2012年9月1日土曜日

第四回 研鑽句会

最高得点句
石になってとんぼうとまらせている

最低得点句
樹の下へ夏が馬のしつぽ
雑踏のエスコルク街の舗道をぬらした雨
青葉の山の湯にわが手わが足

互選集計
(5点)石になってとんぼうとまらせている◎◎○
(3点)きれいな指が字を書いて病んでゐる◎○
(3点)炎天日日丘を伐りひらいてゆく◎◎●
(3点)まっくろなからだ土つけてきた◎◎●
(3点)きょういのちありあすの時計まいておく○○○
(2点)劫火のかがやきの海へ先あらそうて跳ぶ◎
(2点)まいた種が芽を出すたしかさ雨ふる○○
(2点)思うて言わず二人がひとりとなる日のこと○○
(2点)月さすてのひらをあはせる○○
(2点)生来の無器用な手つき仏へ花を挿す○○
(2点)あなたが逝ってからもこんないい夕ぞらの蜘蛛が巣を◎
(2点)あさひ蚊がへやをでてゆく○○○○●●
(2点)ぴよぴよ箱からぴよぴよ網の中あるいてきいろ○○
(1点)夜のつめたい日本の水のむ○
(1点)熱もどうやらあけがたの雲がうごいている○
(1点)台風一過あかるい月です精霊さんお立ちです○
(1点)最後の別れとも窓の白衣の君へ手をふる○
(1点)いのち海に浮き母が朝起せらるるころか○
(1点)うちの正月に子の墓の梅の一枝もらう○
(0点)少女ら縄とびするスカートがすこしみぢかくて夏の日○●
(0点)友の戦死の、そんな句もって句会にきた○●
(-1点)樹の下へ夏が馬のしつぽ●
(-1点)雑踏のエスコルク街の舗道をぬらした雨●
(-1点)青葉の山の湯にわが手わが足●
(無点)きけば石になっている石にあいにゆく
(無点)仕合せというどうみてもかなしい女のうなじ
(無点)ゆきのはらゆきのやねのおじぞうさん
(無点)ちちははのとほく月のよい寝床もしいてもらつて
(無点)船が着いたので女は朝の口紅もさしをえた
(無点)話せば娘四人をもつ悩みをこの母親の白髪

※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。

作者発表

【岡野宵火】
船が着いたので女は朝の口紅もさしをえた
少女ら縄とびするスカートがすこしみぢかくて夏の日
きれいな指が字を書いて病んでゐる
月さすてのひらをあはせる
ちちははのとほく月のよい寝床もしいてもらつて
ぴよぴよ箱からぴよぴよ網の中あるいてきいろ
樹の下へ夏が馬のしつぽ
あさひ蚊がへやをでてゆく
あなたが逝つてからもこんないい夕ぞらの蜘蛛が巣を
友の戦死の、そんな句もって句会にきた

【松尾あつゆき】
熱もどうやらあけがたの雲がうごいている
ゆきのはらゆきのやねおじぞうさん
うちの正月に子の墓の梅の一枝もらう
生来の無器用な手つき仏へ花を挿す
石になってとんぼうとまらせている
台風一過あかるい月です精霊さんお立ちです
仕合せというどうみてもかなしい女のうなじ
思うて言わず二人がひとりとなる日のこと
きょういのちありあすの時計まいておく
きけば石になっている石にあいにゆく

【山田句塔】
雑踏のエスコルク街の舗道をぬらした雨
最後の別れとも窓の白衣の君へ手をふる
劫火のかがやきの海へ先あらそうて跳ぶ
いのち海に浮き母が朝起せらるるころか
青葉の山の湯にわが手わが足
話せば娘四人をもつ悩みをこの母親の白髪
炎天日日丘を伐りひらいてゆく
まっくろなからだ土つけてきた
まいた種が芽を出すたしかさ雨ふる
夜のつめたい日本の水のむ

※五十音順。

39 件のコメント:

  1. 石になってとんぼうとまらせている(5点)

    【句評】
    ◎「墓になってもいい子だったのでしょう。簡単な言葉は子の思いを詠んだためかも知れません。」
    ◎「死ねば誰でも墓に入る。そうなるとこの世でできる事はもう無さそうだが、それは違う。この句のように自分の墓石に蜻蛉をゆったりと休ませる事もできる。死してなおこの世の役に立てるとは何ともありがたい」
    ○「石のように身動き一つしないで居るのか、あるいはこの『石』は墓石を指すのか。どちらにしても、その静けさが心地よいです。」

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    1. この句好きだなあ。
      静かな希望といった感じです。

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    2. 一番上の句表にしんみりきました。「墓になってもいい子だった」という感覚がいいです。

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    3. この句をそこまで読めなかった…
      今更ながら、皆さんの慧眼に恐れ入ります。
      良い句ですね。

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    4. 一番上の句評おれだ。句評褒められたのはじめていい気分だからピンサロ行こう

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  2. きれいな指が字を書いて病んでゐる(3点)

    【句評】
    ◎「余計なものが一つも無い、清澄な美しさを感じました。ただやはりこの美しさは『病んでゐる』が故なのでしょうね。その美しさに気がついた作者の悲しみが辛いです。」
    ○「そういえば、病人の手ってきれいだ。」

