俳句】(4句)
フタの裏に有る静寂         (11点)【中筋祖啓】
子の掘った穴の深い小春日      ( 8点)【藤井雪兎】
ちいさなカフェにみっしりクリスマス ( 7点)【遠藤みつまめ】
友達ができた冷たい泥        ( 6点)【地野獄美】

【定型俳句】(3句)
冬うらら鳥の切手が水の上      ( 6点)【タケウマ】
矢印の通りに行けば死亡する     ( 5点)【中筋祖啓】
新年がプリンターからぞろぞろと   ( 5点)【木曜何某】

【題詠句(兼題「愛」)】(2句)
愛人にするなら誰だ童貞ども     ( 3点)【ゆなな子】
愛された目が死にたがる雪催     ( 3点)【地野獄美】

【コンプリート句】(◎と○と●のすべてを獲得した句)(1句)
おたまじゃくし太陽はこわいもの   ( 1点)【十月水名】
◎○●●△△△



▽個人別合計上位者

中筋祖啓   (15点)
遠藤みつまめ (12点)
藤井雪兎   (11点)
木曜何某   (10点)
馬場古戸暢  ( 9点)
地野獄美   ( 9点)
タケウマ   ( 9点)
うぐいす   ( 8点)



▽互選集計結果

フタの裏に有る静寂                 (11点)◎◎◎◎○○○△△
子の掘った穴の深い小春日              ( 8点)◎◎○○○○△△
ちいさなカフェにみっしりクリスマス         ( 7点)◎◎○○○△△
友達ができた冷たい泥                ( 6点)◎○○○○△
冬うらら鳥の切手が水の上              ( 6点)◎○○○○△
矢印の通りに行けば死亡する             ( 5点)○○○○○△△△
新年がプリンターからぞろぞろと           ( 5点)◎○○○△
車窓いつまでも結露おび無言ばかりで罪人として帰る  ( 4点)○○○○
ひとりの酔漢が受験生に手を合わせ          ( 4点)◎○○△△△
木の葉ふるふる生足がいる              ( 4点)◎○○△△△
警官がしめつて走る冬の原              ( 4点)◎○○△△
寒き夜や飯島愛の無修正               ( 4点)◎○○△△△
謎解きの佳境となりて虎落笛             ( 4点)◎○○△
宇宙船ちょっと圧縮ミルフィーユ           ( 4点)◎◎△△△
本のカバーに年末のメモがいそがしい         ( 3点)○○○△△△
もうあなたの声聞こえない夜へ風花          ( 3点)◎○△△
灯り消しておんなの唇が赤い             ( 3点)○○○△△△△△
来る来ない来る来ない来る来ない雪が降る       ( 3点)○○○△△△
川に浮いた笹舟すくってほどく            ( 3点)○○○△△
父さんの真っ黒な肺年暮るる             ( 3点)○○○△△
すべて投げ出して逝った父の干支くる         ( 3点)○○○
そういえば死ぬのはやっぱり春にした         ( 3点)○○○○○●●△△
一人居へ帰る冬田の三枚目              ( 3点)◎○△
マウンドで和尚の孫の崩れ落ち            ( 3点)○○○△△
ささくれをゆっくりむいて深い傷           ( 3点)◎○△
愛人にするなら誰だ童貞ども             ( 3点)○○○△△△
愛された目が死にたがる雪催             ( 3点)○○○
バルーンライトが夜を裂く外で働く人まだ働く     ( 2点)◎△△
あなたの眉毛だけしか見えない後部座席        ( 2点)○○△△△△△
片目がムツゴロウさんに繋がっている梟        ( 2点)○○△△
ゼリー食う友の話は聞き流し             ( 2点)○○△△
土曜日のネガティブ思考ブロツコリ          ( 2点)○○△△△
愛歌ふ美輪明宏は有袋類               ( 2点)○○△△△△
愛してもらえるはずの明日へ眠る           ( 2点)○○△△
電子音の愛の歌で泣く俺じゃなかった         ( 2点)○○△△
夜を売る人に言う「ご自愛ください」         ( 2点)○○△△
愛の名においてパンツを脱ぎなさい          ( 2点)○○△△
怪談を語るように愛語る口              ( 2点)○○△△△△
愛人は水子参りだ突っ立って待つ           ( 2点)○○△△△
私を洗濯する湯に浸かる               ( 1点)○△△△△△
おたまじゃくし太陽はこわいもの           ( 1点)◎○●●△△△【コンプリート句】
国会議事堂前 奥歯疼きけり              ( 1点)○△△△
霊媒師の脳挫傷を数理的に追放            ( 1点)○○○●●△△
空っ風吹く手をつないでゆく             ( 1点)○△
あとはボタンを押すだけ               ( 1点)◎●△△△
寒昴のぞみは遠く過ぎ行きて             ( 1点)○△
裸木に鳥の集ひて凌遅刑               ( 1点)○△△
鬼百合や悪性リンパ腫体験記             ( 1点)○△△
みちみちと 厚着の群に 上野行き           ( 1点)○△
愛しさは冬ざれた瀬のうちに似て           ( 1点)○△
薬缶冷え切る前の高倉健氏              ( 1点)○△
冬うらら破滅の男語るカフェ             ( 1点)○△△
だんご虫とひろげた手 寡黙に愛あかい         ( 1点)○△
湯豆腐や愛を語れど語れども             ( 1点)○△△
二次元の君を愛せば寒き尻              ( 1点)○△△△△
噛んで噛んで味のなくなった君をなほ愛す       ( 1点)○△△△
クリスマス大事なことはよそでする          ( 0点)○●△△△△
行く年の字幕で見たるコントかな           ( 0点)○●△
寒いから早く殺してまた吹雪く            (-1点)○●●△△
陰口の中に有る愛情                 (-1点)●△△△△
親に愛されず声の出ないカラスよ           (-1点)●△△△
愛しい貴女で鼻毛だ                 (-2点)○●●●
13日の金曜女房は飛行機でどっかに行く落ちれば幸運 (-2点)●●△△△
愛してる言い過ぎるから嫌われる           (-3点)●●●△△△△△
デカチンポ焼いて捨てて多数決で愛して        (-3点)●●●△△
思い出は愛に変質した                ( 無点)△△
遺影焼いても祖母にはずっと祖父がいる        ( 無点)△△
拝啓おり姫浮気は順調ですか             ( 無点)△△△△
足元びっちゃびちゃになるなら冬           ( 無点)△△
寒月や龍模っておる舳先               ( 無点)△
コッホ雪片曲線愛ある愛の営みは           ( 無点)△
愛妻弁当の重み確かめる始業前            ( 無点)△△△△
岩塊になった愛にしがみつく             ( 無点)△△△
愛玩の意味を知ってか睨む猫             ( 無点)△△△
何度でも愛してしまう笑顔を写真にのこしていった   ( 無点)△
冬濤をテレビ画面の愛人へ              ( 無点)△△
犬種の異なる二匹の間に兄弟愛めばえ         ( 無点)△△
知らなくても困らないカマキリモドキを愛す      ( 無点)△△△

(以上、78句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



▽作者発表(投句順)
上から次の順に掲載
「自由律俳句」
「定型俳句」
「題詠句(兼題「愛」)」


【y4lan】
霊媒師の脳挫傷を数理的に追放
宇宙船ちょっと圧縮ミルフィーユ
デカチンポ焼いて捨てて多数決で愛して

【馬場古戸暢】
木の葉ふるふる生足がいる
一人居へ帰る冬田の三枚目
愛してもらえるはずの明日へ眠る

【なかやまなな】
片目がムツゴロウさんに繋がっている梟
薬缶冷え切る前の高倉健氏
愛歌ふ美輪明宏は有袋類

【十月水名】
おたまじゃくし太陽はこわいもの
警官がしめつて走る冬の原
知らなくても困らないカマキリモドキを愛す

【中筋祖啓】
フタの裏に有る静寂
矢印の通りに行けば死亡する
陰口の中に有る愛情

【鈴木桃子】
あなたの眉毛だけしか見えない後部座席
土曜日のネガティブ思考ブロツコリ
犬種の異なる二匹の間に兄弟愛めばえ

【ちとせ】
足元びっちゃびちゃになるなら冬
寒月や龍模っておる舳先
湯豆腐や愛を語れど語れども

【藤井雪兎】
子の掘った穴の深い小春日
マウンドで和尚の孫の崩れ落ち
愛妻弁当の重み確かめる始業前

【北大路京介】
国会議事堂前 奥歯疼きけり
鬼百合や悪性リンパ腫体験記
親に愛されず声の出ないカラスよ

【遠藤みつまめ】
ちいさなカフェにみっしりクリスマス
そういえば死ぬのはやっぱり春にした
夜を売る人に言う「ご自愛ください」

【畠働猫】
バルーンライトが夜を裂く外で働く人まだ働く
すべて投げ出して逝った父の干支くる
何度でも愛してしまう笑顔を写真にのこしていった

【うぐいす】
灯り消しておんなの唇が赤い
父さんの真っ黒な肺年暮るる
愛の名においてパンツを脱ぎなさい

【風呂山洋三】
私を洗濯する湯に浸かる
謎解きの佳境となりて虎落笛
愛しい貴女で鼻毛だ

【琳譜】
車窓いつまでも結露おび無言ばかりで罪人として帰る
愛しさは冬ざれた瀬のうちに似て
だんご虫とひろげた手 寡黙に愛あかい

【タケウマ】
もうあなたの声聞こえない夜へ風花
冬うらら鳥の切手が水の上
コッホ雪片曲線愛ある愛の営みは

【木曜何某】
本のカバーに年末のメモがいそがしい
新年がプリンターからぞろぞろと
電子音の愛の歌で泣く俺じゃなかった

【ゆなな子】
愛してる言い過ぎるから嫌われる
寒き夜や飯島愛の無修正
愛人にするなら誰だ童貞ども

【前田 獺太郎】
ひとりの酔漢が受験生に手を合わせ
みちみちと 厚着の群に 上野行き
愛玩の意味を知ってか睨む猫

【雪うさぎ】
来る来ない来る来ない来る来ない雪が降る
寒いから早く殺してまた吹雪く
噛んで噛んで味のなくなった君をなほ愛す

【山崎智佐】
川に浮いた笹舟すくってほどく
クリスマス大事なことはよそでする
岩塊になった愛にしがみつく

【小笠原玉虫】
空っ風吹く手をつないでゆく
冬うらら破滅の男語るカフェ
愛人は水子参りだ突っ立って待つ

【けいてん666】
あとはボタンを押すだけ
裸木に鳥の集ひて凌遅刑
二次元の君を愛せば寒き尻

【圓哉】
思い出は愛に変質した
寒昴のぞみは遠く過ぎ行きて
13日の金曜女房は飛行機でどっかに行く落ちれば幸運

【めけ】
遺影焼いても祖母にはずっと祖父がいる
ささくれをゆっくりむいて深い傷
怪談を語るように愛語る口

【柚子子】
拝啓おり姫浮気は順調ですか
ゼリー食う友の話は聞き流し
冬濤をテレビ画面の愛人へ

【地野獄美】
友達ができた冷たい泥
行く年の字幕で見たるコントかな
愛された目が死にたがる雪催

以上26名



※今回参加者のうち、「y4lan」さん「ゆなな子」さんについては投句のみのご参加で、選句選評はいただけなかった。



▽以下、コメント欄に参加者選評を掲載する


2013年12月25日水曜日

今年一年を振り返る


馬場古戸暢の場合


・自選五句
春風の寝湯に浮かぶ
すれ違う赤子が咳をした
子の声して麩が散る池
亀の顔出る波紋
蚊がおる秋のテラスにおる

・他選五句
雪が雨になって夜はこんなに暗かった
やすい肌に埋ずまる
小さな手のまま老いる
いっしょのみちはみじかいゆうぐれ
墓の花挿しの熱い水を捨てる

※総評
自選五句は、鍛錬句会に投句したものより。
他選五句は、記憶に残っていたものより。いずれの句も、私の日々の暮らしのうちに息づいている。


小笠原玉虫の場合


【自選五句】
墓の花挿しの熱い水を捨てる
空き家の窓の夜より暗く
先に寝てしまった雨強くなる
ロキソニン飲んで今日はまだ木曜
有休とって芯まで腐っている

【他選五句】
抱きしめられ剃刀の落ちる  藤井雪兎
雪が雨になって夜はこんなに暗かった  畠働猫
膿み月に千鳥足がゆく  畠働猫
この雨は新宿の地下水となる立ち止まる  藤井雪兎
まだ死ねず透けるまで米研ぐ  地野獄美

※総評
今年の三月から参加させて頂いております。
アぽろんで楽しくやっていたのですが、当初の想像以上に俳句を好きになってしまい、もっと厳しい場所に身を置いてみたいと思ったのが入会のきっかけでした。
想像以上に厳しい場所で、毎月オロオロしながら投句させて頂いておりますが、怖いと同時に素晴らしい刺激を受けて、すっかりやみつきに。
こうして見返してみると、ちょっと分かってきたかな?などと思い始めた5?8月の句が一番酷い。赤面物です。
自選は、そんなボロボロな私ですが、比較的評判がよくて嬉しかったものを集めてみました。
他選は、鍛錬句会の度にほかの鉄塊衆の皆様の句が素晴らしくて、毎回酷くショックを受けているのですが、中でも、選句表を再読することさえ怖くなった良句をあげさせて頂きました。
雪兎さんは「蒸留された情念」とでも言いたくなるような澄んだ表現が好き。
働猫さんは独特の水気を含んだ豊饒なエロスが好き。
地野さんは一見クールな表皮の下の、冷たい炎とでも言いたいような激しさが好き。そして選評も素晴らしい。鉄塊の選評のレベルがぐっとあがったのは、地野さんのおかげだと考えております。
鍛錬句会で鉄塊衆の皆さんの新作を拝見するの、毎回とても楽しみにしております。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。



