2012年5月3日木曜日

第一回 研鑽句会


最高得点句
無邪気に出された舌が汚い

最低得点句
前住民宛に届いたカタログが分厚い
福神漬けと同じ色のカーディガンで来た
友達が高層マンションの二階に住んでいる
空にカッターを当てて さよならエモーショナル


互選集計
(5点) 無邪気に出された舌が汚い◎◎○
(3点) 夕暮れだ逃げろ◎○
(2点) 知人に香典を借りて一枚抜いて渡す◎
(2点) 花の蜜を吸って歩いて吸って歩いてひとりで帰る◎
(2点) 摩耗した部屋にタバコの煙とdub◎
(2点) 幹事の死角に入る○○
(2点) 脱ぎ捨てた服のたわみも 昨日のまま○○
(1点) 春の雨の軒下の知らない猫と居る◎●
(1点) 直射日光を浴びているスナックの外壁○
(1点) ゴマだれで幕を開けた○
(1点) もう会わないというふりだから待て○
(1点) 夕方に入り込んで来た蜘蛛を助けたんだ○
(0点) 老人用手押し車の小さな車輪が昨日の雪を砕いて進む●○
(0点) オリバー・カーンの等身大パネルが作る日陰にコケ●○
(-1点)前住民宛に届いたカタログが分厚い●
(-1点)福神漬けと同じ色のカーディガンで来た●
(-1点)友達が高層マンションの二階に住んでいる
(-1点)空にカッターを当てて さよならエモーショナル●
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。


作者発表(ユリイカ 2011年10月号より)

【せきしろ】
老人用手押し車の小さな車輪が昨日の雪を砕いて進む
知人に香典を借りて一枚抜いて渡す
綿毛を蹴散らし親指で首をはねる
直射日光を浴びているスナックの外壁
花の蜜を吸って歩いて吸って歩いてひとりで帰る
この絵馬には願い事が計六つ書いてある
まだ貼られていた表彰状
バス停に置かれた不揃いの椅子には座らず
出かける前に親が喧嘩を始めてしまった
オリバー・カーンの等身大パネルが作る日陰にコケ

【又吉直樹(ピース)】
夕暮れだ逃げろ
無邪気に出された舌が汚い
また物真似されている
前住民宛に届いたカタログが分厚い
天狗のお面で待っているが誰も来ない
ゴマだれで幕を開けた
福神漬けと同じ色のカーディガンで来た
幹事の死角に入る
友達が高層マンションの二階に住んでいる
もう会わないというふりだから待て

【山口一郎(サカナクション)】
夕方に入り込んで来た蜘蛛を助けたんだ
脱ぎ捨てた服のたわみも 昨日のまま
子供の手を握りしめてもいいかい
濁ってくモラトリアムと水平な君
知らぬ間に手に刺さっていたトゲもそのまま
摩耗した部屋にタバコの煙とdub
凪いでる表参道に何を感じようか
空にカッターを当てて さよならエモーショナル

17 件のコメント:

  1. 無邪気に出された舌が汚い(5点)

    【句評】
    ◎「作った感じのしない句」
    ◎「子供であれば、舌にまで頓着はしないだろう。若い女であれば問題である」
    ○「予定調和とは違う何か。現実ってこんなもん」

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  2. 夕暮れだ逃げろ(3点)

    【句評】
    ◎「おそらく自分に対してぶつけた句でしょう。誰も壊せない世界への恐れと悔しさ。鮮烈です」
    ○「少し嘘くさいですが、心境はわかります」

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  3. 知人に香典を借りて一枚抜いて渡す(2点)

    【句評】
    ◎「これぞ人間の業だなあ、というのがまず。その業が、ことさら否定も肯定もされずに、そのまま一連の動きとして切り取られている。そのおかげで、かなしみとおかしみが同時に見えて、結局この句の主人公を憎めない。付け加えると、一枚抜いて渡すものが、祝儀ではなく香典というところが尚更良いな、と思いました。どっちもやっちゃダメですが、香典の方がより陰のあるダメさが感じられて僕は好きです」

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  4. 花の蜜を吸って歩いて吸って歩いてひとりで帰る(2点)

    【句評】
    ◎「こういう感覚が単純に好きです。エロいんだけど自己完結」

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  5. 摩耗した部屋にタバコの煙とdub(2点)

