2013年11月29日金曜日

第十九回 研鑽句会


(最高得点句)
ゆき、純粋にふるときのピアノ無音(6点)



(6点)ゆき、純粋にふるときのピアノ無音◎◎○○△
(4点)胎内のようぬくい地下道そこから見えて夕焼地獄◎○○△
(4点)少年更けて蛇の皮のように長い靴下ぬぎすてるとき◎○○△
(3点)つきよのりんごのたねまでたべてしまった○○○△
(3点)見てはならぬものをみてしまった目が星を見ている◎○△△△
(3点)親がゆるしてくれないという女の口をすう◎○○●(コンプリート句)
(3点)ニュースをショックとする日本人の一人吊革をもつ○○○△△
(3点)だまされた私がそこから月夜になって出ていく◎○
(2点)てまくらを鳥のゆくえ◎○●△△(コンプリート句)
(2点)烏のように無口な男のみやげにくれた肉の赤さ○○△△
(1点)劇をみた子供たちが帰っていく幸福な雪道は月が照らす○△△△△△
(1点)夕日が檻の猛獣のあくびする赤き喉の中○△△
(1点)母を愛して吾を憎む父が咳しておられる○△△
(1点)やせこけたほっぺたにのびてゆくひげは春の草か○△
(1点)背徳の美酒として月光の石卓におかれ○△
(0点)点滴あがりからだすきとおりくるほどなつきよ○●△△
(0点)雪、りんごのほほの娘さんがわらってくれるここはロシア○●△△
(0点)笑いは右のポケットに涙は左のポケットに卒業してゆく◎●●△
(0点)獣の道をとおるほか人間になれぬ女のあわせ鏡○●△
(-1点)酒を苦しとしてのむときのはらわたなまこのごとし●△△△△
(無点)このまま死ねるなら死んでもとベッドに月のさしより△
(無点)病めばくぐつのように眼をひらき夜が去れば朝がくる△△△
(無点)テープ華やかな竜と舞うと船が冬海の寂蓼となる△△△
(無点)海の闇さが星をあらわにする吾が心の碇泊△
(無点)遠くで生きるというクリスマスのよるのかきおき△
(無点)シグナル常のごとく作動して正確なり十一月此の日△
(無点)沖縄かえる日水栽培よりひげ根出てほそき△



(以上、27句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆作者紹介

【平松星童】(1926~1987)

 本名 平松美之
 出身 東京
 慈恵医大予科 慶鷹大学国文科卒
 17歳で層雲に参加。
 以降、昭和24年まで、岡野宵火や滝山重三といった同年代の仲間とともに活躍した。
 同時期の千秋子らとともに「浪漫派」と呼ばれる。
 層雲を去ってからは、児童演劇や脚本執筆に専念した。
 昭和44年に層雲に復帰するが、活動期間は前後の期間を通しても10年足らずであった。
 昭和62年2月24日、心不全で死去。享年61。
 今回は、句集『青いスポット』より、全盛時代ではなく、
 層雲復帰後の作品として掲載された27句を取り上げた。
 以下に再掲する。



◆層雲復帰作品(昭和四十四年~昭和四十六年)

点滴あがりからだすきとおりくるほどなつきよ(昭和四十二年大病入院四句)
このまま死ねるなら死んでもとベッドに月のさしより
病めばくぐつのように眼をひらき夜が去れば朝がくる
つきよのりんごのたねまでたべてしまった
テープ華やかな竜と舞うと船が冬海の寂蓼となる(ソ連に行く三句)
雪、りんごのほほの娘さんがわらってくれるここはロシア
劇をみた子供たちが帰っていく幸福な雪道は月が照らす
笑いは右のポケットに涙は左のポケットに卒業してゆく(教師として)
てまくらを鳥のゆくえ
見てはならぬものをみてしまった目が星を見ている
夕日が檻の猛獣のあくびする赤き喉の中 (動物園)
海の闇さが星をあらわにする吾が心の碇泊
酒を苦しとしてのむときのはらわたなまこのごとし
胎内のようぬくい地下道そこから見えて夕焼地獄
ゆき、純粋にふるときのピアノ無音
少年更けて蛇の皮のように長い靴下ぬぎすてるとき (追憶十句)
母を愛して吾を憎む父が咳しておられる
親がゆるしてくれないという女の口をすう
遠くで生きるというクリスマスのよるのかきおき
やせこけたほっぺたにのびてゆくひげは春の草か
シグナル常のごとく作動して正確なり十一月此の日(三島由紀夫自刃二句)
ニュースをショックとする日本人の一人吊革をもつ
烏のように無口な男のみやげにくれた肉の赤さ
獣の道をとおるほか人間になれぬ女のあわせ鏡
沖縄かえる日水栽培よりひげ根出てほそき
背徳の美酒として月光の石卓におかれ (映画「サテリコン」)
だまされた私がそこから月夜になって出ていく