風呂山洋三の場合


【自句五選】
裸の木の掴もうとする空の夢
庭の真ん中紅く紅く紅く山茶花
初めての空泳ぐ真鯉は俺だ
これはA型の青田だ列の乱れのない
隣の庭の薔薇を覗く冬の俳人です

【鉄句五選】
君と僕しか知らない炬燵の下である 知宏
生足増えて春はもうすぐ 古戸暢
電話鳴るたび電話代お安くなる話 鴨芹
腕前のいい人を呼び止める採血室 玄齋
離婚届出してきた並玉子味噌汁 雪兎

※総評
自句は海紅から。上の四句はいずれも海紅編集部薦のもの。五句目は今月の海紅俳三昧での句です。山茶花の句が一番のお気に入りです。
鉄句は私が参加する前の四ヶ月分から選びました。T宏さん、古戸暢、鴨芹さんの三句はどれも日常のひとこまを巧みな観察眼で切り取った句だと思います。また、玄齋さんの句に関しても、恐らくは彼にとってのありふれた日常なのではないでしょうか。逆に、非日常的な状況のなかに日常を持ち込んだのが雪兎さんの句。いずれも唸らずにはいられない秀句です。私もこんな句が詠めるよう精進していきます。来年も宜しくお願い致します。



藤井雪兎の場合

(自選五句)
抱きしめられ剃刀の落ちる
離婚届出してきた並玉子味噌汁
いただきまテーブルを叩く
土下座の頭に蚊の止まる
ウルトラマンの尻ばかり見ている夜長

(他選五句)
誰に会おうと普通になった故郷だ (中筋祖啓)
別れを惜しむ二人の間を駆ける俺だ (馬場古戸暢)
着飾って股開いて眼が死んでる写真を見ている (小笠原玉虫)
のれんの奥の懐かしい声ひと呼吸置く (風呂山洋三)
秋の朝からみんな鼻血出とるで (十月水名)

※総評
今年はひたすら句のリアリティについて考えていた年でした。私にとってリアリティのある句が他の方にとってはそうでもないという厳然たる事実を突き付けられる度に、まだまだ自分は人間や世界の「核」、あるいは「骨組」のようなものに届いておらず、同時にまた、季語を使わないのであれば、俳句の理想の境地はそのような「絶対的な理(ことわり)」なのではないだろうかと考えるようになりました。
また今年は、訳あって鉄塊を退会される方や、お休みされる方もおりましたが、新しく畠働猫さん、小笠原玉虫さん、風呂山洋三さん、地野獄美さん、そして十月水名さんにご参加いただき、鉄塊、そして自由律俳句の広がりを強く意識した年でもありました。来年は自分の理想の句境を目指すと同時に、それが果たして本物かどうかを、他の鉄塊衆の皆様との句会を通じて確認していきたいと思っております。



十月水名の場合


◇自選五句
・県境のホテル・ジュ・テームあかとんぼ
・秋風よ傾ゐてゐる芹明香
・吉田なら吉田でいいや花曇
・だだっ広い野原があって野比のび太です
・もう折れないくらい白い紙を折りたたみながら夜を待つ

◇他選五句
・何のおまつりかは関係ない犬がきた 【渋谷 知宏】
・少しつめたいからだ出てった春の朝はやく 【天坂寝覚】
・ひかりのなかでおもいだすひかり 【藤井雪兎】
・この公園は制圧されたモデルガンの子供たち 【風呂山洋三】
・死んだのは妹の方です服を脱ぐ 【藤井雪兎】

※総評
 「鉄塊」入会(十月)後、自由律を意識して作り始めたので、自選は有季定型の方が多くなってしまいました。ご容赦を。振り返ると自分は固有名詞が好きなんだなとあらためて感じました。固有名詞の長短には作句の際、かなり振り回されましたが「県境の」「秋風よ」「だだっ広い」はどうにかまとまったかな、と思っています。
 他選五句は、ぶっそうだけどどこかユーモラスというか、寂しくてナンセンスなものが多いような気がします。特に「何のおまつりか」「死んだのは」は、意味はよく分からない。でも口をついて出てきそうな句です。この微妙な分からなさが寂しさなのかな、なんて思った次第です。




中筋祖啓の場合


自選5句
・雪が降るようにしてねらう
・感傷にひたってばかりもいられない
・ただ単に一人になりたい時がある
・ほうれんそうの神様の爪の垢を煎じて呑みたい
・虹色に暮れてゆくのが農村だ

他選5句
・いただきまテーブルを叩く 藤井雪兎
・異動する部下のあいさつ冷静な俺でいた 風呂山洋三
・無頼派からお中元がきたよ 松田畦道
・失い終えた者から、もう帰ってよい 畠働猫
・なんか言って果てたセミ 渋谷知宏

※総評
今年一年を振り返ってみましたところ、一番良かった自句は「雪が降るようにしてねらう」でした。
どうも、この句が無性に良かったようです。
自選のそれ以外の4句は、内容的にどうしても外せない物を残していったらこうなりました。
他選5句は、なぜか、記憶に残ったものを残していったらこうなりました。全体的に、思い込みを手放す瞬間をとらえた句が選句されたように思います。
今年一年を振り返りますと、スカイプを通じて古戸暢さんの生態系を知ることができた事と、また、働猫さんの人生観に、色々と考えさせられた事とが印象的でした。
また、地野さんと遭遇し、屍派について直面する必要が出てきました。来年は、これに取り組んでみたいです。


畠働猫の場合


【自選】
 雪が雨になって夜はこんなに暗かった (働猫)
 膿み月に千鳥足がゆく (働猫)
 吐息かさねて月を研ぐ (働猫)
 失い終えた者から、帰ってよい (働猫)
 まだある鼓動聞いて眠る (働猫)

【他選】
 ひび割れた眼鏡で時間通りに来た (藤井雪兎)
 後は土になる花があかい (天坂寝覚)
 もう動かないひとを乗せてサイレンが優しい (松田畦道)
 はばたいたミサゴは必ず次へ行く (中筋祖啓)
 墓の花挿しの熱い水を捨てる (小笠原玉虫)
 合わす手の隙間から風冬が来る (タケウマ)

※総評
 自選については、鍛練句会・VT句会に出したもののうち、気に入っているものを。
 何度か最高得点句となったものはあったが(自慢)、そのうち自分でも納得できているのは、「雪が雨になって夜はこんなに暗かった」1句のみ。
 これは「できた」句であり、同様に「できた」ものは今までに数えるほどしかない。
  その他4句については、得票こそ少なかったものの、自分では気に入っているものである。
 こうした句に、参加者中でたった一人、注目してくれていたりすると、とてもうれしい。
 わかってもらえた、伝わった、という気持ちになるからだ。
 しかし、振り返ってみると自分の好みと他者選はなかなか一致しないものである。
 「トリケラトプス」の句など、自分では本当に好きな句なのだが。
 
 他選については、鍛練句会で特選にとったものの中から、特に印象深いものを選んだ。
 鉄塊所属者の句より5句。
 また、第十九回句会においてご招待した「タケウマ」氏の句から1句。

 ▽「ひび割れた眼鏡で時間通りに来た (藤井雪兎)」
 雪兎句には、こうした少年ジャンプ的コミカルさが表れることがある。
 それはそれで好ましく、こうして特選にとっていたりするのだが、この1年を通じて感じているのは、彼の本領はそうした句ではないということである。
 人によっては「怒り」と表現するであろう、「未来への咆哮」のようなものこそが、藤井雪兎の本領であろうか。

 ▽「後は土になる花があかい (天坂寝覚)」
 私の鉄塊加入のきっかけが、この寝覚による勧誘である。
 誘っておいて自分は抜けるという、性質の悪さをここで暴露しておくべきだろう。
 ともあれ、この1年は鉄塊に参加して、さまざまなものを得ることができた1年であった。
 そういった意味で、寝覚には深く感謝している。
 寝覚句についての他者評を見るに、そこにはある種の「諦観」が読み取られることが多いのではないか。
 しかし自分は彼と連れ句を交わす(極めてストイックな)行為の中で、もう少し違う印象を抱いている。
 寝覚句には「自他の間にある違和に気づいてしまう繊細さとそれを諦めきれない純粋さ」がよく表れるように思う。
 それは言いかえるならば「世の中に拗ねている子供」ともいえるかもしれない。
 挙句においても、「後は土になる」という無常に一見納得しているようであるが、あくまでも今注目しているのは、その花の「あかさ」(赤、明るさ)である。
 しかしそれをただ単純に愛でることができず、同時に「どうせ失われてしまう」と傷ついてしまうのである。

 ▽「もう動かないひとを乗せてサイレンが優しい (松田畦道)」
 私が鉄塊に参加することを決めた理由の一つが、畦道の存在であった。
 ツイッター上に流れる様々な句の中で注目していた方であり、その「知性に根ざした静寂」には、鉄塊に参加する前から強く惹かれていた。
 寝覚同様、今現在ともに鉄塊の句会を持つことはないが、今後とも注目したい存在である。

 ▽「はばたいたミサゴは必ず次へ行く (中筋祖啓)」
 祖啓句の独特な世界がはじめは理解できなかった。
 しかし北海道岩見沢での邂逅により、その作句の背景にあるもの「原始の眼」を知った。
 祖啓句の特徴は「原始の眼による世界の再構築」であろう。
 自分の「末期の眼」とは異なる視座であり、そこから紡ぎだされる世界は非常に興味深い。
 のみならず、挙句は非常に前向きで雄々しい。イケメン句であると思う。

 ▽「墓の花挿しの熱い水を捨てる (小笠原玉虫)」
 玉虫句には「溢れ出てしまう抒情」を感じる。
 時としてそれは「語りすぎ」「冗長」となってしまう場合もあるが、挙句のように、それを語らないことに成功したとき、名句が生まれるようだ。
 しばしば悲観的・破滅的とも思えるような、その女性らしい感性・情緒は、語らずとも句の背景に黒々と渦巻いて、溢れ出ようとしている。
 それをコントロールできれば、常に名句が作れるのだろうが、それを意識した途端、つまらない自己模倣に陥ってしまうかもしれない。
 難しいものである。がんばってください。

 ▽「合わす手の隙間から風冬が来る (タケウマ)」
 鉄塊所属以外の創作者の中で、自分が注目している一人であり、ご招待した第十九回鍛錬句会では、まさにタケウマ無双のご活躍であった。
 タケウマ句の魅力はこの句に見られるように「二物笑撃に隠した甘やかさ」である。
 ご自身が「俳句は何も考えずに作れるから好き」と語られるように、その句では取り合わせの妙・おかしみを発見・表現した句が多い。
 しかしそうした句群の背景には、こうした甘やかさが見え隠れする。
 以上

 

地野獄美の場合


自選五句

抑える手も震える手である
壊れた友を横から叩く
歌、隙間風より小さく
謝れない男に外から鍵かける
最後の石がずっと燃えている星空

他選五句

十年後に完成するはずの廃墟  玄斎
『いい歳して、廃墟に暮らしたいなんて思いはさすがにもうない。でも、どこかでずっとあの廃墟をうらやましいと思っている。廃墟はすべて、忘れられた誰かの居場所だ。そこには、理由あって捨てられた愛着と暮らしがある。未完の廃墟……着工されてなお置き去りにされたあの姿を、そう詠むか。なんという喚起力』

事故車の隣で笑顔だ  雪兎 
『あまり詳しくは書けないのだが、若いころに高速道路で車が中央分離帯に横転してのりあげる大事故をおこした。本当に、見る影もない愛車を廃車置場で見たとき、なぜだか笑いがこみあげてきた。笑えたのは、きっと生きていたからだろう』

この店に決めた夏のにおいのする  洋三
『匂いで選ぶ。その繊細な感覚。夏の匂いを想像する。青葉の道に混じる海の匂い。人それぞれにあるちがう匂いの記憶に訴えかける』

地球儀を指で止めてここへ行きたいここで死にたい 畦道
『死に場所くらい自分で選びたいけど、いますぐ死にたいわけじゃない……そんなときに便利なのがこの、地球儀!』

墓の花挿しの熱い水を捨てる 玉虫
『替えている水の温度に、長かった一年のことを思う。あるときは冷たく、あるときは熱く。誰が来て、誰が去ったか。注ぎなおして透き通るこの水もまた、捨てられた水と同じ水だ』

 今年の感想

今年から共に鉄塊で自由律を探求することにした地野です。
ちゃんとご挨拶もできないまま、日々が過ぎてしまいましたが、こうしたかたちでみなさんの過去の句に目を通す機会をいただけたこと、うれしく思います。自分の句の方は、まだはじめたばかりで数も少ないですが、やはり定型俳句ではなく、自由律の中から選びたいと思って、選びました。みなさんの句も、本当に選ぶのに苦労しましたが、選んだものはもちろんのこと、最後まで自分が選べなかった句の方にこそ、まだ見ぬ自由律の奥深さや秘密があるのだと思っています。世間知らずですが、来年もよろしくお願いいたします。
 

2013年12月14日土曜日

中塚一碧楼を読む~その三

中塚一碧楼の句の観賞です。

わが霧に濡るるおもてをあげる
何やら決意めいたものを感じます。ウ音便の効果でしょう。終止形で止めることで力強さが増しています。印象鮮烈な句。

秋の日の日中の野の石のぬくみ
確かに秋晴れの日には、石が温かく感じるものです。着眼点が素晴らしい句です。ここでの「の」の重ねは効果的かどうか、もう少し考えたいところです。

TRUKのような浴場が欲しい場末の秋だ
「TRUK」はトルコ。どうやらトルコ式の蒸し風呂のことのようです。珍しく観念的な句です。

青い林檎を噛じる何という眼の鋭さだ
印象鮮烈。赤ではなく「青」。「眼の鋭さ」と相まってナイフのような切れ味の句です。

草にあそぶこどもたち秋の日のてり
秋の原風景。現代ではなかなか見られない光景かもしれません。何気ない日常のひとこま。そこに詩性が吹き込まれています。これは一碧楼の句の特色のひとつとも言えるでしょう。現代の海紅においても、それは受け継がれているように感じます。

それでは、今回はこの辺にて。

2013年12月4日水曜日

第五回鉄塊VT句会、開催致します

皆様お待たせ致しました。
おかげさまで5月に大盛況だった鉄塊VT(バーリトゥード)句会、
またまた開催致します!

