2012年11月30日金曜日

第七回 研鑽句会

(最高得点句)
6点 病む父はかまきりのその眼 ◎◎◎

(最低得点句)
ー3点 からす遠く鳴いてひとり ●●●

【互選集計】
6点 病む父はかまきりのその眼◎◎◎
4点 連れあい亡くしたお隣の朝掃く音○○○○
4点 泣きやんでぺったりパパの胸○○○○
3点 老母と枕並べれば忘れかけていた海鳴り◎○
3点 関にヘルメット二つ子ら帰っている ○○○
2点 日に薄氷かざした子の笑顔◎
2点 そのやさしさめがねのおくの眼◎
2点 議論ぐるぐる居酒屋の美人ポスター ◎
2点 坐蒲団へおさまる老母の小さく◎
2点 鬱消えて雪 ◎
2点 憂さも幼児(おさなご)のかたこと ○○
1点 霧へ海哭く○
1点 ギター弾く二重窓の一つある部屋○○●
1点 人は風のよう吹きぬけてゆく ○
1点 明日の見えない空から雪、雪、雪、○
1点 誰を暗い玄関でひとり老母は ○
1点 スーパーのカート押せば元気な妻 ○
0点 霧笛呼んでは消え呼んでは消える海
0点 月明かり白々と吾が脛
0点 散髪の床に落ちた白髪の割合
0点 蜜蜂の潜るに小さな菜の花のふとん 
0点 狂わぬ時計で追い立てられている日々●○
0点 集いしずか墨する音も秋
0点 寒やわらぐ音の雨
0点 頑張った眼に泪卒業してゆく
0点 よちよちあんよの芽ぶくそら
ー1点 空爆の映像にない流された血の色●
ー2点 まっすぐ落ちてくる雨の音がかなしい●●
ー3点 からす遠く鳴いてひとり ●●●

※作者は、全て、ぎんなん俳人の佐瀬広隆様の句集「海鳴り」より選句させていただきました。

36 件のコメント:

  1. 病む父はかまきりのその眼  6点
    ◎病んだ人の犲狼のような目、今だ衰えていない鋭さを感じました。
    ◎理屈で捉えようとするとなかなか難しいところもあるが、なんともいえない迫力
    をもって感覚に迫ってくる一句。かまきりのオスは、メスに食べられて しまう
    ことがあるという。そんな習性から、放蕩の果てに病んだ父の姿を思い浮かべ
    る。そこに対峙した作者の、同情も憐憫もない醒めた視線が痛い。
    ◎「その眼」が死を見ているように思えて、恐ろしさと悲しさで揺さぶられた。
    △病んだ父の「眼」がかまきりのそれに似ていたということでしょうか。少し言葉が足らない気がしました。

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    1. この句は、実は、佐瀬さん本人の句集でも、トップの句として扱われています。

      詠み手と詠み手の心が、ちゃんと通じ合っているなあ、という結果になり、不思議な気持ちになりました。

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  2. 連れあい亡くしたお隣の朝掃く音  4点
    ○わざわざ、隣人の句を詠まなくてもいいとも思うけど、
    情景として、しっとりさせるものがある。
    ○葬儀を終えてまだあまり日の経たない朝だろうか。連れあいを喪った哀しみを紛
    らわすため、あえて日常の営みに没頭する気配。物語性を匂わせながら 『掃く
    音』を主眼に据えたところが巧み。この場合、哀しいとか寂しいとかいう感情は
    読み手に委ね、直接に言い表さないほうがいい。
    ○連れあいがいなくなろうと、自身の生を続けて行くほかありません。
    ○サザエさんの世界でこれが起きたら、シュール。

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  3. 泣きやんでぺったりパパの胸  4点
    ○小さい子供、女の子を想像した。
    パパもメロメロなんではないか。
    句に「パパ」と出るのも珍しい。
    ○『ぺったり』が良い。ママの胸では『ぺったり』とはならないだろうが、『ぺったり』としたパパの胸にもまた違った安心感があるはずだ
    ○「ぺったり」が実に的確なオノマトペで、泣きやんだ頬の熱ささえ感じられる気がしました。
    ○にやにやしているパパの顔が浮かびます。幼子ならではですね。

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  4. 老母と枕並べれば忘れかけていた海鳴り 3点
    ◎ 老いた母を見舞うため、海の側にある実家に久し振りに帰ったのだろう。何もかもが終わりに近づく中で聞く海鳴りは、全てを思い出させると同時に奪い去って行く
    ○詠み手は海の傍で老母と暮らしているのでしょう。この海鳴りを最後にきいたのは、いつのことだったか。

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    1. この句を特選にていただきました。
      私は逆に「かまきり」の句がピンと来なかったので、面白いものですね。

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    2. 並選でいただきました。
      上に同じく、「かまきり」にはピンと来なかったのです。