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  3. 炎天日日丘を伐りひらいてゆく(3点)

    【句評】
    ◎「開拓のようすを描いた句のようです。連日続く炎天のした、ひたすらに伐りひらいてゆく。男たちの汗が浮かびます。」
    ◎「力強さが半端無い!『炎天』『日日』といった字面もまた、この句を男臭くしている。」●「漢詩の七言句の一部のようです。
    「炎天日日拓丘行  炎天 日日 丘を拓きて行く」
    「日日炎天伐草行  日日 炎天 草を伐りて行く」
    このようにすれば、七言絶句の中でも使えますね。これは漢詩にした方がいいのではと思いました。」

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    1. 特選にていただきました。逆選にあるように題材によって表現方法を変えるというのは、いろいろな分野に精通している人ならではでしょうね。漢詩もいいですね。

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  4. まっくろなからだ土つけてきた(3点)

    【句評】
    ◎「なんか元気が出る。」
    ◎「夏休みに日焼けをした子供たちが帰ってくる、鮮やかに夏を感じさせる一句ですね。」
    ●「真っ黒な体に付ける土は、どんな色か?なんとなく同系色を重ね塗った厚ぼったい色彩の、蒸し暑い絵画のように感じる。」

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  5. きょういのちありあすの時計まいておく(3点)

    【句評】
    ○「明日やれることは明日やる主義で生きている昨今の私ですが、この句に学んで生きたいものです。」
    ○「自分は生きて行くと言う決意を感じます。」
    ○「今日一日をしっかりすごそうという、身に迫る一句ですね。」

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  6. 劫火のかがやきの海へ先あらそうて跳ぶ(2点)

    【句評】
    ◎「この世を焼き尽くす炎の色に煌めく海へ、我先に飛び込んでいく若者たち。ともすれば甘ったるいドラマの一シーンのようであるが、ごつごつとした言葉の連なりによって、暑苦しくも猛々しい一句となった。生き急ぎ死に急ぐ、ある暗い時代の青春を連想すると、また違った感慨も生まれてくる。」

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  7. まいた種が芽を出すたしかさ雨ふる(2点)

    【句評】
    ○「この世は理不尽な事ばかりだ。だが種をまけば芽は出てくれるし、雨も降ってくれる。自然のたしかさ、それがあるから安心して生きて行けるのかもしれない」
    ○「自然の運行が至極まっとうな様だ。まいた種の全ての芽が吹いたのかどうかは分からないけれど、雨も良いものだ。」

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  8. 思うて言わず二人がひとりとなる日のこと(2点)

    【句評】
    ○「私事で恐縮だが妻は私より九歳下だ。その妻に私はいつも、先に死んではいけないと言われている。なるべくそうする、頑張ると私は答えるのだが、内心では無理だろうと思っている。全く選評になっていないが、そんな句。」
    ○「これはもう、そのまま読みました。『ひとりとなる日』がどのような形の別離なのか分かりませんが、それを思いながら、知りながら、口にはしない。今の幸福と、そのすぐ傍にある悲しみを感じます。」

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  9. 月さすてのひらをあはせる(2点)

    【句評】
    ○「プラトニックでいいです。」
    ○「この『てのひら』を自身の両手のものとするか、自身ともう一人誰かのものとするかで変わってきます。どちらでも良いと思うのですが、僕は後者の方が好きなので後者で読みました。とても穏やかな愛を感じました。」

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    1. 私はこの句を、ひとりの手としか読んでいませんでした。二人の手とすると、確かにプラトニックであり、穏やかな愛が満ちているようですね。

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    2. 私もひとりの手かなあ。月への祈りとしか考えられなかった。
      ふたりの手という見方は素敵ですね。

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    3. ふたりの手としたのは僕でした。
      ちょっとドラマに傾きすぎた気もしましたが、そこも一つ楽しみ方かな、と。
      祈りとすると、それはそれで静謐で良いので、それでも取っていたと思います。

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  10. 生来の無器用な手つき仏へ花を挿す(2点)

    【句評】
    ○「これは、老人力のような、脱力的なパワーに満ち溢れていて、逆に快活だと感じた。」
    ○「仏へ花を挿す、という表現にふと立ち止まる。最初はごく単純に墓参りの光景かと思ったが、棺の中の遺体に花を供えているのではないかと。不器用な男が献花の列に遅れ、だいぶ後になって棺に花を納めるが上手くいかず、茎や葉が棺の外に飛び出してしまう。その要領の悪さに対する作者の眼差しは 優しい。」

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  11. あなたが逝つてからもこんないい夕ぞらの蜘蛛が巣を(2点)

    【句評】
    ◎「なんとも切ない短調の調べ。勿論夕ぞらに蜘蛛が巣を張るわけではないのだけれども、巣を張ってでも捉えたい。それは、「あなた」の魂…なんて事は一言も言ってない。」

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  12. あさひ蚊がへやをでてゆく(2点)