鉄塊衆も一般のお客様も、自由律も定型も入り乱れての
何でもアリの俳句☆異種格闘技戦でございます。

奮ってのご参加、お待ち申し上げております……!!

今回は兼題アリ、
普段何かといかちぃイメージを持たれがちな我ら鉄塊でございますが、

まさかの【愛】で、一句、お願いいたします。

ピースな愛、紅蓮の愛、ドロドロの憎と隣り合わせの愛、
家族愛、はたまた、地球規模の博愛……
様々な【愛】で、きりきり舞いさせて下さいませ!!

以下、句会情報をご確認下さいませ。
味わい深い御句、心よりお待ち申し上げております……!!

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第五回鉄塊VT(バーリトゥード)句会 募集要項


【投句締切】  12月13日(金)

【選句表配信】  12月15日(日)

【選句締切】  12月23日(火・祝)

【発表およびブログ掲載】  12月31日(火)

【投句方法】

  以下を課題として、合計三句をご投句下さいませ。

  1)自由律俳句 一句

  2)定型句 一句

  3)兼題【愛】で一句(形式は自由律でも定型でも可)
        ※句の中に必ず「愛」を詠み込むかたちでお願い致します。


【投句先メールアドレス】

  vt.haiku@gmail.com

  ※件名を「第五回鉄塊VT句会投句」としてお送り下さいませ。


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鉄塊 小笠原玉虫拝





2013年11月29日金曜日

第十九回 研鑽句会


(最高得点句)
ゆき、純粋にふるときのピアノ無音(6点)



(6点)ゆき、純粋にふるときのピアノ無音◎◎○○△
(4点)胎内のようぬくい地下道そこから見えて夕焼地獄◎○○△
(4点)少年更けて蛇の皮のように長い靴下ぬぎすてるとき◎○○△
(3点)つきよのりんごのたねまでたべてしまった○○○△
(3点)見てはならぬものをみてしまった目が星を見ている◎○△△△
(3点)親がゆるしてくれないという女の口をすう◎○○●(コンプリート句)
(3点)ニュースをショックとする日本人の一人吊革をもつ○○○△△
(3点)だまされた私がそこから月夜になって出ていく◎○
(2点)てまくらを鳥のゆくえ◎○●△△(コンプリート句)
(2点)烏のように無口な男のみやげにくれた肉の赤さ○○△△
(1点)劇をみた子供たちが帰っていく幸福な雪道は月が照らす○△△△△△
(1点)夕日が檻の猛獣のあくびする赤き喉の中○△△
(1点)母を愛して吾を憎む父が咳しておられる○△△
(1点)やせこけたほっぺたにのびてゆくひげは春の草か○△
(1点)背徳の美酒として月光の石卓におかれ○△
(0点)点滴あがりからだすきとおりくるほどなつきよ○●△△
(0点)雪、りんごのほほの娘さんがわらってくれるここはロシア○●△△
(0点)笑いは右のポケットに涙は左のポケットに卒業してゆく◎●●△
(0点)獣の道をとおるほか人間になれぬ女のあわせ鏡○●△
(-1点)酒を苦しとしてのむときのはらわたなまこのごとし●△△△△
(無点)このまま死ねるなら死んでもとベッドに月のさしより△
(無点)病めばくぐつのように眼をひらき夜が去れば朝がくる△△△
(無点)テープ華やかな竜と舞うと船が冬海の寂蓼となる△△△
(無点)海の闇さが星をあらわにする吾が心の碇泊△
(無点)遠くで生きるというクリスマスのよるのかきおき△
(無点)シグナル常のごとく作動して正確なり十一月此の日△
(無点)沖縄かえる日水栽培よりひげ根出てほそき△



(以上、27句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆作者紹介

【平松星童】(1926~1987)

 本名 平松美之
 出身 東京
 慈恵医大予科 慶鷹大学国文科卒
 17歳で層雲に参加。
 以降、昭和24年まで、岡野宵火や滝山重三といった同年代の仲間とともに活躍した。
 同時期の千秋子らとともに「浪漫派」と呼ばれる。
 層雲を去ってからは、児童演劇や脚本執筆に専念した。
 昭和44年に層雲に復帰するが、活動期間は前後の期間を通しても10年足らずであった。
 昭和62年2月24日、心不全で死去。享年61。
 今回は、句集『青いスポット』より、全盛時代ではなく、
 層雲復帰後の作品として掲載された27句を取り上げた。
 以下に再掲する。



◆層雲復帰作品(昭和四十四年~昭和四十六年)

点滴あがりからだすきとおりくるほどなつきよ(昭和四十二年大病入院四句)
このまま死ねるなら死んでもとベッドに月のさしより
病めばくぐつのように眼をひらき夜が去れば朝がくる
つきよのりんごのたねまでたべてしまった
テープ華やかな竜と舞うと船が冬海の寂蓼となる(ソ連に行く三句)
雪、りんごのほほの娘さんがわらってくれるここはロシア
劇をみた子供たちが帰っていく幸福な雪道は月が照らす
笑いは右のポケットに涙は左のポケットに卒業してゆく(教師として)
てまくらを鳥のゆくえ
見てはならぬものをみてしまった目が星を見ている
夕日が檻の猛獣のあくびする赤き喉の中 (動物園)
海の闇さが星をあらわにする吾が心の碇泊
酒を苦しとしてのむときのはらわたなまこのごとし
胎内のようぬくい地下道そこから見えて夕焼地獄
ゆき、純粋にふるときのピアノ無音
少年更けて蛇の皮のように長い靴下ぬぎすてるとき (追憶十句)
母を愛して吾を憎む父が咳しておられる
親がゆるしてくれないという女の口をすう
遠くで生きるというクリスマスのよるのかきおき
やせこけたほっぺたにのびてゆくひげは春の草か
シグナル常のごとく作動して正確なり十一月此の日(三島由紀夫自刃二句)
ニュースをショックとする日本人の一人吊革をもつ
烏のように無口な男のみやげにくれた肉の赤さ
獣の道をとおるほか人間になれぬ女のあわせ鏡
沖縄かえる日水栽培よりひげ根出てほそき
背徳の美酒として月光の石卓におかれ (映画「サテリコン」)
だまされた私がそこから月夜になって出ていく


第十九回 鍛練句会


(最高得点句)

抱き寄せられて焼き芋の匂い(5点)
【タケウマ】
合わす手の隙間から風冬が来る(5点) 
【タケウマ】


(5点)抱き寄せられて焼き芋の匂い◎○○○△
(5点)合わす手の隙間から風冬が来る◎○○○△
(4点)雨で二軍に屋根がない◎○○△△
(3点)着ぐるみに儲け話ささやく◎○△△△△
(3点)おれだけの近道知らない犬が来た◎○△△△
(3点)洗濯日和となるがよい朝が近い◎○△
(2点)ほうきの先にある遠心○○△△
(2点)かかとを要点に反転◎△△△△
(2点)くしゃみの出るほど澄んだ夜空だ○○△△
(2点)ウルトラマンの尻ばかり見ている夜長○○○●△△
(2点)ロキソニン飲んで今日はまだ木曜○○△△
(2点)本買った日の晩飯はしっかりと噛む◎△△
(2点)濡れる路上の妻の待つ灯り○○△△
(1点)よごれた土地の売れない菜っ葉だ○△△△
(1点)河豚になったら敵も味方もないからな◎●△
(1点)抱いて寝たはずの犬がこちらに来ている○△△△
(1点)銀河だ穴掘る音音音○△△△
(1点)蚊がおる秋のテラスにおる○△
(1点)イヤフォン外させ道を尋ねる○○●△
(-1点)諦めず読む燃やされずにすんだ本●△△△
(-1点)しんしんと電気満ちゆく電気椅子●△△△△
(-1点)うなぎをマネすると素早い●△△△△
(-3点)白亜の土にやわらかくトリケラトプス光の素足●●●△△
(無点)犯された夜の続きの朝の挨拶△△
(無点)アフターファイブの面した女が香る△△△△
(無点)あけすけなおでんのたまごと真昼△△
(無点)干しもの取りこむサンダルの底冷たい△△△



(以上、27句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆招待者紹介

 【タケウマ氏】

 今回、初めての招待席制度利用で、タケウマ氏をお招きした。
 氏は、わたくし、働猫が敬愛する表現者の一人である。
 「自由律な会アぽろん」に所属されているが、自由律よりも定型句を得意とされている。
 自称俳句愛好家であるが、写真、音楽などその才能は多分野に及ぶ。



◆作者発表(投句順 編者除く)

【馬場古戸暢】
蚊がおる秋のテラスにおる
アフターファイブの面した女が香る
洗濯日和となるがよい朝が近い

【十月水名】
河豚になったら敵も味方もないからな
銀河だ穴掘る音音音
あけすけなおでんのたまごと真昼

【藤井雪兎】
本買った日の晩飯はしっかりと噛む
着ぐるみに儲け話ささやく
ウルトラマンの尻ばかり見ている夜長

【中筋祖啓】
うなぎをマネすると素早い
かかとを要点に反転
ほうきの先にある遠心

【小笠原玉虫】
抱いて寝たはずの犬がこちらに来ている
よごれた土地の売れない菜っ葉だ
ロキソニン飲んで今日はまだ木曜

【風呂山洋三】
濡れる路上の妻の待つ灯り
干しもの取りこむサンダルの底冷たい
くしゃみの出るほど澄んだ夜空だ

【地野獄美】
おれだけの近道知らない犬が来た
諦めず読む燃やされずにすんだ本
イヤフォン外させ道を尋ねる

【タケウマ】(招待)
抱き寄せられて焼き芋の匂い
合わす手の隙間から風冬が来る
しんしんと電気満ちゆく電気椅子

【畠働猫】(編者)
犯された夜の続きの朝の挨拶
白亜の土にやわらかくトリケラトプス光の素足
雨で二軍に屋根がない


以上9名

2013年11月28日木曜日

風呂山洋三さんの句集感想文

この度は、風呂山洋三さんのブログ件、句集とも言える『風呂山書房』を印刷して読んだ。
そのところ、風呂山さんの世界観には、田舎の人特有の湿気がある事に気がついた。

東北、山陰、北海道と、田舎の人が持っている独特の無口さ、曖昧さ、奥ゆかしさに、一体何が潜んでいるのか?
それが、『風呂山書房』に赤裸々に語られているように感じた。

・自由と言われ身を固くする
・さるものをおう
・書いたあと虚しい
・トイレに用はない
・爽やかな男に生まれ変わりたい
・何も無き秋


奥へ奥へと籠っていく、冬籠もりのような句の連続である。

それらは、

・逆境に強いひとのフリをした

で、結ばれる。

『風呂山書房』には、就職、恋愛、結婚、育児、そして、愛読書と、
様々な人生の節目が訪れるが、本当の主題として貫かれているのは、それらの体験の裏にある、
忍耐力なのではなかろうかと思った。

・蝋人形にしてやろうかと言われた
・口角を何度もあげる面接前だ
・眠れるか眠れないか赤子がきめる
・ちょっとすいません、そこをどけ
・はじっこが定位置である集合写真


普通の人は、10回我慢したら、1回くらいハメを外すものだか、
風呂山さんは、ひたむきに忍耐、耐える事自体を生きがいとしている。

そして、今回、

・光秀の気持ちもわからぬわけでもない

という句が一番、記憶に残った。

明智光秀という武将は、相当に、色んな事を耐え忍んでいたのかもしれない・・・?

