2012年9月28日金曜日

第五回 研鑽句会

最高得点句
母が縮んで老婆

最低得点句
ヤナギしおれてツクツクボウシ
健やかなる者を 蝕む者としての 私
あの街も 気温7度か 雨空か



互選集計
(6点) 母が縮んで老婆 ◎◎○○
(4点) 燕の白い腹が 見えた瞬間 ◎○○
(3点) 急行の止まらぬ駅にある 人のいとなみ ◎○
(2点) わらじ編んだら しあわせになれるか ◎○●
(2点) 今日も生き抜いた 母が居て 我が家 ◎
(2点) 鼻のしたに汗溜めた 友人来たる ◎
(2点) 春の布団が 冷たい ○○○●
(2点) 出せば出したで後悔する便り ○○
(2点) いずれご破算になるまでの ひとつの夜を眠る ○○
(2点) あの子の顎の線に似た いずれ満ちる月 ○○
(2点) 潮風に黙って吹かれる母が居る ○○
(2点) 轢死のあった踏切を渡る、夕暮れ前。 ○○
(1点) 思い出は 塗装の剥げた 積み木 ◎●
(1点) どの子の名前つぶやいてみようか 帰り道ぽつり ○
(1点) 北関東の広い空の 曇ったり晴れたりを 見上げ ○
(-1点) ヤナギしおれてツクツクボウシ 〇●●
(-1点) 健やかなる者を 蝕む者としての 私 ●
(-1点) あの街も 気温7度か 雨空か ●
(0点) 親鴨 取舵 仔鴨 宜候 ○●
(無点) 暑気押し分けて千葉行総武線代々木着
(無点) 時間作って 秒針の音 数える
(無点) 竹笹の場所ばかりが あかるい緑で
(無点) 雪駄引きずって 紫の花の前
(無点) 母が 日向を向いて かき餅を食う
(無点) 母ひとしきり嘆いたあとの寝息すかすか
(無点) 親子連れの入道雲 立ち上がる
(無点) 母の寝息に 耳すます午後
(無点) 池もに灯りが写り出したから 帰ろう
(無点) 雨の日に 老いゆく母が居る
(無点) 野毛の猫も 逃げる


※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。

作者発表

【なかぎり】  (自由律な会「アぽろん」代表)
ヤナギしおれてツクツクボウシ
暑気押し分けて千葉行総武線代々木着
時間作って 秒針の音 数える
燕の白い腹が 見えた瞬間
親鴨 取舵 仔鴨 宜候
わらじ編んだら しあわせになれるか
竹笹の場所ばかりが あかるい緑で
今日も生き抜いた 母が居て 我が家
春の布団が 冷たい
思い出は 塗装の剥げた 積み木
どの子の名前つぶやいてみようか 帰り道ぽつり
出せば出したで後悔する便り
雪駄引きずって 紫の花の前
いずれご破算になるまでの ひとつの夜を眠る
あの子の顎の線に似た いずれ満ちる月
北関東の広い空の 曇ったり晴れたりを 見上げているか
母が 日向を向いて かき餅を食う
健やかなる者を 蝕む者としての 私
母ひとしきり嘆いたあとの寝息すかすか
鼻のしたに汗溜めた 友人来たる
親子連れの入道雲 立ち上がる
潮風に黙って吹かれる母が居る
急行の止まらぬ駅にある 人のいとなみ
あの街も 気温7度か 雨空か
母の寝息に 耳すます午後
池もに灯りが写り出したから 帰ろう
轢死のあった踏切を渡る、夕暮れ前。
雨の日に 老いゆく母が居る
母が縮んで老婆
野毛の猫も 逃げる

35 件のコメント:

  1. 母が縮んで老婆(6点)

    ◎『生きるとはこういうことでしょうね。』
    ◎『『母』を詠んだものが複数見受けられたが、この一句を特選とした。素っ気ないようだが、この感情の抑制にただごとならぬものを感じた。『母』俳句 は、共感の基礎点が高い。どう作ってもある程度の共感は得られるのだ。だからこそ感情に流されず、削ぎ落とせるものはなるべく削ぎ落としたものが好きだ。』
    ○『このまま運んで、テイクアウトしたら良かろう。たしかにこれは、大事だ。ショッキングな現実に、いまさら気がついた、作者の状況がとても気になる。』
    ○『母が老婆になるとき、そこには悲哀なりなんなりのウェットな感情があるはず。けれどそこから努めて己を遠ざけようとする心境に、そうしなければならなかったできごとのただ事では無さを感じる。けれど、それもまた愛なのだろう。』

