2012年8月7日火曜日
第三回 研鑽句会
最高得点句
僕の春反古破るべし破るべし
最低得点句
すべてが散文的に梨の木花つけた
互選集計
(5点) 僕の春反古破るべし破るべし ◎◎○
(4点) 祖父の仕事した品の一つ売れてゆく雪の日 ◎○○
(4点) 母をおろそかにして梨の汁を垂らし食っている ◎◎
(3点) 少し風邪気味の声の女体に触れんとす ◎○
(3点) しゃべるじゃない冬の日ずっと空のあかりだ ◎○
(3点) いつぱい白い雲いなごをつかむ ◎○
(2点) ことし君に鯊の句のないさびしさを君に云わず ○○
(2点) 春日に病めるドロップの蜜柑の味のを噛みしめ ○○
(2点) 今に見ろ名も知らぬ黒い大きな種を蒔きたり ○○
(2点) 君に出会ひたる紫陽花の咲き初じめ ○○
(1点) 春の雨を歩き一つの罪をつぐなふごとし ○
(1点) のうぜんの花活けて赤ければきみが来る ○
(1点) 降りて雪なるこの町のささやかなさま ○
(1点) 芝居茶屋を出てマントを正す口に唄出る ○
(1点) 金に困りぬいて冬の半島を一まはりして来た ○
(1点) 波あをく実力のごとく盛夏寄せる ○
(1点) 昼酔うて青草に寝ころびぬ人々の行く ○
(1点) 女が嫁ぐ夜が来た椿たやすく折れる ○
(1点) 鞄をさげて一生をかたい道を冬の日 ○
(0点) 庭のまはり自分らのまはり猫のからだののび ○●
(-1点) 柊の木は古典少女がいて冬の雨ふる ●
(-2点) 青大将がぶら下がっていて誰も通れない ●●
(-4点) すべてが散文的に梨の木花つけた ●●●●
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。
作者発表
【相沢華芳】
すべてが散文的に梨の木花つけた
波あをく実力のごとく盛夏寄せる
【浅野麗木】
少し風邪気味の声の女体に触れんとす
少年ねむる菜の花の匂ひあるてのひらでした
【神谷たづ子】
春の雨を歩き一つの罪をつぐなふごとし
一りんも咲かぬ梅の木は孤独の自由に向き
【河東碧梧桐】
芝居茶屋を出てマントを正す口に唄出る
昼酔うて青草に寝ころびぬ人々の行く
【妹尾美雄】
鞄をさげて一生をかたい道を冬の日
【滝井折柴】
祖父の仕事した品の一つ売れて行く雪の日
のうぜんの花活けて赤ければきみが来る
降りて雪なるこの町のささやかなさま
終駅におろされた俺の草摘みに行く
金に困りぬいて冬の半島を一まはりして来た
庭のまはり自分らのまはり猫のからだののび
君に出会ひたる紫陽花の咲き初じめ
僕の春反古破るべし破るべし
【竹内唯一郎】
春日に病めるドロップの蜜柑の味のを噛みしめ
今に見ろ名も知らぬ黒い大きな種を蒔きたり
女が嫁ぐ夜が来た椿たやすく折れる
【中塚一碧楼】
青い林檎を噛ぢるなんといふ眼の鋭さだ
ことし君に鯊の句のないさびしさを君に云わず
あをぎりの茂りを切りこんで地へとび下りた
母をおろそかにして梨の汁を垂らし食っている
柊の木は古典少女がいて冬の雨ふる
しゃべるじゃない冬の日ずっと空のあかりだ
いっぱい白い雲いなごをつかむ
すこし錆びておる鋏できりとつた野菊の花
【福島一思】
無言で歩く並んであるく父に夏空
【松宮寒骨】
青大将がぶら下がっていて誰も通れない
※五十音順
登録:
コメントの投稿 (Atom)
僕の春反古破るべし破るべし(5点)
返信削除【句評】
◎「有季十七音の句であるが、他の自由律と並んで何ら違和感はない。『僕の春』という上五の何とも言えぬ青さ、破るべし、の繰り返しが生み出す余韻、全てにおいて巧み。言いたいことは溢れてくるが何一つ形にならない、若き日のひとこまを見事に表現している。」
◎「私は青春詠として読みました。「破るべし」のリフレインが若さ特有の焦燥感や苛立ちと感じさせ、一際強い印象を残しました。」
○「『僕の春』というのは恋情の比喩で、『反古』とは恋文なのでしょうが、それを破ると決めた。それも『破るべし破るべし』という強い言い方をするほどの決意で。
そうと見れば、この恋はきっと、一方的な片思いだったのでしょう。そしてそれを伝えることなく、(恐らくは何か決定的な出来事があって)失恋し、恋文を破る。あるいは、新しい春(恋)を見つけたが為にその行為は行われるのでしょうか。
どちらにせよ、身勝手だと思いますが、それは若さが故でしょう。そうした若さ故の身勝手さ強く感じられ、そしてそれをうらやましいと思いました。」