第十九回 鍛練句会


(最高得点句)

抱き寄せられて焼き芋の匂い(5点)
【タケウマ】
合わす手の隙間から風冬が来る(5点) 
【タケウマ】


(5点)抱き寄せられて焼き芋の匂い◎○○○△
(5点)合わす手の隙間から風冬が来る◎○○○△
(4点)雨で二軍に屋根がない◎○○△△
(3点)着ぐるみに儲け話ささやく◎○△△△△
(3点)おれだけの近道知らない犬が来た◎○△△△
(3点)洗濯日和となるがよい朝が近い◎○△
(2点)ほうきの先にある遠心○○△△
(2点)かかとを要点に反転◎△△△△
(2点)くしゃみの出るほど澄んだ夜空だ○○△△
(2点)ウルトラマンの尻ばかり見ている夜長○○○●△△
(2点)ロキソニン飲んで今日はまだ木曜○○△△
(2点)本買った日の晩飯はしっかりと噛む◎△△
(2点)濡れる路上の妻の待つ灯り○○△△
(1点)よごれた土地の売れない菜っ葉だ○△△△
(1点)河豚になったら敵も味方もないからな◎●△
(1点)抱いて寝たはずの犬がこちらに来ている○△△△
(1点)銀河だ穴掘る音音音○△△△
(1点)蚊がおる秋のテラスにおる○△
(1点)イヤフォン外させ道を尋ねる○○●△
(-1点)諦めず読む燃やされずにすんだ本●△△△
(-1点)しんしんと電気満ちゆく電気椅子●△△△△
(-1点)うなぎをマネすると素早い●△△△△
(-3点)白亜の土にやわらかくトリケラトプス光の素足●●●△△
(無点)犯された夜の続きの朝の挨拶△△
(無点)アフターファイブの面した女が香る△△△△
(無点)あけすけなおでんのたまごと真昼△△
(無点)干しもの取りこむサンダルの底冷たい△△△



(以上、27句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆招待者紹介

 【タケウマ氏】

 今回、初めての招待席制度利用で、タケウマ氏をお招きした。
 氏は、わたくし、働猫が敬愛する表現者の一人である。
 「自由律な会アぽろん」に所属されているが、自由律よりも定型句を得意とされている。
 自称俳句愛好家であるが、写真、音楽などその才能は多分野に及ぶ。



◆作者発表(投句順 編者除く)