一通り読み終えて、整理したところ、

・風呂山さんがトップに立つと分かり易い   祖啓

と、言うことになった。

風呂山さんが頂点に立つと、何かきっと、分かり易い事が起きるような予感がした。

2013年11月8日金曜日

中塚一碧楼を読む~その二

中塚一碧楼の句の観賞です。では、さっそく。


霧の夜の船造りの大工布団に入り


“の”の三連。もたつかず一息にさらりと読めるのは流石です。“入る”ではなく“入り”と止めたのは、余韻の効果を狙ったのでしょうか。また、“り”で韻を踏んでいるところも狙いなのかもしれません。それらの工夫の効果でしょうか。胸にすっと入ってくる句です。


酔えば秋の夜の板の間のおもしろく


酔っているわりには鋭い視線の句。確かに酔うと普段気にも止めなかったことが気になるものです。ここでは“板の間”の木目が気になったのでしょう。こうして秋の夜長を楽しんでいるのかもしれません。また、この句でも“の”で畳み掛けています。速度がついて最後の“おもしろく”が活かされています。


秋の昼赤子口を突出して何ぞ


新しい表情を次々と覚える赤子。時折、驚かされることもあります。非常に共感できる句。また、“秋の昼”という季語が入ることで長閑な感じが強調されています。当時はまだ季題の放棄をしていない頃でしょうか。季題を棄てて久しく経った現代の海紅においても「“季”の力を借りる」として、このような手法は受け継がれています。


梨を食うているやさしい悪者でした


大好きな句なのですが、実は句意が図れません。何となく父親や兄のことではないかと思いました。もしかしたら師匠のことかもしれません。いや、これは深読みですね。いずれにせよ、分かる句ではなく感じる句です。“やさしい”の後に、海紅でよく言われる“キレ(屈折)”を感じます。よいお手本です。


鯊釣りの帰りの鯊が少なうて洲崎に灯が入った


釣果が上がらないまますっかり日が暮れてしまったのでしょう。秋の日暮れを存分に感じさせる句です。ここでは“洲崎”と場所が限定されているところに着目したい。そこに行ったことがある者ならば、さらなる共感を覚えることでしょう。例え私のようにその場に行ったことが無い者でも、イメージとして広がります。また“鯊釣りの帰りの鯊が”と少々まどろっこしい言い方ですが、これは強調でしょうか。その効果についてはもう少し考えてみたいと思います。

それでは、今回はこの辺にて。

2013年10月29日火曜日

第十八回鍛錬句会

※諸々の事情により、今月の研鑽句会はお休みになりました。

第18回鍛錬句会
最高得点句

  秋の朝からみんな鼻血出とるで   水名

(6点)秋の朝からみんな鼻血出とるで  ◎◎◎
(4点)まだ死ねず透けるまで米研ぐ ◎◎
(4点)隣のチャイムの鳴り続ける秋の夜  ◎◎
(3点)時間はときどき止まっているわとすっぴんが真顔○○○○●
(3点)橋の上の夜釣りの女か ○○○
(2点)にんぎょうを抱いた少女と夜汽車去る◎
(2点)亀の顔出る波紋◎
(2点)裏切られてぐじゃぐじゃの鶏頭見ている  ○○
(2点)先に寝てしまった雨強くなる ◎
(2点)無駄な努力がまた高く売れた○○
(1点)結婚線のない手のひらふたつ ○
(1点)ラッキーな時のウッキー ○
(1点)異動する部下のあいさつ冷静な俺でいた○
(1点)梨剥いてもらおう洗い物の報酬だ ○
(0点)しぐるるや睨む野良居り
(0点)一度溶けて固まった乳房は白い闇○●
(0点)内臓が今日を汚している俎上○●
(0点)明日が迎へに来てただいまと泣く○●
(0点)俺の好きな女と嫌いな女が同じ男を好きだなんてどういうことだ
(0点)甘えて包丁研いでもらった
(0点)毒を盛る時の後退
(0点)着メロに合わせていつまでも歌っていた
(-1点)雪が降るようにしてねらう○●●
(-2点)他人の性交がいくつか行われているこの夜にすべきことは何か●● 


※以上全24句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。

―――――

作者発表


【中筋祖啓】
ラッキーな時のウッキー
雪が降るようにしてねらう
毒を盛る時の後退


【畠働猫】
一度溶けて固まった乳房は白い闇
にんぎょうを抱いた少女と夜汽車去る
 内臓が今日を汚している俎上


【藤井雪兎】
俺の好きな女と嫌いな女が同じ男を好きだなんてどういうことだ
他人の性交がいくつか行われているこの夜にすべきことは何か
着メロに合わせていつまでも歌っていた


【風呂山洋三】
隣のチャイムの鳴り続ける秋の夜
異動する部下のあいさつ冷静な俺でいた
梨剥いてもらおう洗い物の報酬だ


【小笠原玉虫】
しぐるるや睨む野良居り
先に寝てしまった雨強くなる
甘えて包丁研いでもらった


【馬場古戸暢】
亀の顔出る波紋
橋の上の夜釣りの女か
結婚線のない手のひらふたつ


【十月水名】
裏切られてぐじゃぐじゃの鶏頭見ている
時間はときどき止まっているわとすっぴんが真顔
秋の朝からみんな鼻血出とるで


【地野獄美】
まだ死ねず透けるまで米研ぐ
明日が迎へに来てただいまと泣く
無駄な努力がまた高く売れた

2013年10月25日金曜日

中塚一碧楼を読む

今年の夏、中塚一碧楼の句観賞をTwitter上に揚げたのだが、最近になってまとめてみようかと思い立った。改めて読み返すと読みの甘さがどうしても否めない。他の鉄塊衆の意見も聞いてみたいところである。



山このごろ炭焼の煙立たぬ明け暮れ


あの人はどうしているのだろう。顔すら知らない間柄でも、気にかかる人が私にもいる。


この朝うすものを著て佛壇の前にひさしき

何を語りかけているのだろうか。迷い。それとも、決意か。


養老院の櫻電車からいつも見え今日も見えたり

毎日見る光景だが、そこに暮らす人たちにまで思い馳せれば、また違った感慨となるのだろう。


蝋燭のあかりにて見えるこどもの顔

「震災一句」の前書きあり。あの夜と似た夜。だが、私たちの震災はまだ終わらない。


わが顔面の痛き夜の葉柳の家の女と

したたか、かつしなやかな平手打ちであったであろう。


夏貧民の児が引き抱へたる一つのキャベツ

そのキャベツは何人分なのか。はたまた何日分なのか。一碧楼の句にはこうしたいわゆる社会的弱者へ目を向けたものが存在する。人に対する深い眼差しを感じてならない。


桐の花咲き工場頼もしからず工場主

美しい桐の花と頼りない人物との取り合わせ。桐の紋は権威の象徴であるが、どうやらこの工場主にはふさわしくないようだ。とは言え、権威など無くてもいいのかもしれないが。


浅草の夜の酒を飲み水を飲みて夏めく

厭なこと全部、きれいさっぱり忘れちまった。開放的な夏のはじまり。


水をのみこぼしのみこぼし家のかげに

夏の暑い日。よほど喉が渇いていたのだろう。胸元まで濡らした姿が目に浮かぶようだ。


2013年10月14日月曜日

祖を読む、水を読む

※鉄塊衆名簿自選五句より。
※もはや題名の意味がわからなくなっていることについては、自覚的です。

中筋祖啓

となりの花が赤くて良かった

なぜとなりの花なのか。そして白かったら良くなかったのだろうか。

春一に良い角度で飛ぶカラス

カラスの飛び方に角度をみたこと、「良い」という主観を込めたところに、この句の面白みがある。

ダンゴムシぞんざいにして常に居る

「ぞんざいにして」の使い方に少し違和感を覚えるも、ダンゴムシにぞんざいという言葉はよくあてはまる気もする。

うまれてこのかた直線

これまでの自身の生き方を詠んだものだろう。曲線に生きた人と対面してもらいたい。

溶けたのか世界が雲へ消えてゆく

薄い雲がまばらに広がっている空を思い浮かべた。消えたのは世界ではなく、自身の方だったのかもしれない。

―――――

十月水名

ゆでたまごの白身の味を朝から説明できるか

朝から難しいことに考えをめぐらせることとなったようだ。しかし朝でなくとも、説明するのは難しいように思う。

呪文のてにをはを間違い姉がまた泣いた

長い日本語の呪文を唱える必要があり、その中には「てにをは」が含まれている。姉はその呪文を唱えたいが、何度やっても「てにをは」を間違えてしまう。小学生が遊んでいる景か。

手のひらよりも鳥に集約されていく花びら

桜並木道で、手を差し出してみた。花びらが手のひらに乗るかと思ったが、道の先にいる鳥の方に落ちて行くばかりで自身の手には乗らない。春のひとこま。


難破したところで神棚をつくればいい

港町での発想か。こうして海神は、世界の各地で現れて行く。

10÷3が最初の永遠だった

幼少の時分、延々割り続けた記憶がある。生れてはじめて遭遇する永遠は、あの式の中にあるのかもしれない。個人的には、1÷3をも推したい。


2013年9月28日土曜日

第十七回研鑽句会

最高得点句

  咳をしても一人 

(7点)咳をしても一人  ◎◎◎○△
(5点)こんなよい月を一人で見て寝る  ◎○○○
(4点)入れものが無い両手で受ける  ◎○○△
(3点)墓のうらに廻る  ○○○△
(2点)一日物云はず蝶の影さす  ◎△△
(2点)すばらしい乳房だ蚊が居る  ○○△△△
(1点)月夜戻り来て長い手紙を書き出す  ○△△
(1点)たつた一人になり切つて夕空  ○△△
(1点)淋しいぞ一人五本のゆびを開いて見る  ○△△△
(1点)足のうら洗へば白くなる  ○△
(1点)なんと丸い月が出たよ窓  ○△△
(1点)春の山のうしろから烟が出だした  ○△△
(0点)山水ちちろ茶碗真白く洗ひ去る  △△
(0点)つくづく淋しい我が影よ動かして見る  ○●△△
(0点)なぎさふりかへる我が足跡も無く  △△
(0点)鐘ついて去る鐘の余韻の中  △△△
(0点)氷がとける音がして病人といる  △△
(0点)うそをついたやうな昼の月がある  △△△
(0点)漬物桶に塩ふれと母は産んだか  △△
(0点)花火があがる空の方が町だよ  △△
(0点)肉がやせてくる太い骨である  △△△
(0点)久し振りの雨の雨だれの音よ  △△
(0点)すつかり暮れ切るまで庵の障子あけて置く  △△△
(0点)爪切つたゆびが十本眼の前にある  △△
(0点)障子の穴から覗いても見る留守である  △△
(0点)夫婦で相談してる旅人とし  △△
(-1点)柘榴が口あけたたはけた恋だ  ●△△
(-1点)月夜の葦が折れとる  ●△
(-1点)汽車が走る山火事  ●△△
(-2点)口あけぬ蜆淋しや  ●●△△

※以上全30句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。

―――――

作者発表

全句、【尾崎放哉】。
ただし、通し番号25-30の句は、井泉水による添削前のもの。


第十七回鍛錬句会

最高得点句

  墓の花挿しの熱い水を捨てる  玉虫

(6点)墓の花挿しの熱い水を捨てる  ◎◎○○
(4点)片頭痛の視界に生足  ◎○○△△
(3点)思春期の最終日だった父を焼く  ◎○△
(3点)すりガラスの向こう忙しく生きている  ◎○△
(2点)体力の、臨界  ○○△△△
(2点)他人の尻ぬぐいした腹が鳴っている  ○○△
(2点)あしあともきれいな街だ  ◎△△△
(1点)こんなところにうちすてられてしまっては石仏  ○△△
(1点)泣きじゃくった後のカーテンの隙間だった  ○△△△
(1点)階段が痛くて痛くてしょうがない ○△
(0点)お菓子の空き箱できてもうひとつの世界  △△
(0点)サドルのドクダミはらう夕暮れ  △△△
(0点)吸い殻にスコール  ○●△△
(0点)肝心なときにペンのないわたしという生き方  ○●△
(-1点)病み疲れて秋団扇  ●△△
(-1点)ぜんぶ夢ならいいのにと動かない半身であなた  ●△
(-1点)価値観がそっくりそのまま輝いた  ●△△△
(-1点)寝返り打てば秋でした  ●△△

※以上全18句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。

―――――

作者発表(全6名。投句順。編者除く)

【中筋祖啓】
価値観がそっくりそのまま輝いた
階段が痛くて痛くてしょうがない
体力の、臨界

【畠働猫】
こんなところにうちすてられてしまっては石仏
思春期の最終日だった父を焼く
すりガラスの向こう忙しく生きている

【藤井雪兎】
お菓子の空き箱できてもうひとつの世界
泣きじゃくった後のカーテンの隙間だった
あしあともきれいな街だ

【風呂山洋三】
ぜんぶ夢ならいいのにと動かない半身であなた
寝返り打てば秋でした
他人の尻ぬぐいした腹が鳴っている

【小笠原玉虫】
病み疲れて秋団扇
墓の花挿しの熱い水を捨てる
肝心なときにペンのないわたしという生き方

【馬場古戸暢】
片頭痛の視界に生足
サドルのドクダミはらう夕暮れ
吸い殻にスコール


2013年9月9日月曜日

風呂山書房を読む②

※風呂山書房「―43―百句夜行「百二句」より。
※風呂山書房はこちら

まずは授乳室さがす動物園
以下六句にわたって、動物園を訪れた際に詠まれた句が続く。親でなければ詠めない掲句は、実に面白い。

席替えしたくない君の隣だ
席替えしたくないのは、僕か君か両方か。しかし仮に君が席替えしたくないと思っていたとしても、その理由が「横に僕がいること」ではない可能性があるのが悲しい。

大人の味分からず煙草ふかしている
私がはじめて煙草を吸ったのは、高校を卒業して以降のことだった。継続的に吸うことをやめて久しいが、未だに大人の味についてはわからないままである。

嘘をつきました汗ばむ夜でした
「君と寝ました他人のままで~♪」を思い出した。この汗は、なんの汗だったのか。そして何の嘘を吐いたのか。気になる、気になる。

密談する上司の視線の先にいる
いやな汗がでてきそうな状況だ。密談の中身については、一切考えないでおこう。

霊より熊の怖い街の夕暮れ
熊出没注意の看板が立っているのだろう。実際問題、そんな街を夕暮れに歩きたくはない。

丸々肥えた赤子だ食ってやろうか
実際に、太股あたりにかじりついたものと思われる。やつらの肉付きは、食欲をそそるのである。

赤子のかわいい手で痛い
赤子だからといって、なめてはいけない。結構な力を持っているので、つねられると痛いのだ。

冷や麦すする夫婦です外は雨
私自身、冷や麦を食する習慣を持たない。そのためか、画面の向こうの夫婦の生活を盗み見ているように思えて、面白いのである。

部屋響く雨妻と子は出掛けた
この句は、続く「雨音小さくなって妻と子の帰ってきた」の句と続けて味わいたい。雨の中自宅に取り残された父親の(夫の)感情が、滲み出ているようだ。