畦道です。
削除本句、特選に頂きました。
他にとられた方の評にこれは恋文だとあり、なるほどと思いました。
私としては、十九二十歳の時分に、誰に見せるわけでもなくノートへ書き殴っていた、詩ともなんともつかぬものを思い出しました。
……いま、ぜったいに見たくないけど(笑)。
青春の反古、人それぞれあるものです。
畦道さん
削除この句は、最初定型とは思いませんでした。
研鑽句会に取ったのも、他に混ざっても遜色のない句だと思ったからであります。
こうして、皆様の評を読んでいると、様々な視点があり面白いと感じましたよ。
僕はこの句をこの選では取らなかったのですが、やはり「破るべし」の繰り返しがこの句の魅力だと思います。
この場合、破るのは反古なんですが、本当は「僕の春」のような気がしてなりません。
渋谷様
削除そうですね、定型というよりはたまたま十七音になっただけかも知れません。
私が真っ先に思い出すのは、
ちんぽこもおそそも湧いてあふれる湯 山頭火
です。これも十七音ですが、これを定型とする読者は少ないでしょうし。
「破るべし」の解釈、なるほどと思いました。
自分の殻を破る、という含みを持って鑑賞すると、また味わいが増しますね。
祖父の仕事した品の一つ売れてゆく雪の日
返信削除【句評】
◎「正しい社会の仕組みが穏やかな雪の日に包まれている。他の句の風変わりな表現も面白かったが、この句の余韻が一番心地よかった。」
○「この句には静謐な時間と何人も犯してはいけない神聖さがある。どこかの片田舎なのか、都会なのか、何を作っているのかも分らない。だが人の営みの大切な部分をこの句は伝えてくれる。」
○「具体的にどこで何を商っているのかは語られない。漠然としていながら、厳しい『生活』の現実がそびえ立つような一句。祖父としたのもこの句を成功に導いている。父と母では生々しすぎる。妹、弟では可愛すぎる。どうでもいい、たいした儲けにならないものが売れた感じ。その景に雪がよく似合う。」
私が特選で取りました。
削除「祖父」と「雪の日」がまたいいんですよね。
好きだなぁ。しみじみ来ます。
藤井様
削除私もこの句並選で取りました。
滝井孝作の実家は飛騨の指物師だったとか。
そうなると売っていたのは、伝統工芸品だった訳ですね。
雪の日って言葉がホントに効いてますよね。
余韻が素晴らしいです。
なるほど、伝統工芸品ですか。
削除手作りっぽい所がまたいいですね(´∀`)
工場で大量生産となるとこの趣きは出ませんね。
母をおろそかにして梨の汁を垂らし食っている(4点)
返信削除【句評】
◎「ごく私的な理由のみでこの句を特選とした。この句はなんと自虐的な句だろうか。母をおろそかにするという罪悪感と、梨の汁を手に垂らして食っているだらしなさや不快感。この取り合わせが全てだと思う。この感覚が何とも自分には適当だったのである。」
◎「なんだか、いろいろあったんだろうなぁ、という心境が浮かんできて選びました。いろいろあったので、梨の汁を垂らして食っているのであろう、と。」
少し風邪気味の声の女体に触れんとす(3点)
返信削除【句評】
◎「人間の三大欲求の中に、性欲はあっても、相手の体調を気遣う欲?は含まれておりません。」
○「温度を感じさせる句。ほどよいカビ臭さの漂う懐古的エロスがあります。」
しゃべるじゃない冬の日ずっと空のあかりだ(3点)
返信削除【句評】
◎「冬の一日、『ずっと空のあかりだ』という事ですから、部屋の灯りはずっと消えているのでしょうか。その中で沈黙が続いているのでしょう。一人なのか、誰かといるのか、どちらにせよ、その沈黙は決して不快なものではないと思います。冬の日の静けさが丁寧に切り取られていて、まどろみのような心地良さを覚えました。あるいは『冬の日』はそのまま太陽の事かもしれません。それはそれで冬の太陽の日差しのやわらかさと、日差しへの喜びが見えて心地良いです。」
○「言葉がいらないのか見つからないのか、空のあかりしかないのかそれ以外目に入らないのか。『冬の日』というぼんやりとした雰囲気に覆われているためか、喜びと悲しみが混ざり合っている複雑な句に思われた。」
今回、この句を取らなかったのですが、この句は好きな句ですね。
削除実はこの句には、題がついていて、「倅にいう」とタイトルがついています。