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    1. 特選にていただきました。

      今回の研鑽句会で提出された三十句はいずれも、非常に優れた句であると感じました。

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    2. 特選にて頂きました。音数、感情、情景描写全ての面で抑制の効いた一句でした。
      研鑽句会に御作を提供して下さったなかぎり氏に、厚く御礼申し上げます。

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  2. 燕の白い腹が 見えた瞬間(4点)

    ◎『燕のスピードから考えるに、この白い腹はそれこそ『閃き』のように見えたのだと思う。その一瞬、刹那の光景を切り取りつつ、けれどこの句の重きはその『瞬間』にこそあるように思う。瞬間に続くものがこの光景の続きなのか、それとも作者の内的なものかは分からないが、そこに読み手の想像が導いていかれる。瞬間には何があるのだろう。』
    ○『どうしてものぞきたくなる、燕の魅力がよく伝わってくる。なぜか、あの腹を、見たい!!』
    ○『瞬間の描写に優れた句』

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    1. 特選で頂きました。
      この句においては空白(半角スペース)が効いていると思います。

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  3. 急行の止まらぬ駅にある 人のいとなみ(3点)

    ◎『『いとなみ』をもっと具体的な言葉で表現して欲しかった気もするが、句の雰囲気は悪くない。少しぐらい不便な場所でも人は生きて行く』
    ○『最寄り駅が特急も止まる駅ですので、こういう場面に憧れます。時間の流れもゆっくりに思えてきます。』

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  4. わらじ編んだら しあわせになれるか(2点)

    ◎『とっても幸せな光景なので、同化したい。こういう人生の生き方が良い。客観的には無価値でも、はてしない生命力の塊。』
    ○『わらじを一心に編んでいる時間というのは、静かで、あるいは団欒があったりして、満たされている時間なのだと思う。それを言葉にするならば、やはり「しあわせ」なんだろう。けれど作者は、それをしあわせとすることに疑念を抱いているように思う。しあわせを疑う。その意識に共感した。』
    ●『切実な思いが見えますが、句としてはどうなのかなと思いました。』

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  5. 今日も生き抜いた 母が居て 我が家(2点)

    ◎『切ない。母親が生きていることへの複雑な思いが窺えます。』

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  6. 鼻のしたに汗溜めた 友人来たる(2点)

    ◎『なんと嬉しいことだろう。友情が見事に描き切られている。 』

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  7. 春の布団が 冷たい(2点)

    ○『いろんなものが芽吹く春ですが、気温としてはそう高くない、というところに、「気を付けろよ」という気持ちを想像していました。』
    ○『なんて事無い。ただそれだけの句なのに、余韻がある。春の布団って何?』
    ○『実感を伴ったリアルな句であるのに、『春』に『冷たい』と云う一見チグハグさを感じる組み合わせが詩の広がりを持たせている』
    ●『事物を削り過ぎて俳句として未完成である。今回の研鑽句会ではやけに一字明け(半角明け?)のある句が多かったが、読み手としては句全体のリズムを感じるのに邪魔なので、どうしても必要な場合は使わないで頂きたい。それと安易にこの手法に頼っていると、句の内容がおろそかになり、『間』をくっつけてみたら別に大した句では無かったということにもなりやすいので注意されたし』

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    1. 逆選の句評の方と同意見でした。この句に明けがなければ、とっていたように思います。

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    2. 申し訳ありませんが逆選にさせて頂きました。

      おおむね句評の通りですが、私は一字空けが無かったらますます取りませんでしたね。余計凡庸になると思います。

      一字空けに対する風当たりはかなり強いですが、
      それを批判する側も誰もが納得する理由を持っているわけではないです。
      おおむね生理的な理由のような気がします。
      後は、読む時に困るとか、二行に書く時に困るとか。

      ですが、とある句会で、一字空けが無ければ成り立たない句が出た時があったので、そういう使い方ならアリでしょう。
      コンマについても同様の事が言えます。

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  8. 出せば出したで後悔する便り(2点)

    ○『これが正直な人の感想だと思います。前向きも大事だけれど、大人になると目に見えてわかる失敗は避ける必要がある、そういう部分を感じました。』
    ○『年を取れば取るほど、発言や行動が消去法的になっていく。あちらを立てればこちらが立たぬ。それでも最善の選択をしなければならない』

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    1. 「出せば出した」がくどく感じました。日を改めて読めば、これはこれでありに思える気はします。

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  9. いずれご破算になるまでの ひとつの夜を眠る(2点)

    〇『何をしでかしたのかわかりませんが、いくつかの夜を越えて待つほかありません。』
    ○『上手くいかないという予感がありながら、もう止まらない計画がある。たぶん駄目になるだろうと思いながらも、寝るぐらいしかすることがない。そんな諦めの境地を一句に仕上げた。その計画とは何なのか、想像の余地を大きく残したところに本句の成功の要因がある。』