スマホを狙う悪い顔した赤子だ
これは相当に気を付けなければならない。油断すると拙句の「赤子私の携帯を喰らう」の状態になってしまう。

2013年9月1日日曜日

第十六回研鑽句会

最高得点句
叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉

互選集計
(5点)叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉 ◎○○○△
(4点)蜘の子や親の袋を噛んで出る ◎◎△△
(3点)暗がりに雑巾を踏む寒哉 ○○○△
(2点)絶えず人いこふ夏野の石一つ ◎△△
(2点)冬川の家鴨よごれて集ひけり ○○△
(2点)すべり落つる薄の中の螢かな ○○△
(2点)ある人の平家贔屓や夕涼 ◎○●△(コンプリート句)
(2点)遠花火音して何もなかりけり ◎○●(コンプリート句)
(1点)旅人や馬から落す草の餅 ○△△△△
(1点)大根蒔く日より鴉を憎みけり ○△△△△
(1点)初夢や金も拾はず死にもせず ○○●△△△
(1点)馬の蠅牛の蠅来る宿屋かな ○△△△
(1点)涼しさや行燈消えて水の音 ○△△
(1点)筆筒に団扇さしたる机かな ○△△
(1点)亀鳴くや皆愚なる村のもの ○○●△△
(1点)鶯や文字も知らずに歌心 ◎◎●●●△
(1点)挨拶や髷の中より出る霰 ○△
(1点)長崎や三味線提げて墓参 ○△
(1点)薔薇呉れて聖書かしたる女かな ○△
(-1点)菫ほどな小さき人に生れたし ●△△
(無点)姉が織り妹が縫ふて更衣 △△△△
(無点)山寺の宝物見るや花の雨 △△△△
(無点)穴を出る蛇を見て居る鴉かな △△△
(無点)煙管のむ手品の下手や夕涼み △△
(無点)稲妻に金屏たゝむ夕かな △△
(無点)口あいて居れば釣らるゝ蜆かな △△
(無点)橋涼み笛ふく人をとりまきぬ △
(無点)明月や丸きは僧の影法師 △

※以上全28句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。


作者発表(全四名。一人七句)

【正岡子規】
涼しさや行燈消えて水の音
姉が織り妹が縫ふて更衣
旅人や馬から落す草の餅
絶えず人いこふ夏野の石一つ
長崎や三味線提げて墓参
稲妻に金屏たゝむ夕かな
ある人の平家贔屓や夕涼
 
【夏目漱石】
初夢や金も拾はず死にもせず
叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉
明月や丸きは僧の影法師
挨拶や髷の中より出る霰
菫ほどな小さき人に生れたし
馬の蠅牛の蠅来る宿屋かな
暗がりに雑巾を踏む寒哉
 
【高浜虚子】
穴を出る蛇を見て居る鴉かな
橋涼み笛ふく人をとりまきぬ
鶯や文字も知らずに歌心
亀鳴くや皆愚なる村のもの
薔薇呉れて聖書かしたる女かな
煙管のむ手品の下手や夕涼み
山寺の宝物見るや花の雨
 
【河東碧梧桐】
蜘の子や親の袋を噛んで出る
冬川の家鴨よごれて集ひけり
筆筒に団扇さしたる机かな
すべり落つる薄の中の螢かな
遠花火音して何もなかりけり
口あいて居れば釣らるゝ蜆かな
大根蒔く日より鴉を憎みけり
 
 
(編者コメント)
 
今回の研鑽句会は、いわゆる「のぼさん(子規)」を囲む句会という設定でやってみました。
子規が没したのは明治三十五年ですので、子規以外の三人の句は、明治三十五年までの作から選びました。
彼等は子規が没した後も句作を続けたのは言うまでもなく、もちろんこれら以外の良句も多々あるのですが、今回は子規が生きているという設定ですので、こういった選句になりました。何卒ご了承ください。
たまには近代俳句の黎明期に思いを馳せてみるのもロマンチックでいいかもしれませんね。
 

第十六回鍛練句会

最高得点句
いいことつづきだ土をつかんだ

互選集計
(5点)いいことつづきだ土をつかんだ ◎○○○
(4点)のれんの奥の懐かしい声ひと呼吸置く ◎○○△△
(4点)なんか言って果てたセミ ○○○○
(3点)無頼派からお中元がきたよ ◎○△△△
(3点)アリの事が心配 ◎○△△△
(3点)星座に興味ある子の寝姿 ◎○△△△
(2点)別れを惜しむ二人の間を駆ける俺だ ○○△△△△
(2点)はじまりはかじったトマトのまぶしさ ○○△△△
(2点)誰に会おうと普通になった故郷だ ◎△△△
(2点)命預けた手が血管浮かせている ◎△△
(1点)失い終えた者から、もう帰ってよい ○△△△△△△
(1点)子の声して麩が散る池 ○△△△
(1点)話のネタ撃ち尽くしてハイボール ○△△△
(1点)着飾って股開いて眼が死んでる写真を見ている ◎○●●△△△(コンプリート句)
(1点)もうさっきの空ではない雲のもとみんな帰ってきた ○△△
(1点)月明かり泣いてばかりいる影を見ている ○△△
(1点)濁った夜の猫の目だけ明るい ○△
(0点)帰省して欲のない人よろこばせている ○●△△
(-1点)街の明かりに息する ●△△
(-4点)明け急ぐ骨を骨を隠しきれない骨が鳴る ●●●●△△
(無点)カフェに長々と居る冷茶ぬるくなる △△△△
(無点)花火の後の無言の僕ら △△△△
(無点)脚を怪我すれば歩兵 △△△
(無点)この家の誰かがずたずたに切り刻んだ凌霄花また咲いた △△△

※以上全24句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。


作者発表(全8名。投句順。編者除く)

【小笠原玉虫】
カフェに長々と居る冷茶ぬるくなる
帰省して欲のない人よろこばせている
着飾って股開いて眼が死んでる写真を見ている
 
【馬場古戸暢】
子の声して麩が散る池
街の明かりに息する
別れを惜しむ二人の間を駆ける俺だ
 
【松田畦道】
無頼派からお中元がきたよ
濁った夜の猫の目だけ明るい
命預けた手が血管浮かせている
 
【畠働猫】
失い終えた者から、もう帰ってよい
明け急ぐ骨を骨を隠しきれない骨が鳴る
月明かり泣いてばかりいる影を見ている
 
【中筋祖啓】
脚を怪我すれば歩兵
アリの事が心配
誰に会おうと普通になった故郷だ
 
【風呂山洋三】
のれんの奥の懐かしい声ひと呼吸置く
話のネタ撃ち尽くしてハイボール
花火の後の無言の僕ら
 
【シブヤTヒロ】
なんか言って果てたセミ
この家の誰かがずたずたに切り刻んだ凌霄花また咲いた
もうさっきの空ではない雲のもとみんな帰ってきた
 
【藤井雪兎】
はじまりはかじったトマトのまぶしさ
いいことつづきだ土をつかんだ
星座に興味ある子の寝姿
 

2013年8月21日水曜日

天を読む、地を読む

※鉄塊衆名簿自選五句より

天坂寝覚

どこまでも飛ぶ鳥もどこかに帰る
鳥たちが夕焼けの中を飛んで行く様を想像できる句。なかには一匹程度、どこかに帰らない鳥もいるのかもしれない。出会ってみたいものである。

昨日がまだ枕に残っていた
枕カバーの洗濯を、ついつい忘れてしまう。その結果気が付けば、昨日どころか過去が匂う枕となっていることがままある。気を付けたい。

錆びたような髭なでて暮れた
「錆びたような髭」とはどんな髭だろうか。決して明るい髭ではない気がする。

どこかが死んだような水の味する
この水は水道水だろう。世界のどこかが死ねば、どこかとつながっている世界全体に変化が生じる。その変化を、世界を駆けてきた水道水の味にみたのである。

心臓だけが夢をおぼえて居た
ブラック・ジャックか何かで、心臓にも記憶が宿るという話を読んだ記憶がある。掲句のようなことも、案外毎日起こっているのかもしれない。

―――――

地野獄美

食はせてもらつてけふの不機嫌
いい句だと思う。ただ、私自身が普段は現代語ばかりを用いているため、こうした表記をみると「どうしてあえて用いるのだろうか」という疑問が浮かぶ。

雷に怒鳴られまだ慰めてほしいか
「まだ」で詰まってしまい、いまいち句意をとれていない。「まだ怒鳴られてほしいか」であれば、まだ「まだ」の意味を理解できる。

抑える手も震へる手である
怒りか病気か老いかわからないが、面白い句。「える」と「へる」を使い分けるのは、何かそういう規則のようなものがあるためなのか。

屋上の階段届く空がある
五七五の韻律にもみえるが、「屋上の階段・届く・空がある」と読みたい。十代のあの頃を、どことなく想起させる。

もう忘れよ捨てられた森のこと
平成狸合戦ぽんぽこを思い出した。多摩の森は、外的要因の存在が大であったにせよ、狸たちに捨てられた森とみなすこともできよう。

2013年8月16日金曜日

「ユニットさ行」を読む

矢野錆助×天坂寝覚の自由律俳句ユニット、「さ行」が遂にそのベールを脱いだ。
津川智宏さんの「同人誌800」から、初の句集が出たところだ。

昨日いそいそとセブンイレブンに赴き、出してきた私は狂喜し、真っ暗い夜道をにこにこ笑いながら帰宅した。近隣住民の皆様、ごめん。


いい。実にいい。


以前TwitterのTL上で、錆助さんとおしゃべりしていた際、

「玉虫さんは何でやってみようと思ったの? 自由律のどこが好きなの?」

と、問われたことがある。

「嫋々としてないところ」

と、私は答えた。

「短歌のそういうところが非常に好きだったんですが、自由律俳句に出会ったら、
 なんか嫋々としてない自由律のがずっとカッコイイなと思っちゃったんですよ。
 カッコイイからやりたいのです、そういう不純な動機からです」

「そんなもんだよな(笑) 始める動機なんて、これカッコイイとかそのくらいでいいんだよ」

錆助さんはTLの向こう側で笑っておられるようだった。


で、「さ行」。


いいいですなぁ。自由律の、ぶっきらぼうな言い切りが、私は非常に好きなんですが、
もうこの男くささ! たまらないですね。
このような境地に、女の身であるけれど、私も至りたいと考えている訳です。
ひとつの理想のかたちを見せつけられたようで、大変興奮致しました。


どっちがどの句を詠まれたのか、明らかにされていないところもステキ。
その匿名性が、句を音楽に成らしめている。
ジャズのセッションのようなスリリングさに満ち溢れております。
錆助さんが吠えている。寝覚くんが重低音を奏でている。
(そう、明かしていないけれど、どちらが詠んだかほんのり分かっている)
そして両者が、調和しながらも譲り合っていない。ぶつかって火花を散らしている。
これは惚れるなと言っても無理です。


四季をそれぞれ詠んでおられる。
自由律は季語を必要としない表現形式ですが、敢えて詠むこのやり方に、俳句そのものへのリスペクトを感じます。このさらりとしたリスペクトが、ニクい。
白熱のライブを観てきたような興奮に包まれる読後感。最高です。


ただ熱いのではない。自由律かくあるべし、とでも言いたくなるような「ぽつん感」。
これがまたたまらんですね。


私は自由律にはさみしそうであってほしい。
二人でいてもさみしい。
さみしさこそが存在意義というか、実在とか、そういう難しい言葉をふと思い出してしまうような
人間としての根源的さみしさが、自由律的カッチョヨサだと、不肖玉虫は考えております。


以下、特に惹かれた句と、その感想を述べ…と思っていたんですが、これはアレだ。
私の感想なんて、蛇足でしかない。


なので、私が特に惹かれた句を並べるだけにしておきますね。


この熱と、逆説的に、冷たい水が押し寄せてくるようなさみしさとを、
そのまま皆さんに感じてほしいのです。



俺はここに居てはいけない海風


舌絡み合って熱帯夜


鱗粉残し蛾の失せて夜明け


泣き止んだ子のまた泣く月がまるい


言葉無くなった道の終わり


ちょっとそこまでの靴がおもい雪夜


夜歩くさびしさが二つ続く


別れる角についた木枯らし


夜のしじまに君を見つづける



2013年8月5日月曜日

鉄塊CM大賞

この度、鉄塊の宣伝も兼ねて、鉄塊CM大賞という企画をしました。
鉄塊衆の中で、各自が鉄塊の趣旨に最適だと思うキャッチコピーを書き、
お互いを選評しあった結果、以下の言葉がCM大賞へと選ばれました。



馬場古戸暢

大賞・若気の至りの上限にいる (3票)

「このフレーズ、できれば一生言い続けたいですね。」(雪兎)
「これは確か古戸暢さんでしたか、句会に出されたものですね。その
とき「鉄塊のキャッチフレーズのよう」と選評に書いたのを覚えていま す。今
回、新しいものを色々と拝見しましたが、結局これが一番しっくりくると思い、
選ばせて頂きました。」(畦道)
「まさしく、鉄塊のカラーそのものを表現しえた的確な言葉。」(祖啓)
・詠め。 (1票)
「シンプルでいいなと思いました。
鉄塊の文字はありませんが、詠むことが第一ですよねということで。
ごちゃごちゃ言わないのが力強い。好きです。」(玉虫)
・それぞれの句欲に溺れている (0票)



藤井雪兎
・「そこになんかあるっぽい。」 (0票)


風呂山洋三
・撰ばれてあることの硬骨とファンふたつ我らにあり (0票)


働猫
・心に鉄を抱け――鉄塊 (1票
「シンプルかつ心を穿つフレーズです。(洋三)
・お前の肉を裂けば鉄塊 (0票)
・ここから、はじまる。鉄塊 (0票)

松田畦道
・いろいろいかれてたのしいたんぽぽ (1票)
「こちらに投票します。清き一票です!よろしくお願いします。」(T宏)

・安住の地に非ず。  (2票)

「これがかっこいい。まさにこうでなくてはならないと思いました。」(働猫)
「お疲れ様です。直感で以下をとります。」(古戸暢)
・右や左のだんなさま自由律俳句でございます  (0票)

小笠原玉虫
何者でもない、叩かれる前の熱い塊。 (0票)

渋谷T宏
・「鉄塊」という名ですが句会です。  (0票)
・こころを鉄にしろ! (0票)


中筋祖啓
・溶かせば固まる 鉄塊で、働こう (0票)

2013年8月4日日曜日

青山茂根さんの句集感想文

VT句会において、なぜか自分(祖啓)が必ず句を取っている俳人として、
青山茂根さんの存在が浮上し、そこからの奇遇を感じ、
この度、句集を拝読させていただいた。

感想を一言でまとめると、これは、

・青山茂根の数式

であると、思った。

この一冊に、
「青山茂根の数式」なるものが存在しえている、とても不思議な句集になっている。

とても不思議な句集であったが、しかし、それは、人為的な作為から造られた、
不可解さではなく、茂根自身の引力から必然的に出会うべくして出会った、
地球上の法則としての神秘、遺産、ミステリーサークルであると思った。

そして、「無機質さ」
生活感が句の中に登場しない事も大きな特徴だ。
日常生活での、いろんな人間関係の感情のいざこざに巻き込まれることが一切無い。
これも、強い特色。

印象に残った句を並べてみると、以下のようになる。

・いはれなくてもあれはおほかみの匂ひ
・たわむれを墓の上
・偶像は捨てよニンジン太らせよ

飛びぬけた「知性」を感じる。
計画、計略、計算と、「計」を要する出来事は、この人に相談するのが正解であると思った。

最後に茂根さん自体の人物像をイメージしていくと、

・宇宙人・・・?