僕は、この意味不明な句が、何か大事な秘伝を伝授しているように感じていました。
冬の太陽にはなんとも慈悲深い暖かさがあります。
それだけで、いいじゃないですか。
私は並選で取らせて頂きました。
削除何回読んでもこれと言った説明ができないのですが、
何故か無視できない魅力がありまして。
「倅にいう」という事は親子の会話なのでしょうが、
それが「しゃべるじゃない」というのは面白い。
そして「ずっと空のあかりだ」と続く。
父性的な優しさを感じます。
いつぱい白い雲いなごをつかむ(3点)
返信削除【句評】
◎「情景を上手く表現した秀句。」
○「やはりこういった、雲がいきいきとしている句は気持ち良い。」
ことし君に鯊の句のないさびしさを君に云わず(2点)
返信削除【句評】
○「句友に毎年ハゼを詠む方がいらしたのでしょう。しかしこうして句にしている以上、君に云ったことになると思うのです。」
○「一句の中に『君』が二回でてくるが、結局『云はず』なのである。云わないんかい!と突っ込みたくなる。ある句友が鯊を詠むのを、毎年楽しみにしていた作者。ちょっと不気味だ。そんなに鯊が好きなんて。『君』は鯊のある土地から引っ越してしまったのだろうか。あるいはこの世を去ったのか。」
春日に病めるドロップの蜜柑の味のを噛みしめ(2点)
返信削除【句評】
○「春とはいえ、まだ早春のころと勝手に想像している。ドロップと言えばサクマのドロップ、その蜜柑の味とはまた素朴。病に伏せ食べるこの味は何とも滋味に溢れてる気がして仕方がない。」
○「ドロップの味は本物と結構違いますよね。かい氷のシロップも。句としては少しくどい気もします。」
今に見ろ名も知らぬ黒い大きな種を蒔きたり(2点)
返信削除【句評】
○「なぜか、ほのぼのとしている状況だと思います。よっぽどヒマなのか?腹が立っているのか?そっちにせよほのぼの。」
○「今に見ろ、という強い言い切りが全て。極端な話、今に見ろに続く言葉は何でもいいのではないか、とも。そこでこの作者は、何だかよく分らない種を、闇雲に畑にまいてみせた。調べて確かめている時間はない。その性急さ、その焦燥に、黒い大きなという形容が相応しい。」
君に出会ひたる紫陽花の咲き初じめ(2点)
返信削除【句評】
○「五月が六月の紫陽花が咲き出すころにちょうどふたりは出会ったのでしょう。男と女の物語は、ここからはじまります。」
○「紫陽花の絢爛たる華が出会いの演出を印象深くしている。シンプルだが完成している句だと思う。」
春の雨を歩き一つの罪をつぐなふごとし(1点)
返信削除【句評】
○「一読して、まずは自虐的陶酔を感じる句だな、と思いました。それが共感の範疇に収まっているのは、罪の数を『一つ』としているからでしょうか。あるいは『ごとし』ですから、実際のところは罪はないのかもしれませんが。
ともかく、宇宙歩く中でそうした気持ちになることには大いに共感できます。そんな自虐的陶酔の甘さも相俟って、春の雨の許すようなやわらかさと、咎めるような冷たさを強く感じました。」
のうぜんの花活けて赤ければきみが来る(1点)
返信削除【句評】
○「暑い日差しの中、女性の足音が聞こえてきそうです。」
降りて雪なるこの町のささやかなさま(1点)
返信削除【句評】
○「さりげない言葉の組み合わせだが、どうも、心地良い状況であることが伝わってくる。」
芝居茶屋を出てマントを正す口に唄出る(1点)
返信削除【句評】
○「誰にも覚えがあるのではないでしょうか。映画を見て映画館から出てくる。その映画の主人公にでもなった気持ちである自分を...」
金に困りぬいて冬の半島を一まはりして来た(1点)
返信削除【句評】
○「『冬の半島を一まはりして来た』は、表現としては過剰な部類だと思います。思いますが、その過剰さが金に困りぬいている様子をより強く感じさせます。いや、もしかしたら実際に半島を一まはりしたのかもしれません。その時去来する感情はなんでしょう。不安?悲哀?焦燥?憤慨?諦念?僕はそれら全てだと思い、またそれらの感情を共有したようにも思います。そうした訴求力の強さは、この句の詩性の強さが為だと思います。」
波あをく実力のごとく盛夏寄せる(1点)
返信削除【句評】
○「『実力のごとく』とは面白い。確かに盛夏は堂々としており、実力が無ければあのような態度は取れないだろう。ただ、他の季節が裏取引などの非合法な手段を用いているように見えて困りものだが。」