    【句評】
    ◎「『摩耗した部屋』の薄汚れ感、モヤモヤと視界を遮る『タバコの煙』、過剰にエフェクト処理された『dub』の音色。このどこか共通したニュアンスを持つ三つの単語が、言葉自体の持つ意味に於いて韻を踏み(意韻)、デカダンスな空気を作り上げている」

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  6. 幹事の死角に入る(2点)

    【句評】
    ○「放哉のあの句のパロディなのかもしれませんが、かなり上手くやっているので参りました」
    ○「何気ない飲み会の風景を詠んでいておもしろい。あるいは、幹事と目が合えば余興をふられるため、うまいこと逃げたところか」

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  7. 脱ぎ捨てた服のたわみも 昨日のまま(2点)

    【句評】
    ○「自分と重ねているのでしょうか?なんだか惹かれました」
    ○「昨日と今日何も変わってない現実」

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  8. 直射日光を浴びているスナックの外壁(1点)

    【句評】
    ○「スナックの外壁は夜そのものだと思うのですが、そこに直射日光が当たっているという情景がまず良くて、更に『浴びている』としたことで『スナックの外壁』に誰か(僕は自分自身としたいですが)がいる情景も浮かんできました。酒や酔いといった言葉もないのに、この、飲み明かした朝の感じ。すごい共感性だなと思いました」

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  9. ゴマだれで幕を開けた(1点)

    【句評】
    ○「いつもの食事風景か飲み会風景か迷ったが、後者だろう。『幕を開け』る日常の食事などまずないからだ。飲み会での意気込みが伝わる」

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  10. もう会わないというふりだから待て(1点)

    【句評】
    ○「本音と建前が常に交差する人間はいつも焦っているのです。私も含めて。だから、時間を下さい」

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  11. 夕方に入り込んで来た蜘蛛を助けたんだ(1点)

    【句評】
    ○「『蜘蛛を助ける』という行為からは、どうしても芥川龍之介の蜘蛛の糸を連想してしまって、多少使い古しの感も否めない情景だなあと思ったのですが、そうは言っても『夕方に入り込んで来た』という言葉と、句全体の語感を気に入ってしまいました」

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  12. 老人用手押し車の小さな車輪が昨日の雪を砕いて進む(0点)

    【句評】
    ●「老人の生命力であるとか、あるいは老いに由来する無遠慮さだとかそういう印象を受けたのですが、いかんせん説明感が強いな、と。わざわざ『老人用』としてあるので、句の主人公は老人ではないのかもしれませんが、であるならばなおのこと『老人用手押し車』という言葉が只の説明文になっているように思いました」
    ○「ポイントは『老人用手押し車の小さな車輪』の部分。長律の句は語るべき言葉が溢れる事によって生まれる。きっと作者が過剰な程に言葉を重ねても描きたかったのは“今”と云う時代性だったのではなかろうか。時代性を強く備えた句は風化しやすいが、それでも、“今”と云う時代を記録しておく事は十分に価値と必要性を感じる。短律の不変性(超時代性)とは真逆の、瞬間性(時代性)を持った句であり、そこに現代の長律の可能性をみる」

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  13. オリバー・カーンの等身大パネルが作る日陰にコケ(0点)

    【句評】
    ●「頭の中で単語をパズルのようにそれっぽく組み立てただけ。写生句という見方をしても何の詩情も風情も感じられない」
    ○「ポイントは『オリバー・カーンの等身大パネル』の部分。長律の句は語るべき言葉が溢れる事によって生まれる。きっと作者が過剰な程に言葉を重ねても描きたかったのは“今”と云う時代性だったのではなかろうか。時代性を強く備えた句は風化しやすいが、それでも、“今”と云う時代を記録しておく事は十分に価値と必要性を感じる。短律の不変性(超時代性)とは真逆の、瞬間性(時代性)を持った句であり、そこに現代の長律の可能性をみる」

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  14. 前住民宛に届いたカタログが分厚い(-1点)

    【句評】
    ●「なかなかこの辺のよくある事って、句に表現する場合難しいと感じます」

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  15. 福神漬けと同じ色のカーディガンで来た(-1点)

    【句評】
    ●「『福神漬けと同じ色』ってのは、ちょっと狙い過ぎでしょ?」

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  16. 友達が高層マンションの二階に住んでいる(-1点)

    【句評】
    ●「句になっていない。駄作」

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  17. 空にカッターを当てて さよならエモーショナル(-1点)

    【句評】
    ●「何を詠んだものなのか、いまいち想像できなかった」

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