ということになるのだが、法則を正しく見ることが、
どうして、人間世界からかけ離れる結果になるのかについては、よく分からない。
さらに、読解をしていく必要を感じた。

2013年7月27日土曜日

第十五回 研鑽句会


(最高得点句)
すべなし地に置けば子にむらがる蝿(8点)




(8点)すべなし地に置けば子にむらがる蝿◎◎◎○○△
(6点)あわれ七ヶ月のいのちの、はなびらのやうな骨かな◎○○○○
(3点)わらふことをおぼえちぶさにいまもほほゑみ◎○△
(3点)炎天子のいまはの水をさがしにゆく○○○
(3点)この骨がひえるころのきえてゆく星○○○△
(3点)ふところにしてトマト一つはヒロちゃんへ、こときれる◎○△△
(3点)くりかえし米の配給のことをこれが遺言か◎○△△△
(3点)なにもかもなくした手に四まいの爆死証明○○○
(2点)母のそばまではうてでてわるうてこときれて◎△
(1点)いまは、木の枝を口に、うまかとばいさとうきびばい○△△
(1点)こときれし子をそばに、木も家もなく明けてくる○△
(1点)とんぼうとまらせて三つのなきがらきょうだい○△
(1点)とんぼう子たちばかりでとほくへゆく○△
(1点)ほのほ、兄をなかによりそうて火になる○△
(1点)なつくさ妻をやく所さだめる○△
(1点)炎天妻に火をつけて水のむ○△
(0点)月の下ひっそり倒れかさなってゐる下か○●△
(0点)まくらもと子をほねにしてあはれちちがはる◎●●△
(-1点)十八年の妻にそひねして此の一夜あけやすき●
(-1点)降伏のみことのり、妻をやく火いまぞ熾りつ●△
(-1点)闇にかすかな光を、師にたまはりし『露』の字●△
(-2点)玉音あまくだるすべてをうしなひしものの上○●●●△
(無点)月の下子をよぶむなしくわがこゑ△
(無点)母をたづねあぐみてひとり月くらき壕のうち△
(無点)この世の一夜を母のそばに、つきがさしてゐるかほ△
(無点)外には二つ、壕の内にも月さしてくるなきがら△
(無点)とんぼう子をやく木をひろうてくる△△
(無点)やさしく弟いもうとを右ひだり、火をまつ△
(無点)かぜ、子らに火をつけてたばこいっぽんもらうて△
(無点)あまのがは壕からみえるのが子をやくのこり火△
(無点)あさぎりきょうだいよりそうた形(なり)の骨で△
(無点)みたりの骨をひとつに、焼跡からひろうた壷△
(無点)ちちをすうてこれもきえむとするいのちか△
(無点)短夜あけてくるみたりの子を逝かしたふたり△
(無点)夏草身をおこしては妻をやく火を継ぐ△



(以上、35句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆作者紹介

【松尾あつゆき】(1904~1983)
 長崎県に生まれる。
 長崎高等商業(現長崎大学経済学部)卒業後、長崎市立長崎商業学校にて英語教諭となる。
 23歳で層雲に入門。荻原井泉水に師事。
 その後、長崎市立商業学校を退き、長崎大浦食料営団勤務。
 1945年8月9日。
 敦之(41歳)、妻 千代子(36歳)。
 長女 みち子(16歳)、長男 海人(12歳)、次男 宏人(4歳)、次女 由紀子(1歳)。
 長崎市にて原子爆弾被爆。
 次男 宏人(4歳)、次女 由紀子(1歳)被爆により死去。
 翌8月10日、長男 海人(12歳)死去。
 8月13日、妻 千代子(36歳)死去。
 8月15日終戦。四枚の爆死証明書を受け取る。
 その後長女とともに長野県へ移り、後遺症に苦しみながらも高校教諭として勤務しながら句作を続けた。
 1983年79歳にて死去。
 句集に『火を継ぐ』『原爆句抄』などがある。



 
(編集担当より)
 今回の句は、あつゆきの全句集である『花びらのような命』(竹村あつお 編 龍鳳書房)中から採った。
 その際、「層雲句稿 昭和21年6月9日」の項に35句掲載されており、自分の主観によって30句に絞るよりもそのまま35句を出した方がよいと判断した。
 事前の相談なく句数を増やしてしまったことをお詫びする。
 また、今回上げた句は、句集等への収録の際に改訂されているものも多い。
 そちらの形をご存じの方には混乱を与えてしまったかもしれない。併せてお詫びしたい。



第十五回 鍛練句会



(最高得点句)
母の指差す空に私はなんにも見えない(8点)



(8点)母の指差す空に私はなんにも見えない◎◎○○○○△
(4点)叱られて歩く子も一人前の荷物◎○○△
(3点)寝てはいけない人と寝る外は雷○○○△△
(3点)はばたいたミサゴは必ず次へゆく◎○△△
(3点)地球儀を指で止めてここへ行きたいここで死にたい◎○△△
(3点)さっきと違う人が寝ているベンチ◎○△
(2点)月あかりそうっと戸を開ける◎△△
(2点)記念碑をずっと眺めていたい気分○○△△△
(2点)風邪の床のぞく明け暮れ○○△
(2点)この雨は新宿の地下水となる立ち止まる◎○●△△(コンプリート句)
(2点)生乾きのにおいのする昼めしだ○○△△
(2点)火のついた手紙いつ離そうか○○△△△
(2点)文芸コーナー居並ぶ夏の無精髭ども○○△△△△
(1点)誘蛾灯があおく蛾もこない部屋です○△△
(1点)処女だったおんなに子供ができた◎○●●△(コンプリート句)
(0点)雨上がり苦笑い青い傘の男さ○●△△
(0点)悪夢に跳ね起きる凌霄花窓から覗き込んでる○●△
(-1点)死者おちんこも隠さずに●△△△△
(-3点)がたがた音たてやがって寝れねぇじゃねぇか●●●△△
(無点)朝起きていきなりすぐの朝ごはん△△
(無点)風のかたちに夜のジョギング△△△△
(無点)からっぽの花瓶からすぐに指抜き△△
(無点)青色クレヨンが雨になったよ△△△
(無点)選句結果をまとめる手の玉葱くさい△△△
(無点)一日動かない部屋の空気のおもたさ△△△△
(無点)無愛想なレジの女ピアスの穴が膿んでる△△
(無点)七夕飾り雨を纏って秘密囁いている△△




(以上、27句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆作者発表(投句順 編者除く)

【馬場古戸暢】
風のかたちに夜のジョギング
さっきと違う人が寝ているベンチ
選句結果をまとめる手の玉葱くさい

【中筋祖啓】
朝起きていきなりすぐの朝ごはん
はばたいたミサゴは必ず次へゆく
記念碑をずっと眺めていたい気分

【松田畦道】
無愛想なレジの女ピアスの穴が膿んでる
叱られて歩く子も一人前の荷物
地球儀を指で止めてここへ行きたいここで死にたい

【藤井雪兎】
火のついた手紙いつ離そうか
この雨は新宿の地下水となる立ち止まる
からっぽの花瓶からすぐに指抜き

【小笠原玉虫】
寝てはいけない人と寝る外は雷
悪夢に跳ね起きる凌霄花窓から覗き込んでる
七夕飾り雨を纏って秘密囁いている

【風呂山洋三】
文芸コーナー居並ぶ夏の無精髭ども
雨上がり苦笑い青い傘の男さ
生乾きのにおいのする昼めしだ

【シブヤTヒロ】
誘蛾灯があおく蛾もこない部屋です
がたがた音たてやがって寝れねぇじゃねぇか
青色クレヨンが雨になったよ

【天坂寝覚】
月あかりそうっと戸を開ける
一日動かない部屋の空気のおもたさ
風邪の床のぞく明け暮れ

【畠働猫】
死者おちんこも隠さずに
母の指差す空に私はなんにも見えない
処女だったおんなに子供ができた


2013年7月24日水曜日

句をよみたい

句を詠みたい。

私の句は、景を感じて五秒から十秒以内に浮かび終わる言葉のことだと思っている。
それを携帯でメモして、後でパソコンでワードに打ちこんで、それでおしまい。
長いこといろいろ考えていろいろ変えたりするのは、頭使うから苦手。

もしかしたら投句するかもしれないけど、しないかもしれない。
少なくとも「自分だけの句」は、投句せずに内緒にしておきたい。

表現の新古は、読み手の好みに影響を与えることはあっても、句の善し悪しの評価に何の影響も及ぼさない。だからそういうのは考えずに、好きな句を好きなだけ詠んで生きたい。

数百年後あたりに、詠み人知らずとなった自句が誰かに呟かれていたら嬉しい。

句を読みたい。

たくさんの句を読んで、よい句と出会いたい。
頭の中に、いろんな句を入れて生きたい。

青空をみつけたら、「うでをひろげてそらのまね」と叫んでうでをひろげて、
羊雲をみつけたら、「空にぽこぽこ羊雲」とつぶやいて、
老いて行く祖父をみながら、「花の名を忘れた口へ匙を運ぶ」を思い出して、
山を歩いたら、「分け入つても分け入つても青い山」と諳んじて、
子どもの成長をみながら、「あるけてあやういあんよ」と言ったりして、
秋雨に降られたら、「秋雨が骨を打つ」と格好つけて、
妊婦と出会ったら、「生まれて来る子よ腹を蹴りなさい」と話しかけたりして、
二人を生んだ女をみたら、「そのすらりとした足の間から二人も生まれた」と思ったりして(すらりとしていれば)、etc..........

そしたら、世界が輝いているような、あるいは、どうでもいいような感じがして、毎日楽しそうたい。
よい句を詠んでくださった皆さんに、感謝多謝。

ほんとはこれで十分だなと、ふと思った夏の夜の独り言でした。

2013年7月13日土曜日

きやらぼくを読む

※きやらぼく No.372(2013年5月)より。
※きやらぼくHPはこちら

虚空いざなう鳶を撃つ  三好利幸
どことなくは惹かれるところがあった。何を(誰を)いざなっているのだろうか。

沸点超えた日も窓に雨打つ  ゆきいちご
ここでいう沸点は、怒りの沸点だろうか。やかんの沸点と読んでも面白い。

献血する私の一滴さくらんぼ形  ゆきいちご
血が少しこぼれたところを詠んだものとみた。よくぞ気付いたと思う。

杖つく影を追い越さないでゆく  藤田踏青
狭い道での出来事だろうか。いつもとは違うゆっくりとした歩みを楽しめたことだろう。

わかり切った事もう言うな月が出て来た  天野博之
夫婦の会話のひとこまと読んだ。話をごまかそうとしているようにもみえる。なお、同氏によるエッセイも面白い。

眠るばかりの君に春の雲ながれ  幾代良枝
誰がどうして眠ってばかりいるのかわからないが、淡々としたあたたかい日常をみる。

2013年7月6日土曜日

自由律俳句を広める?

※2013/07/06付、元鉄塊衆の自由律俳人・粟野賢太郎氏とのメールでのやり取りより抜粋

:どうして自由律俳句を広めたいのか?