【馬場古戸暢】
蚊がおる秋のテラスにおる
アフターファイブの面した女が香る
洗濯日和となるがよい朝が近い

【十月水名】
河豚になったら敵も味方もないからな
銀河だ穴掘る音音音
あけすけなおでんのたまごと真昼

【藤井雪兎】
本買った日の晩飯はしっかりと噛む
着ぐるみに儲け話ささやく
ウルトラマンの尻ばかり見ている夜長

【中筋祖啓】
うなぎをマネすると素早い
かかとを要点に反転
ほうきの先にある遠心

【小笠原玉虫】
抱いて寝たはずの犬がこちらに来ている
よごれた土地の売れない菜っ葉だ
ロキソニン飲んで今日はまだ木曜

【風呂山洋三】
濡れる路上の妻の待つ灯り
干しもの取りこむサンダルの底冷たい
くしゃみの出るほど澄んだ夜空だ

【地野獄美】
おれだけの近道知らない犬が来た
諦めず読む燃やされずにすんだ本
イヤフォン外させ道を尋ねる

【タケウマ】(招待)
抱き寄せられて焼き芋の匂い
合わす手の隙間から風冬が来る
しんしんと電気満ちゆく電気椅子

【畠働猫】(編者)
犯された夜の続きの朝の挨拶
白亜の土にやわらかくトリケラトプス光の素足
雨で二軍に屋根がない


以上9名

2013年11月28日木曜日

風呂山洋三さんの句集感想文

この度は、風呂山洋三さんのブログ件、句集とも言える『風呂山書房』を印刷して読んだ。
そのところ、風呂山さんの世界観には、田舎の人特有の湿気がある事に気がついた。

東北、山陰、北海道と、田舎の人が持っている独特の無口さ、曖昧さ、奥ゆかしさに、一体何が潜んでいるのか?
それが、『風呂山書房』に赤裸々に語られているように感じた。

・自由と言われ身を固くする
・さるものをおう
・書いたあと虚しい
・トイレに用はない
・爽やかな男に生まれ変わりたい
・何も無き秋


奥へ奥へと籠っていく、冬籠もりのような句の連続である。

それらは、

・逆境に強いひとのフリをした

で、結ばれる。

『風呂山書房』には、就職、恋愛、結婚、育児、そして、愛読書と、
様々な人生の節目が訪れるが、本当の主題として貫かれているのは、それらの体験の裏にある、
忍耐力なのではなかろうかと思った。

・蝋人形にしてやろうかと言われた
・口角を何度もあげる面接前だ
・眠れるか眠れないか赤子がきめる
・ちょっとすいません、そこをどけ
・はじっこが定位置である集合写真


普通の人は、10回我慢したら、1回くらいハメを外すものだか、
風呂山さんは、ひたむきに忍耐、耐える事自体を生きがいとしている。

そして、今回、

・光秀の気持ちもわからぬわけでもない

という句が一番、記憶に残った。

明智光秀という武将は、相当に、色んな事を耐え忍んでいたのかもしれない・・・?

一通り読み終えて、整理したところ、

・風呂山さんがトップに立つと分かり易い   祖啓

と、言うことになった。

風呂山さんが頂点に立つと、何かきっと、分かり易い事が起きるような予感がした。

2013年11月8日金曜日

中塚一碧楼を読む~その二

中塚一碧楼の句の観賞です。では、さっそく。


霧の夜の船造りの大工布団に入り


“の”の三連。もたつかず一息にさらりと読めるのは流石です。“入る”ではなく“入り”と止めたのは、余韻の効果を狙ったのでしょうか。また、“り”で韻を踏んでいるところも狙いなのかもしれません。それらの工夫の効果でしょうか。胸にすっと入ってくる句です。


酔えば秋の夜の板の間のおもしろく


酔っているわりには鋭い視線の句。確かに酔うと普段気にも止めなかったことが気になるものです。ここでは“板の間”の木目が気になったのでしょう。こうして秋の夜長を楽しんでいるのかもしれません。また、この句でも“の”で畳み掛けています。速度がついて最後の“おもしろく”が活かされています。


秋の昼赤子口を突出して何ぞ


新しい表情を次々と覚える赤子。時折、驚かされることもあります。非常に共感できる句。また、“秋の昼”という季語が入ることで長閑な感じが強調されています。当時はまだ季題の放棄をしていない頃でしょうか。季題を棄てて久しく経った現代の海紅においても「“季”の力を借りる」として、このような手法は受け継がれています。


梨を食うているやさしい悪者でした


大好きな句なのですが、実は句意が図れません。何となく父親や兄のことではないかと思いました。もしかしたら師匠のことかもしれません。いや、これは深読みですね。いずれにせよ、分かる句ではなく感じる句です。“やさしい”の後に、海紅でよく言われる“キレ(屈折)”を感じます。よいお手本です。


鯊釣りの帰りの鯊が少なうて洲崎に灯が入った


釣果が上がらないまますっかり日が暮れてしまったのでしょう。秋の日暮れを存分に感じさせる句です。ここでは“洲崎”と場所が限定されているところに着目したい。そこに行ったことがある者ならば、さらなる共感を覚えることでしょう。例え私のようにその場に行ったことが無い者でも、イメージとして広がります。また“鯊釣りの帰りの鯊が”と少々まどろっこしい言い方ですが、これは強調でしょうか。その効果についてはもう少し考えてみたいと思います。

それでは、今回はこの辺にて。