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  10. あの子の顎の線に似た いずれ満ちる月(2点)

    ○『『いずれ満ちる月』は半月か三日月のどちらに近いのか。月の見方で女性の好みもある程度わかる好例』
    ○『愛だな。月と子ども。顎の線に似たなんてずるい例えだ。いずれ満ちるという表現もずるい。』

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    1. とらなかったのですが、この句もいいですね。女でとっていましたが、子どもととるのもいいですね。愛のベクトルがそれぞれ違います。

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  11. 潮風に黙って吹かれる母が居る(2点)

    ○『母親とふたりで海岸を歩いているのでしょうか。景が浮かびやすいいい句だと思います。』
    ○『母を詠む姿勢、こんな風には、とても、自分には詠めない。境涯の俳句だろう。』

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  12. 轢死のあった踏切を渡る、夕暮れ前。(2点)

    ○『轢死のあった踏切、という禍々しさを句読点が和らげている。映画でいえばカットの繋ぎ目のようなものか。死者と生者がすれ違う瞬間を、静かに詠んだ良句だと思う。』
    ○『単純にツボ句。ベタな発想かもしれないが好きだ』

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    1. とりませんでした。読点と句点の必要性がわかれば、とっていたと思います。

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  13. 思い出は 塗装の剥げた 積み木(1点)

    ◎『私はノスタルジックな空気を狙った句と云うものは、あまり好みでは無いのだが、珍しく胸に響いた。『塗装の剥げた積木』と云う必殺のフレーズが効いたのだろう』
    ●『思い出は……とはいきなり難しい出だし。作者自身が据えた詩性のハードルを、本句は越えられなかったという印象。イメージは上手く繋がらないが、大きな飛躍があるというのでもない。中途半端な仕上がり。』

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  14. どの子の名前つぶやいてみようか 帰り道ぽつり(1点)

    ○『好感が持てる女性は何人かいるが、どの子とそういう仲になりたいのかわからない。それを確かめるために名前を呟いてみるのも方法の一つかもしれない。果たして誰のが一番心に響くだろうか』

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    1. 呼んだこともないはずのファーストネームでつぶやいていそうです。

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  15. 北関東の広い空の 曇ったり晴れたりを 見上げ(1点)

    ○『北関東って先ず景色が検討もつかない。ただ、この句からはだだっ広い空が広がる平野のようなイメージが見て取れる。作者は農業をしていたのかな?』

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    1. 地方在住ということもあって、北関東がよくわかりませんでした。そもそも関東の範囲が微妙です。私も平野ととったのですが、どのあたりになるんでしょうね。

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  16. ヤナギしおれてツクツクボウシ(-1点)

    〇『季節の変わり目ですね。』
    ●『逆選用ですよ。と置かれた句のように感じた。ほんとそう思えた。古い唄の一節のようで、詩性が無いと思う。』
    ●『季節の移ろいなのかもしれないが、肝心の『移ろい』が感じられない。』

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    1. 並選にていただきました。
      かたちも句材もありきたりなのですが、景が浮かんだというのがとった理由です。もっとも、ありきたりということ自体が、句の評価に影響することはありません。

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  17. 健やかなる者を 蝕む者としての 私(-1点)

    ●『ちょいと自己戯画が過ぎて逆にナルシズムが鼻につく』

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  18. あの街も 気温7度か 雨空か(-1点)

    ●『気温7度と聞いてもピンとこないので残念。惜しいところだ。もったいない、という意味で逆選。』

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    1. 句評と同じく、気温7度がぴんと来ませんでした。気温を意識して暮らしていないせいでしょうね。悪いとは思えませんでした。

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  19. 親鴨 取舵 仔鴨 宜候(0点)

    ○『池で泳ぐ鴨の親子を詠んだ一句、というよりも作者の独り言のような気がして、面白かった。「おやがもとりかじ、こがもよーそろ」池に向かってこんなことを呟いている人物。そこまでが本句の景色である。』
    ●『この句に限らず、今回の研鑽句会の句には間にスペースが入ったものが多くありましたが、その意味を理解できませんでした。自由律俳句も「うた」である以上、声に出して詠まれ、記憶されるものと考えていますので、その際に消えてしまうスペースの必要性がわからないままでいます。切れをスペースに拠って示したいのでしょうか。ご教示いただければ幸いです。』

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    1. 逆選にていただきました。面白いとは思いましたが、句としてどうかとう旨を書き損じていました。

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    2. 並選に頂きました。
      こがも、よーそろ……は近所の公園に行ったときなど、やってしまいそうです。漢字二文字、半角空きの連なりが、鴨の親子が並んで泳ぐ様子と重なりました。この場合は効果的であったと私は思います。

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