:①私たちが詠んだ句が、時を超えて数百年後の未来にも残ることに浪漫を感じます。自由律俳句を読む(詠む)人を増やした方が、そうなる可能性が増えると考えます。
②裾野を広げることで自由律俳人が増えれば、ますます多くの佳句がでてくるように思います。そうした句に触れてみたいと、個人的に考えています。

:現状の活動では、不十分だと思う。

:①一朝一夕に、行動の結果が目に見えて現れるとは考えていません。数年、数十年レヴェルで、効果があらわれればよいのです。今の行いに意味があるかないかということは、時の流れが判断してくれます。自分たちの行動を無駄とみなすにはまだ早いのです。必要なのは、継続することです。
②もっとも、ご指摘のとおり、他にもさまざまな活動を行う必要はあるでしょう。この点については、他の自由律俳人の方々(「自由律句のひろば」など)がいろいろと行動してくださっているように思います。今後、議論が活発化することを願います。

:俺には実らない種を播いて死ぬまで水をやり続けてる風にしか見えない。

:実るかどうかは、今はわかりません。私が死ぬまでに実る必要は必ずしもないとも考えています。その時は、次の世代が引き継いでくれればよい。成功があれば、次の世代も作業をしやすくなるでしょう。失敗があれば、次の世代はそれを反省して、同じことを繰り返さなくなるでしょう。そこに、私は意味を見出します。向かおうとする意志さえあれば、いつかはたどり着きます。

以上、賢太郎氏とのやり取りをもとに、私個人の自由律俳句を広めることに関する考えを書きました。
これをたたき台にして、皆さんのお考えを書き込みいただければ幸いです。

2013年6月29日土曜日

第十四回 研鑽句会


(最高得点句)

ビールだコツプに透く君の大きい指 (6点)

 

(6点)ビールだコツプに透く君の大きい指 ◎◎○○
(5点)バラックの寺ができた梅が咲き過ぎた ◎○○○
(5点)となりでも筍さがしてる春 ○○○○○
(4点)七面鳥が向うむいてふくるる焚火 ◎○○
(4点)林檎をかぢつて、夜、浪の音がしてゐる ◎◎
(4点)冬、冬、枯れたあぢさゐのみ光つて ◎◎○●
(3点)つくしが出たなと摘んでゐれば子も摘んで ◎○
(3点)子を連れて草いきれの道曲つて見える ◎○
(2点)紅い芙蓉をひとまはりして来る子です ○○
(2点)温室の硝子一枚壊れて夏 ○○
(2点)幼稚園は休みです杉菜ぞくぞく ◎
(2点)土ばかりいぢつて何を抜く子ぞ ○○
(1点)赤蜻蛉多く飛過てから庭に打つ水よ ○
(1点)土筆が伸び過ぎた竹の影うごいてる ○
(1点)光線を踏みたんぽぽ咲き過ぎた ○
(1点)桜くろんだ小学校すでにひけてる ○
(1点)子が靴の土ほこり麦の穂が出た ○
(1点)飛行船の灯あかく来る短日 ○
(0点)山吹の蕾何のおちんこぞ ○○○●●●
(0点)新緑の町へ来る汽車の音です ○●
(0点)お馬お馬あしびの花も過ぎたよ ○●
(-1点)梅若葉つき抜けた竹の嵐だ ●
(-1点)昼ぬすびとを追ふ巡査梅若葉です ○●●
(-1点)つやつやひれあざみうちの玄関だ ●
(-1点)芹素足にふれた ●
(無点)日射さんさんと梅を落してる
(無点)ちらちらと燈が楽しんで雪の斜面だ
(無点)芒青うて蝶を追ふ子ぞ
(無点)曇り硝子しめても向うの杉菜
(無点)柊にながれる雨こぼれる



(以上、30句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆作者紹介
北原白秋(1885-1942)
童謡作家、歌人、詩人として知られるが、数は少ないながらも俳句も残している。荻原井泉水との論争があったせいか自由律の句が少なくない。出句原本は「白秋全集38 小編4」(岩波書店)。

2013年6月28日金曜日

第十四回 鍛練句会

(最高得点句)
いっしょのみちはみじかいゆうぐれ(8点)

 

(8点)いっしょのみちはみじかいゆうぐれ ◎◎◎○○
(4点)空き家の窓の夜より暗く ◎○○
(4点)お悔やみの口から餃子のにおい ◎○○○●
(3点)すれ違う赤子が咳をした ◎○
(3点)攻撃的ミッドフィルダーそれは僕ではなかったTVの中 ◎○
(3点)Fは鳴りませんでした十五歳 ○○○
(3点)後半37分ピザ届きました ◎○
(3点)後ろ姿消えてそこにも道があった ◎○
(3点)この店に決めた夏のにおいのする ◎○
(2点)涼しげな笑顔の女だ酔えない ○○
(2点)くたびれた枕カバーからいろいろと出てくる ○○
(2点)吐息かさねて月を研ぐ ○○
(2点)朧月に電車が着いた ◎
(2点)達筆が便所の壁 ○○
(2点)お母さんに切られたそうなおかっぱが俯いている ○○
(2点)ほのあかい胸もとあとは闇 ○○
(1点)死んだのは妹の方です服を脱ぐ ○
(1点)札束を前に黙ってみる俺達 ○
(1点)コレクションなぞ捨てちまおうか南風(はえ)強く吹く ○
(1点)もういらない玩具なのか夾竹桃にぶら下がって ○
(1点)人身事故の駅何事もなく雨の夕暮 ○
(1点)もうだれも叱ってくれない影夏草にのびていく ○
(-1点)しゃがむ男の陰に猫 ●
(-1点)視界も定かでない目に梅雨晴れ ●
(-2点)先輩の背中をどやしつけた飲み会の翌日 ●●
(-6点)感傷にひたってばかりもいられない ●●●●●●
(無点)その女には触れさせなかった日に揺れる海の音
(無点)ホトトギス告げる白線止まりなさい
(無点)2ちゃんに書き込むというクレームに困っているのだ老店主は
(無点)カフカに傍線を引いても忘れているテスト時
(無点)コピー&ペーストの煉獄
(無点)職場には阿修羅のような人が要る
(無点)やっぱり男は俺ひとりだった




(以上、33句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆作者発表

【小笠原玉虫】
空き家の窓の夜より暗く
人身事故の駅何事もなく雨の夕暮
コレクションなぞ捨てちまおうか南風(はえ)強く吹く

【シブヤTヒロ】
攻撃的ミッドフィルダーそれは僕ではなかったTVの中
2ちゃんに書き込むというクレームに困っているのだ老店主は
くたびれた枕カバーからいろいろと出てくる

【白川玄齋】
視界も定かでない目に梅雨晴れ
カフカに傍線を引いても忘れているテスト時
先輩の背中をどやしつけた飲み会の翌日

【天坂寝覚】
朧月に電車が着いた
いっしょのみちはみじかいゆうぐれ
Fは鳴りませんでした十五歳

【中筋祖啓】
感傷にひたってばかりもいられない
職場には阿修羅のような人が要る
コピー&ペーストの煉獄

【畠働猫】
吐息かさねて月を研ぐ
ほのあかい胸もとあとは闇
もうだれも叱ってくれない影夏草にのびていく

【馬場古戸暢】
しゃがむ男の陰に猫
すれ違う赤子が咳をした
お母さんに切られたそうなおかっぱが俯いている

【藤井雪兎】
札束を前に黙ってみる俺達
死んだのは妹の方です服を脱ぐ
やっぱり男は俺ひとりだった

【風呂山洋三】
涼しげな笑顔の女だ酔えない
ホトトギス告げる白線止まりなさい
この店に決めた夏のにおいのする

【本間鴨芹】
達筆が便所の壁
その女には触れさせなかった日に揺れる海の音
後半37分ピザ届きました

【松田畦道】
後ろ姿消えてそこにも道があった
お悔やみの口から餃子のにおい
もういらない玩具なのか夾竹桃にぶら下がって

2013年6月23日日曜日

鉄屑詩集を読む

※鉄屑詩集「子を連れて」より。

抱いた子が見付けた一番星
この句は私の記憶に強く残っている。夕暮れ時の家族との生活のひとこまが切り取られた、美しい句。

子を抱いて早く寝ろ寝ろうろうろおろおろ
なかなか寝付いてくれない子を抱いて、歩き回っている様が浮かんだ。最後の「おろおろ」が面白い。

乳吐いても微笑んでくれる
これも今だに諳んじることができる句。よくお子さんをみていないと詠めない。

雪待つ子の前にみぞれ
子どもの「あれー?」という顔が浮かんでくる。しかしすぐに気を取り直し、みぞれにはしゃいだことだろう。

洟垂れが私の胸に飛び込んでお出迎え
家庭を持つ人ならではの句だろう。こちらのシャツは涎まみれになっているだろうが、嬉しいものである。

サンタ知らない父でサンタになる
サンタの格好をしたのかどうかが気になるところ。そういえば私もサンタを知らない。そういう習慣を持たない家に育ったのだ。

子らがしがみついてきた外は雪だ
はしゃぎながらしがみついてきたのだろう。「雪やこんこん~」を皆で歌いたくなる。

皿に残ったサンタ欠けている
クリスマスケーキの上にのっている、サンタの砂糖菓子。少しかじったのは、お子さんだろうか。

得意気に見せる娘の掌に天道虫
愛しい生活詠だが、作者の胸中には思うところがあったようだ。詳しくは『草原』25-07号「特集 戦争俳句」を参照。

小さな傘と長グツ駆けてゆく大きな水溜まり
その後ろからゆっくりと後を追う詠み手まで想像できる。

2013年6月16日日曜日

風呂山書房を読む

※風呂山書房「―41―百句夜行「百十三句」より。
※風呂山書房はこちら

金多目に忍ばす部下と飲むのだ
「忍ばす」の主体が詠み手か部下かで、解釈がまったく異なる句。私は部下と読みたい。おそろしい上司である。

夜桜の下の見知らぬ顔だ
自宅近所に桜が立っている。たいていの場合は見知った隣人がその桜を見上げているのだが、今夜の人はどうやらよそ者。これも小さな非日常だろう。

帰りたくない花見の夜だ
祭りの後もそうだが、こういう時はなんともいえない寂しさを感じる。花見の夜であれば、桜は変わらず咲き続けているのだからなおさらである。

赤子あやす妻の眠そうな声
その声はまた、幸せそうな声でもあるのだ。

食べ過ぎた父でいるお食い初め
赤子のための行事だったはずだが、ついつい食べ過ぎてしまった。後々、家族内で「この子のお食い初めのときはおじいちゃんが食べ過ぎちゃって」という会話が繰り返されるのだろう。

林の入口の忘れ去られた叢塚
かつてこの地で飢えて逝った人が幾人もいたことを、この塚だけが記憶している。いつかこの塚も、自身が叢塚であることを語ることすらなくなるのだろうか。

赤子の髪整える風呂上がりの妻
一読、赤子のにおいが漂ってくる句。皆ほくほくしていて、楽しくなる。

わが子の瞳の中みつけた春の空
わが子なりに、この世界を認識し始めているのだろう。元気に育つよう。

赤い椿赤い椿とまだ落ちないのか
椿をみると落ちるかどうかということに思いを馳せるのは、自由律俳句を詠む人たちの職業病な気がする。

子の熱案じる父でいる午後の雷
父はたいていの場合、子どもから離れたところで働いていなければならない。雷がまた不安を募らせる。

鉄の塊なる悦びである昭和の日
おそらく鉄塊入会の際に詠んだものと思う。自分たちが鉄の塊であるという認識はなかったが、そうなのかもしれない。熱いうちにどんどん打たれたいものである。

育児書の増え肩身の狭い太宰治
熱心さに、太宰も感心していることだろう。

アイツなら逝っちまったよ通し鴨
この場合のアイツは人のことか。人が逝こうが季節はうつろう。

2013年6月9日日曜日

第四回VT句会(2013夏)③


コメント欄に参加者のコメントを列記(後半部)。

※上位句ならびに互選集計、作者発表はこちら
※コメント前半部はこちら

第四回VT句会(2013夏)②

コメント欄に参加者のコメントを列記(前半部)。

※上位句ならびに互選集計、作者発表はこちら
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第四回VT句会(2013夏)①

※コメント前半部はこちら
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【最高得点句】(2句)
剃り残しあり初夏ののどぼとけ(9点)
あなたが笑つている私は着ぐるみの中(9点)

【自由律俳句上位句】(5句)
あなたが笑つている私は着ぐるみの中(9点)
わたしたちのふりかえるのがとてもよくみえる(8点)
鎌の刃に去年を生きた草(8点)
朝のマウンドに遺骨(7点)
ベビーカーよけて愚痴のつづき(7点)

【定型俳句上位句】(3句)
剃り残しあり初夏ののどぼとけ(9点)
花冷えのつなぐほかない手があった(8点)
生命線運命線も春の泥(6点)

【題詠句上位句】(5句)
痛いふりしないと悪い気がして天井を見た(7点)
痛すぎて止める新技柏餅(4点)
ここが痛点 薔薇いつせいに散る(3点)
痛い方へと蝶は飛ぶ(3点)
胃痛のあおぞら澄み切っている(3点)

【コンプリート句】(◎と○と●のすべてを獲得した句)(6句)
椿落ちて大音響の汽笛かな(4点)
青春とは何だ答えろ春嵐(3点)
母の日に炎のごとき花贈る(5点)
虹色に暮れていくのが農村だ(2点)
人を殺した手が水をすくう(4点)
漢らに陣痛きたる緑の夜(2点)

