2012年5月6日日曜日

新メンバーの白川玄齋です。句の材料として、唐の詩人の白居易の『春江』という漢詩を訳してみました






●原文:


春江 (唐)  白居易

炎 涼 昏 曉 苦 推 遷  不 覺 忠 州 已 二 年

閉 閣 只 聽 朝 暮 鼓  上 樓 空 望 往 來 船

鶯 聲 誘 引 來 花 下  草 色 句 留 坐 水 邊

唯 有 春 江 看 未 厭  縈 砂 繞 石 淥 潺 湲



●書き下し文:


題: 「春江(しゅんこう)」 (唐)  白居易

炎涼(えんりょう)昏暁(こんぎょう)
推遷(すいせん)すること苦(はなはだ)しく、
覚えず忠州(ちゅうしゅう) 已(すで)に二年なるを。

閤(こう)を閉じて只だ朝暮(ちょうぼ)の鼓(こ)するを聴き、
楼に上りて空しく往来の船を望む。

鶯声(おうせい)誘引(ゆういん)せえられて花下に来て、
草色(そうしょく)勾留(こうりゅう)せられて水辺に坐す。


唯(た)だ春江(しゅんこう)の看(み)るに未(いま)だ厭(いと)わざる有り、
砂を縈(めぐ)り石を繞(めぐ)りて淥(りょく)として潺湲(せんかん)たり。



●語注:

※昏暁(こんぎょう): 夕暮れと明け方、朝と夜のことです。

※苦(はなはだし): 「ひどい」という意味です。

※推遷(すいせん): 移り変わることです。

※淥(りょく): 水が清いことです。

※潺湲(せんかん): 水がさらさらと流れる音のことです。



●現代語訳:


題: 「春の川の風景を詠みました」 

熱さや涼しさ、朝と夜が時とともに早く移り変わって、
こんな忠州(ちゅうしゅう)の田舎に、二年も
いたことにも気づかないくらいでした。

家の門を閉じて、朝と夜を示す太鼓をただ聞くだけで。
高い建物に登って空しい気持ちで行き来する船を眺めるだけの生活でした。

鶯の鳴き声に誘われて花の下までやって来て、
草の緑の色に引き留められて水辺に座っていました。

そこではただ春の長江の見飽きることの無い風景が広がっていました。
砂や石のまわりをめぐる清い水のさらさらとした流れがありました。



●解説:


新メンバーの白川 玄齋 です。
この『鉄塊』の染料の一つとなるべく、これからがんばっていきます。


私はもともと高校の頃から漢文をしておりまして、
その後、漢詩をするようになりました。
それからはこうして昔の漢詩を訳すことも日課としておりました。


今回は唐の詩人の白居易(はくきょい)の漢詩を訳しました。

白居易は、皇帝の玄宗と楊貴妃の悲恋を綴った長編の漢詩の
『長恨歌(ちょうごんか)』の作者として有名です。

白居易は皇帝が変わって低い身分の者にも
科挙(かきょ)という高級官僚の試験を受験できるようになったあとに、
低い身分から科挙に合格して高級官僚の仲間入りをした一人で、
そのために当時は「受験の神様」の扱いになっていました。

彼の詩集が日本に伝わっているのも、
こういう部分の影響が大きいのではと思っています。


元和(げんな)十三年( 818 年)の末、
江州(こうしゅう: 今の江西省九江市)に左遷されていた、
白居易(はくきょい)は、刑を減じられて
忠州(ちゅうしゅう: 今の四川省忠県)に赴任しました。
この漢詩は、そういう時期に詠まれたものです。

江州という場所は当時はとても厳しい場所だったそうです。
忠州という場所はそれよりは大分ましだとは言うものの、
史跡も何もない、ごく普通の田舎だったそうです。

そんな中で、自然の景色の中で自分を慰めていった、
そんな詩人の姿が浮かびます。

私も与えられた環境の中で、全力を尽くしていこう、
改めてそう思いました。


『鉄塊』は自由律俳句の会ですので、こういう漢詩を紹介して、
それに対して皆さんが句を作る、そういう試みはどうかなと、今回思いました。

メンバーの皆さんもご感想を寄せてくれると嬉しいです。
今後とも、よろしくお願いいたします。

9 件のコメント:

  1. こんにちは。初めまして。
    畦道と申します。

    古典を踏まえて新しいものを作る、というのは俳句のみならず、様々な分野で繰り返し、行われてきたことと思います。

    しかし……『鉄塊』で漢詩とは意外でした(焦)。
    漢文は高校の授業で少し習った程度で、訳文を鑑賞するのが精一杯ですが、なんとかいい句想が得られるよう、頑張ります。

    こうして、様々な分野から刺激を受ける、というのはなかなかよいものですね。

    今後とも宜しくお願い致します。

    畦道拝

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  2. 白川玄齋様

    初めまして。
    畦道と申します。

    古典を踏まえて新しいものを作る、というのは俳句のみならず、様々な分野で繰り返し、行われてきたことと思います。

    しかし……『鉄塊』で漢詩とは意外でした(焦)。
    漢文は高校の授業で少し習った程度で、訳文を鑑賞するのが精一杯ですが、なんとかいい句想が得られるよう、頑張ります。