    【句評】
    ○「あさひに照らされているところを、ちょうど蚊が部屋の外へ出て行った。何気ないことですが、なかなか気付かない日常をよく詠んであります。」
    ○「蚊との友情がうまく出ている。」
    ○「この句の場合、蚊は夜の間ずっと部屋にいたと考えられる。という事は、既にどこか蚊に食われているはずだ。朝から嫌な事実を知らされてしまったが、俳味には富んでいるので良しとしようか」
    ○「蚊のフワフワした儚さが、より朝日の存在感を引き立ててくれている。」
    ●「夜の間に血を吸われ、朝日を浴びながら出て行く蚊が羨ましかったのでしょう。いい句だと思いません?」
    ●「まず第一感として、本当かなと思ってしまった。蠅や蛾ならともかく蚊が部屋を出ていくところなど、よほど注意しないと見えないだろう。作者はその時何をしていたのか、イメージが上手く拡がらない。ところで『朝日』なのか『浅ひ』なのかどっちなのか。どなたか読み方をご教示ください。」

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  13. ぴよぴよ箱からぴよぴよ網の中あるいてきいろ(2点)

    【句評】
    ○「その昔、獅子てんや瀬戸わんやという漫才コンビが居た。頭の禿げ上がった小柄な男が「たまごの親じゃ、ぴーよこちゃんじゃ」とヒステリックに踊り狂う、そんなネタが得意であった。本句のリズムも、いささか狂気をはらんだその漫才と同様に心地よい。」
    ○「オノマトペの気持ち良さ。」

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    1. 最後の「きいろ」をも「ぴよぴよ」にしていいのではないかと思いました。

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    2. 僕は「きいろ」だから良いんでないかと思います。
      そこも「ぴよぴよ」だと、あんまりうるさい。

      取ってないのに言うのもなんなんですが。

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    3. 「きいろ」が「にゃあご」になると不穏な空気が。

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    4. 寝覚さん
      冷静になって考えると、確かにうるさすぎますね。きいろでおさえてよかったです。

      雪兎さん
      それでしたら、私はおそらくとっていたと思います。まじめに。

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  14. 夜のつめたい日本の水のむ(1点)

    【句評】
    ○「夏にも冷たい水が飲めるのは良いなと思いました。」

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  15. 熱もどうやらあけがたの雲がうごいている(1点)

    【句評】
    ○「熱の下がった時に感じるクリヤーなのにボヤッとした感触は朝ぼらけに似ている。」

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  16. 台風一過あかるい月です精霊さんお立ちです(1点)

    【句評】
    ○「お盆に直撃した台風も無事に過ぎて、精霊船を出せることとなりました。ちょうど雲が切れて、あかるい月が顔を出しており、絶好の見送り日和です。船は静かに、海へ浸かっていきます。」

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  17. 最後の別れとも窓の白衣の君へ手をふる(1点)

    【句評】
    ○「病院での一幕。その景色だが、容易に想像出来るだけに、生々しい。ステレオタイプなワンシーンではあるが、ストレートさが良かった。」

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  18. いのち海に浮き母が朝起せらるるころか(1点)

    【句評】
    ○「死んだはずの仲間が起きてくれればと願いながらも分かっている。名句。」

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  19. うちの正月に子の墓の梅の一枝もらう(1点)

    【句評】
    ○「こういう形で思い出の写真が残るのも切ないですね。」

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  20. 少女ら縄とびするスカートがすこしみぢかくて夏の日(0点)

    【句評】
    ○「スカートが短いことに現される夏の詩情。でも、わい雑さは感じない。良い目だと思う。」
    ●「説明しすぎ」

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  21. 友の戦死の、そんな句もって句会にきた(0点)

    【句評】
    ○「戦後間もない頃はこの句のような事はかなりあっただろう。私は友の死を句にできるだろうか。句にできたとしても、人前に出せるだろうか」
    ●「自身が、句に句読点は不要派ということもあって、この句を逆選としました。読点なしでも句として成り立つと思うのですが、いかがでしょう。」

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  22. 樹の下へ夏が馬のしつぽ(-1点)

    【句評】
    ●「ニュアンスは何となく伝わるが、結局、全体的に上手くいってない気がする。」

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  23. 雑踏のエスコルク街の舗道をぬらした雨(-1点)

    【句評】
    ●「『エスコルク街』を一つの知識としては認識できたのですが、どうしても実感を伴えませんでした。とはいえ、この句には『エスコルク街』という言葉が絶対に必要なのだと思います。」

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  24. 青葉の山の湯にわが手わが足(-1点)

    【句評】
    ●「句の雰囲気は悪くないのだが、これではただ風呂に入っただけである。この湯に辿り着くまでの紆余曲折の一端でも見せて頂ければ評価は変わるかもしれない」

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    1. 『草原』に掲載されたものを引用しましたので、正確な句順かどうかわかりませんが、前書に「北セレベス上陸」、直前の句に「いのちあり青葉の山の湯にひたる」とあります。

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    2. すいません。これ私が逆選にしちゃいました。
      なるほど、前書きがあったんですね。
      「いのちあり青葉の山の湯にひたる」だったら取ってたかも。
      前書きも書くわけにはいかないでしょうから難しいですね。

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