―――
互選集計
(9点)剃り残しあり初夏ののどぼとけ ◎◎○○○○○
(9点)あなたが笑つている私は着ぐるみの中 ◎○○○○○○○
(8点)わたしたちのふりかえるのがとてもよくみえる ◎○○○○○○
(8点)花冷えのつなぐほかない手があった ○○○○○○○○
(8点)鎌の刃に去年を生きた草 ◎◎○○○○
(7点)朝のマウンドに遺骨 ◎○○○○○
(7点)痛いふりしないと悪い気がして天井を見た ◎◎○○○
(7点)ベビーカーよけて愚痴のつづき ◎○○○○○
(6点)牛ゆっくりと口動かしながら春ですなぁ ○○○○○○
(6点)生命線運命線も春の泥 ○○○○○○
(5点)母の日に炎のごとき花贈る ◎◎○○●
(5点)柿わかば大統領の顔のシャツ ○○○○○
(5点)枯れていない花を捨て家を出る ◎○○○
(5点)たわむれを墓の上 ◎○○○
(5点)眼の奥を川が流れてゐて痛し ◎◎○
(5点)背を向けても流れている川 ○○○○○
(4点)蛇苺はじめてなんてこんなもの ◎○○
(4点)痛すぎて止める新技柏餅 ○○○○
(4点)人を殺した手が水をすくう ◎○○○●
(4点)椿落ちて大音響の汽笛かな ◎◎○○●●
(4点)カプセルの未熟児笑む五月 ○○○○
(4点)眼帯の中の眼も閉ぢぬ ◎◎
(3点)嫌われたいのか綿パンが白い ○○○
(3点)桜咲け米寿の友が笑うから ○○○
(3点)痛い手をさして盤が近い ◎○
(3点)つまりだからけれどやっぱりの私 ○○○
(3点)灯台の真白きに君立てば夏 ◎○
(3点)ここが痛点 薔薇いつせいに散る ○○○
(3点)颯爽と東京へ出る春の泥 ○○○
(3点)胃痛のあおぞら澄み切っている ◎○
(3点)痛い方へと蝶は飛ぶ ◎○
(3点)新緑や双子の片割れだけが泣き ○○○
(3点)青春とは何だ答えろ春嵐 ◎○○●
(3点)窓開けて逆子体操聖五月 ◎○
(3点)ぼくにだけみえるともだちマグノリア ○○○
(2点)恋の痛み知らずにさくらんぼ実りました ○○
(2点)迷いなく咲いていてみち見失う ○○
(2点)水面打ち船舶の飛ぶ立夏かな ◎
(2点)忘れた人の名花瓶に挿して春 ○○
(2点)虹色に暮れていくのが農村だ ◎○○●●
(2点)死を避けてホルモン注射の痛み ◎
(2点)ソース瓶ソースに汚れ祭果つ ○○○●
(2点)掃除機が敷居にころげ立夏なる ◎
(2点)安心しろ痛点ははずしてある ○○○●
(2点)漢らに陣痛きたる緑の夜 ◎○●
(2点)闇に何も見ない俺の眼 ○○
(2点)暑い日だった祖母の部屋に鉄格子 ○○
(2点)春芽吹く枝の痛みがあればこそ ○○
(2点)夏の庭曲がり切れずに10t車 ○○
(2点)頭痛薬並べてメッセージふふふ ◎
(2点)トンガという国ご存知か五月場所 ○○
(1点)脱臼の痛みに青ざめてひとり ○
(1点)レンブラント光線 シロツメクサの冠をください ○○●
(1点)春が来ても男は生きてる無駄なのか ○
(1点)また痛車のキャラがわかった ○
(1点)遠雷や移転が進む水没地 ○
(1点)あをみどろの青きらきらと指すりぬけてゆく ○
(1点)青き踏む集合写真を撮らぬ人 ○
(1点)雑踏の一人は射抜かれてをりぬ ○
(1点)五月空斬り裂いてこそつばくらめ ○
(1点)十六夜や悪びれもせず帰宅せり ○○●
(1点)痛飲の夜花底蛇を知る ○
(1点)転がったレジ袋 ずっとずっと見守った ○
(1点)人間と等身大の水中花 ○
(1点)栗饅頭イガごと入れて痛てててて ○
(1点)つかれてねむるこども実家の香り ○
(1点)痛いさ 慣れているだけ ○
(1点)涙より柔らかな、牡丹 ○
(1点)満月の鏡一枚叩き割る ○
(0点)裏庭の牡丹の妖しく夜の女かよ ○●
(0点)道欠けの月夜見の森黄泉の守 ○●
(0点)リツイートされ痛い ○●
(-1点)三日月をあしらふビルの島に母といふ母 ○●●
(-1点)たしかに今もひとり深爪の痛さ ●
(-1点)膨れ上がる唇痛々しいみどり ●
(-1点)拭いても汗拭っても汗 ○●●
(-1点)「滅ぼせ」と頭蓋の中を蟲が這う ○●●
(-4点)痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い脚も雨も電話も ○●●●●●
(-5点)あまりにも、とにかく頭が痛すぎる ○●●●●●●
(無点)美少女の幽霊宿り藤の花 
(無点)あなたの背抱きつつ受け入れた痛み 
(無点)迷ったままで日が暮れる 
(無点)蟇鳴くや本当の愛知らぬまま 
(無点)頭の痛い昨夜くらったバーボンだ 
(無点)痛みすら告げず散る葉ひとつひとつみっつ 
(無点)夜が明ける痛み止めまた飲む 
(無点)吹き上げられて轢かれ蝶 
(無点)風車使徒としてたたずんでいる 
(無点)腰痛のやうに高まる卯波かな 
(無点)痛痒し蚊を仕留めたる掌は 
(無点)五月闇行方不明の偏頭痛 
(無点)絹莢や従順という青臭さ 
(無点)旅先で出会ったことのない虫が飛んでいる 
(無点)痛風の辛さ肴に発泡酒 
(無点)みどりの日にみどりのない俺がいる 
(無点)行く春を少しの汗と歩きます 
(無点)満月や血祭り毎の痛み忌み 
(無点)雨になる空映しみどりの葉 
(無点)手術後の抜糸痛くて蚊がうざい 
(無点)寂しがらせる天才だ君も僕も 
(無点)痛い痛いと言う今朝は青空 
(無点)呪い歩けば三日月の低く

※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。

―――
作者発表(※五十音順)

【青山茂根】
たわむれを墓の上
雑踏の一人は射抜かれてをりぬ
リツイートされ痛い

【うぐいす】
忘れた人の名花瓶に挿して春
蛇苺はじめてなんてこんなもの
恋の痛み知らずにさくらんぼ実りました

【圓哉】
春が来ても男は生きてる無駄なのか
行く春を少しの汗と歩きます
痛飲の夜花底蛇を知る

【オカピート】
わたしたちのふりかえるのがとてもよくみえる
青春とは何だ答えろ春嵐
五月闇行方不明の偏頭痛

【小川春休】
吹き上げられて轢かれ蝶
掃除機が敷居にころげ立夏なる
痛痒し蚊を仕留めたる掌は

【大原鮎美】
迷ったままで日が暮れる
夏の庭曲がり切れずに10t車
栗饅頭イガごと入れて痛てててて

【小笠原玉虫】
呪い歩けば三日月の低く
十六夜や悪びれもせず帰宅せり
満月や血祭り毎の痛み忌み

【葛城真史】
涙より柔らかな、牡丹
「滅ぼせ」と頭蓋の中を蟲が這う
あなたの背抱きつつ受け入れた痛み

【北大路京介】
人を殺した手が水をすくう
遠雷や移転が進む水没地
死を避けてホルモン注射の痛み

【榊倫代】
窓開けて逆子体操聖五月
レンブラント光線 シロツメクサの冠をください
ここが痛点 薔薇いつせいに散る

【さくら】
雨になる空映しみどりの葉
絹莢や従順という青臭さ
痛みすら告げず散る葉ひとつひとつみっつ

【柴田千晶】
朝のマウンドに遺骨
人間と等身大の水中花
漢らに陣痛きたる緑の夜

【渋谷知宏】
牛ゆっくりと口動かしながら春ですなぁ
椿落ちて大音響の汽笛かな
たしかに今もひとり深爪の痛さ

【白川玄齋】
背を向けても流れている川
青き踏む集合写真を撮らぬ人
痛い痛いと言う今朝は青空

【鈴木牛後】
みどりの日にみどりのない俺がいる
生命線運命線も春の泥
頭痛薬並べてメッセージふふふ

【鈴木桃子】
あなたが笑つている私は着ぐるみの中
美少女の幽霊宿り藤の花
手術後の抜糸痛くて蚊がうざい

【卓】
カプセルの未熟児笑む五月
灯台の真白きに君立てば夏
脱臼の痛みに青ざめてひとり

【タケウマ】
あをみどろの青きらきらと指すりぬけてゆく
剃り残しあり初夏ののどぼとけ
安心しろ痛点ははずしてある

【天坂寝覚】
闇に何も見ない俺の眼
満月の鏡一枚叩き割る
夜が明ける痛み止めまた飲む

【中筋祖啓】
転がったレジ袋 ずっとずっと見守った
虹色に暮れていくのが農村だ
あまりにも、とにかく頭が痛すぎる

【なかやまなな】
嫌われたいのか綿パンが白い
柿わかば大統領の顔のシャツ
膨れ上がる唇痛々しいみどり

【ニレ】
つまりだからけれどやっぱりの私
道欠けの月夜見の森黄泉の守
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い脚も雨も電話も

【畠働猫】
寂しがらせる天才だ君も僕も
迷いなく咲いていてみち見失う
痛い方へと蝶は飛ぶ

【馬場古戸暢】
拭いても汗拭っても汗
花冷えのつなぐほかない手があった
胃痛のあおぞら澄み切っている

【藤井雪兎】
ベビーカーよけて愚痴のつづき
新緑や双子の片割れだけが泣き
また痛車のキャラがわかった

【風呂山洋三】
裏庭の牡丹の妖しく夜の女かよ
颯爽と東京へ出る春の泥
頭の痛い昨夜くらったバーボンだ

【本間鴨芹】
鎌の刃に去年を生きた草
トンガという国ご存知か五月場所
痛風の辛さ肴に発泡酒

【前田獺太郎】
風車使徒としてたたずんでいる
五月空斬り裂いてこそつばくらめ
痛いさ 慣れているだけ

【松田畦道】
暑い日だった祖母の部屋に鉄格子
ぼくにだけみえるともだちマグノリア
痛すぎて止める新技柏餅

【三島ゆかり】
三日月をあしらふビルの島に母といふ母
水面打ち船舶の飛ぶ立夏かな
腰痛のやうに高まる卯波かな

【山崎智佐】
旅先で出会ったことのない虫が飛んでいる
母の日に炎のごとき花贈る
春芽吹く枝の痛みがあればこそ

【山田露結】
眼帯の中の眼も閉ぢぬ
ソース瓶ソースに汚れ祭果つ
眼の奥を川が流れてゐて痛し

【りんこ】
つかれてねむるこども実家の香り
桜咲け米寿の友が笑うから
痛いふりしないと悪い気がして天井を見た

【ロケッ子】
枯れていない花を捨て家を出る
蟇鳴くや本当の愛知らぬまま
痛い手をさして盤が近い

以上全34名。
※句の並びは、自由律俳句、定型俳句、題詠句(「痛」)の順。

2013年6月3日月曜日

第13回研鑽句会 結果発表


(最高得点句)

(6点)杜若(かきつばた)にたりやにたり水の影○○○○○○○●

(6点)夕顔にみとるるや身もうかりひょん◎◎○○


(3点)春やこし年や行けん小晦日(こつごもり)◎◎●
(3点)年は人にとらせていつも若(わか)夷(えびす)◎○
(3点)京は九万九千くんじゆの花見哉○○○○●
(3点)盛なる梅にす手引(でひく)風も哉◎○
(3点)春風にふき出し笑う花も哉◎○
(2点)あち東風(こち)や面々さばき柳髪◎○●
(2点)降音(ふるおと)や耳もすう成(なる)梅の雨◎
(2点)岩躑躅(いわつつじ)染むる泪やほとどき朱○○
(2点)七夕のあはぬこころや雨中天○○○●
(2点)萩の声こや秋風の口うつし○○
(1点)花は賎(しず)のめにもみえけり鬼莇(おにあざみ)◎●
(1点)時雨(しぐれ)をやもどかしがりて松の雪○
(1点)うかれける人や初瀬の山桜○
(1点)秋風の鑓(やり)戸(ど)の口やとがりごゑ○
(0点)姥(うば)桜(ざくら)さくや老後の思い出(いで)○●
(0点)月ぞしるべこなたへ入(いら)せ旅の宿
(0点)花の顔に晴(はれ)れうてしてや朧月
(0点)餅雪をしら糸となす柳哉
(0点)花に明ぬなげきや我が歌袋
(0点)糸桜かへるさの足もつれ
(0点)風吹けば尾ぼそうなるや犬桜
(0点)五月雨に御物(おんもの)遠(どお)や月の顔
(0点)しばしまもまつやほととぎす千年○●
(0点)たんだすめ住めば都ぞけふの月
(0点)影は天の下てる姫か月のかお
(0点)寝たる萩や容顔(ようがん)無礼花の顔
(0点)月の鏡小春にみるや目正月○●
(ー1点)なつちかし其(その)口たばへ花の風●

 (以上、30句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。

(作者発表)

・全部 松尾芭蕉

1.春やこし年や行けん小晦日(こつごもり)
2.
(うば)(ざくら)さくや老後の思い出(いで)
3.
月ぞしるべこなたへ入(いら)せ旅の宿
4.
年は人にとらせていつも若(わか)(えびす)
5.
京は九万九千くんじゆの花見哉
6.
花は賎(しず)のめにもみえけり鬼莇(おにあざみ)
7.
時雨(しぐれ)をやもどかしがりて松の雪
8.
花の顔に晴(はれ)れうてしてや朧月
9.
盛なる梅にす手引(でひく)風も哉
10.
あち東風(こち)や面々さばき柳髪
11.
餅雪をしら糸となす柳哉
12.
花に明ぬなげきや我が歌袋
13.
春風にふき出し笑う花も哉
14.
なつちかし其(その)口たばへ花の風
15.
うかれける人や初瀬の山桜
16.
糸桜かへるさの足もつれ
17.
風吹けば尾ぼそうなるや犬桜
18.
五月雨に御物(おんもの)(どお)や月の顔
19.
降音(ふるおと)やもすう成(なる)梅の雨
20.
杜若(かきつばた)にたりやにたり水の影
21.
夕顔にみとるるや身もうかりひょん
22.
岩躑躅(いわつつじ)染むる泪やほとどき朱
23.
しばしまもまつやほととぎす千年
24.
秋風の鑓(やり)()の口やとがりごゑ
25.
七夕のあはぬこころや雨中天
26.
たんだすめ住めば都ぞけふの月
27.
影は天の下てる姫か月のかお
28.
萩の声こや秋風の口うつし
29.
寝たる萩や容顔(ようがん)無礼花の顔
30.
月の鏡小春にみるや目正月