    こうして、様々な分野から刺激を受ける、というのはなかなかよいものですね。
    お互い、よい影響を与え合っていきましょう。

    今後とも宜しくお願い致します。

    畦道拝

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    1. 畦道 様

      こんばんは。玄齋です。コメントをありがとうございます。
      漢詩や漢文はあまりお仲間がいない状況です。
      ですからこそ、わかりやすい解説に努めていきたい、そう思っています。

      私は何よりも重要なのが現代語訳と、背景を解説する文章だと
      思っています。書き下し文の響きの美しさよりも、
      「そこに何が書いてあるか」が一番大切だと思っています。

      『鉄塊』の皆さんのお役に立つためにも、きちんとわかりやすく
      現代語訳と解説を示していこうと思います。

      そして、私自身の自由律俳句の句作に役に立つように、
      しっかりと基本的なことをおさえて学んでいきます。

      今後ともよろしくお願いいたします。とても嬉しいです。


      白川 玄齋 拝

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    2. 白川さん今晩は。藤井です。よろしくお願い致します。
      丁寧な訳をありがとうございます。

      私も漢詩はいくつか読んだことがありますが、
      現代中国の詩はどうなっているのでしょうか?
      あのような社会情勢でどのような詩が書かれているのか気になります。

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    3. 藤井雪兎 さん、おはようございます。
      コメントをありがとうございます。
      これからもわかりやすい訳に努めていきます。

      現在、中国の詩は三種類に分かれているようです。

      一つめは、現在も日本人も親しんでいる漢詩のことで、
      中国ではそのルールが唐の時代に確立したことから
      「唐詩(とうし)」と呼ばれています。

      二つ目は、今の発音に合わせた韻を用いた漢詩です。
      私も、新しい韻のルールを説明した本である、
      『中華新韵府(ちゅうかしんいんふ)』
      という本を買って勉強しています。
      三千円くらいの本ですが、とても分厚いです。

      唐詩は昔の言葉を元に作るという原則がありますので、
      「電脳(コンピュータ)」などの言葉を使う時は
      新しい韻で作るのが良いということです。

      三つめは韻を踏まない「自由詩」です。
      こちらは若い詩人も何人もいるそうです。
      中国語で書かれたこの種の詩の月刊誌があるそうですが、
      中国国内では販売禁止だそうです。
      文学には政治批判の部分が存在するからだと思います。

      思潮社から何作か、中国の現代詩の日本語訳が
      出版されています。月刊誌の『現代詩手帖』でも、
      時折、中国・台湾・韓国の詩の特集が組まれています。

      中国・台湾の現代詩は、故郷を遠く離れて異邦人のように
      過ごしている現状を綴ったものや、
      道教への信仰と現実社会での政治の動乱をまじえて
      詠んでいるものなどが目に留まりました。

      アジアの詩歌にもいろんな形があるようです。
      私も負けずにがんばっていきたいなと思います。

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  3. 白川さん
    はじめまして渋谷と申します。
    高校の頃から漢詩とはすばらしいです。
    いろいろ、難しい漢字の読みや、その意味を教えてくださり、ありがとうございます。
    今後ともよろしくお願いします。

    自作の漢詩など、あればまたお聞かせください。

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    1. 渋谷さん、おはようございます。初めまして。玄齋です。

      高校二年の頃に叔父の戒名の中に「和光」という言葉があり、
      それを調べると『老子』の中の
      「和光同塵(わこうどうじん)」という言葉が出てきて、
      「自分の才能を隠して世の中の人々の間で過ごすこと」
      という言葉の意味に感動し、漢文や漢詩を学んでいこうと思い、
      受験科目とも関わりもなく学んできました。
      漢詩の師匠などとの出会いによって、きちんとした勉強が
      出来るようになってきたのも嬉しいです。

      自作の漢詩については、メンバーのプロフィールが
      更新された時にその文面に入れるように、
      お願いしておりますので、更新した後にじっくりと
      見ていただければとても嬉しいです。

      自由律俳句も基礎からしっかりとがんばります。
      今後ともよろしくお願いいたします。

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  4. はじめましてよろしくお願いします。
    芭蕉や蕪村も漢詩を愛していましたし、俳句(随句)と漢詩は密接な関係なのかも知れませんね。この漢詩も俳句(随句)に近い味わいを感じます。

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    1. 木葦さん、おはようございます。初めまして、玄齋です。

      俳句の季語の中にも、漢詩や漢文の文字が用いられて
      いるものもあります。例えば「踏青(とうせい)」
      という春の季語があります。

      これはもともと旧暦三月三日の上巳(じょうし)の節句に、
      野原に出て青々としてきた草の上を歩いて酒宴をした
      事が元になっています。今では春のピクニックを表す
      言葉としても使われています。

      こういう例もいくつかあるようです。

      こういう部分も自由律俳句のお役に立てればいいなと
      思っています。わかりやすい訳や解説をしながら、
      自由律俳句もしっかりと学んでいきます。

      これからもよろしくお願いいたします。

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