「実力」という言葉が季節に結び付いて来るとは思いもよらなかったので並選で取らせて頂きました。
削除「散文的に~」の句は取りませんでしたけど…
この方(相沢華芳)は結構ギリギリの所を攻めて来ますね。
なんか独特の表現ですよね。
削除夏を実力。梨の花を散文的。
僕としては、散文的の句の方が好みです。
そんなに詩情が無い咲き方だったんですかね。
でも、この華芳の二句は共にその絵が想像できるんですよね。
確かに二句とも絵は想像できますね。
削除「散文的」は何がいけなかったのか…
読み手の中で眠っている体験を刺激しなかったのでしょうか。
散文的は、印象がやはり散文的で、まとまりがないように感じるのかな?と思います。
削除この句の持つ雰囲気がいいと思うのですが、やはり共感は得られにくかったのでしょうね。
昼酔うて青草に寝ころびぬ人々の行く(1点)
返信削除【句評】
○「世間体など関係ないですね。」
女が嫁ぐ夜が来た椿たやすく折れる(1点)
返信削除【句評】
○「この椿が女の今後の生を暗示するとすれば、はたしてこの女は幸せに暮らせたのでしょうか。」
鞄をさげて一生をかたい道を冬の日(1点)
返信削除【句評】
○「冬の厳しさが生きる事の厳しさと重なる。ズシリと重い句。」
庭のまはり自分らのまはり猫のからだののび(0点)
返信削除【句評】
○「居場所を決めかねている自分とは違い、それが無いなら作ればいいとでも教えてくれそうな猫ののびである。猫に憧れる人間が多いわけだ。」
●「くどい感じがしました。もう少しコンパクトに、ひとつの景に集中して詠んでほしいです。」
柊の木は古典少女がいて冬の雨ふる(-1点)
返信削除【句評】
●「どこに大きな疵があるわけではないのだが、何故か散漫な印象。古典少女、との表現はやや雑か。『少女』が『いて』、『雨』が『ふる』。書いてある以上のものが、何も見えてこないのである。この句の中に何らかのドラマを見出し、共感する読者もいるのだろうが、私には難しかった。」
青大将がぶら下がっていて誰も通れない(-2点)
返信削除【句評】
●「ユーモラスではあるが、もう少し何か欲しい。他の句の切れ味が鋭いため余計にそう感じられる。そもそもマムシならともかく青大将ぐらいならなんとでもなるのではないか。」
●「この句は、残念ながら書いてることそのもので面白いのかもしれないけれど、詩性があまり感じられなかった。」
すべてが散文的に梨の木花つけた
返信削除【句評】
●「「散文的」というのが、どうもひっかかりました。この場合「すべてが雑に」とか「すべてが余計に」でも良かったのでは。」
●「これは机上で作った俳句でしょう。眼差しは素晴らしいのでもったいないです。」
●「『散文的に』をどう読むか、『すべて』が指すものを何と見るかで、印象が変わる句だと思います。そういう多面性はとても好きなのですが、どうにも『梨の木』は浮いていると感じました。恐らく実景で、句の具体性を高める為のこだわりだと思うのですが、いっそうそういう芯、支柱を取り払って、もっと直感的にしてもいいのではと思います。それでもこの句は曖昧なものにならないはずです。」
●「『散文的』という表現はあまり上手くいっていない気がします。」
以上で句評は終わり。
返信削除これらの句は、まとまりもなく、ただ私個人の赴くままに取った句であります。
私の結社『海紅』の過去の先達の句を、私的に集めたものばかり。
ただ、どれも魅力的な句だと思います。
表現も見慣れた自由律とは違った感じもして、ちょっとした刺激に溢れているとも思います。
こうした過去の先達の句を、第二回の研鑽句会でも取り上げたわけですが、それらを宝として今後の自由律に生かさねばと云う思い。
その思いに大いに賛同し、この第三回も同様にと考えた形でございます。
今回は、研鑽句会の発表が1週間ずれましたこと、最後にお詫び申し上げます。
渋谷知宏 拝
渋谷様お疲れさまでした。
削除「海紅」の句は飛躍があって個性的ですね。
「層雲」ではちょっと見ない表現もあって刺激的です。
第二回研鑽句会の趣旨に賛同して頂き誠にありがとうございます。
自由律の豊かな土壌を耕しつつ、
作物の品種改良もして行くのが我々の使命ですね。
藤井雪兎拝
雪兎さん
削除どうもありがとうございます。
品種改良、我々の世代でもしっかりとやって行きたいですね。