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  5. 玄関にヘルメット二つ子ら帰っている  3点
    ○田舎の自転車通学の小学生を思い浮かべました。
    ○自転車通学でヘルメット被ったなあと懐かしくなりました。
    △ヘルメットをさっさと置いて、外に遊びに出てしまったのですね。私の生まれ育った地域では、ヘルメットをかぶるということがありませんでした。
    ○明るい風景に清潔感がある。

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  6. 日に薄氷かざした子の笑顔 2点
    ◎冬の一コマですね。こちらまでにこにこになるような景です。

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  7. そのやさしさめがねのおくの眼 2点
    ◎なんかわかる。おじいさん、おばあさん。
    そんな暖かさを感じていい。
    △意味深ですが、よくわかりませんでした。

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  8. 議論ぐるぐる居酒屋の美人ポスター  2点
    △いったいこのポスターを肴に何の議論をしていたのでしょうか。
    ◎そう考えると居酒屋には回るものがいっぱいある。管巻いているオヤジの声が聞こえてきそうな句。

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  9. 坐蒲団へおさまる老母の小さく 2点
    ○この句では以前の母は坐蒲団からはみ出していたようにも思えるが、さすがにそうではなく、元々母が小さくなったと感じていたところへ、『坐蒲団へおさまる』という当たり前の事実が、息子の心境にかなりの影響を与え、ますます母を小さく見せているのだ
    ○親の小さくなった姿を知る、切ない一句ですね。
    △いい句です。座布団のサイズとの対比は面白いです。小さくよりは小さいとした方がこ好みです。

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  10. 鬱消えて雪  2点
    ◎初雪を見たような嬉しさが良く出ている。
    △消えるということがあるのか、疑問でした。

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  11. 憂さも幼児(おさなご)のかたこと 2点
    ○子供の成長を長い目で見つめる視点を感じました。
    ○なんでこんなにかわいいのかわかりませんがかわいいです。
    △「癒されるひとときです。」

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  12. 霧へ海哭く  1点
    ○海軍を感じました。
    △そのまますぎるかもしれません。

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  13. ギター弾く二重窓の一つある部屋  1点
    ○ 川の水にも帰れる場所があり、そこが煌めく海というのは何とも救われる話ではないか。私もこうありたいが、自分がどの辺を流れているのかまだ見当も付かない
    ○河口近くの光景か。『赤い橋の下のぬるい水』という映画を思い出した。平易な
    言葉の連なりから味わい深い光景を喚起するという点に優れている。良 句では
    あるがただし、当たり前すぎる、という異論があればそれも否定はしない。普遍
    的な美しさを表現するに留まり、それを越える発見には乏しい。
    △河口の話でしょう。やさしい句です。
    △防音設備が整っているということは、本気のギター弾きでしょうか。頑張ってほしいものです。
    ●生活句ですが、句意的にはどうかなと思います。
    これでこのギター弾く人が亡くなってるとなると、また違ってきますが。

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  14. 人は風のよう吹きぬけてゆく  1点
    ○街の交差点や地下街をイメージした。
    ほんと、風のような関係だと思う。
    △昭和の歌の歌詞にありそうです。大都会のような。

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  15. 明日の見えない空から雪、雪、雪、  1点
    ○冬の空なんてこんなもん、としみじみ思いました。「、」が活きていると感じます。
    △最後にも読点が入るんですね。

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  16. 誰を暗い玄関でひとり老母は  1点
    ○老母が暗い玄関で待ち続けるその人は、既にこの世の者ではないのだろう。微妙
    に言い尽くせていない感じが、かえって余韻を生んだ。『母』を詠み込 む俳句
    は、情に傾かず、語りすぎない方がいい。『誰を暗い玄関で待つのか……』としな
    かったところが肝だと思う。
    △かつてこの玄関を開けて入って来ていた人の思い出に浸っているのかもしれません

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  17. ・スーパーのカート押せば元気な妻  1点
    ○妻の気丈な様子と夫婦愛が伝わります。
    △女房元気はうれしいですね。

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  18. 憂さも幼児(おさなご)のかたこと 2点
    ○子供の成長を長い目で見つめる視点を感じました。
    ○なんでこんなにかわいいのかわかりませんがかわいいです。
    △「癒されるひとときです。」

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  19. 霧笛呼んでは消え呼んでは消える海  0点
    △いい景です。

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  20. 月明かり白々と吾が脛  0点
    △病弱な身なのかもしれません。

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  21. 散髪の床に落ちた白髪の割合  0点
    △これもひとつの老いを感じる瞬間でしょうか

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  22. 蜜蜂の潜るに小さな菜の花のふとん 0点
    △蜜蜂は菜の花で寝るのではなく、食事をとるのではなかったかと思いました。

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  23. 狂わぬ時計で追い立てられている日々 0点
    ○「狂わぬ」という言葉に、逆に狂気を感じます。
    ●発想と措辞がとても安直に思いました。今の時代ならもう一工夫いるのではと思います。
    △そのままですね。この句の作成年代を現段階(句評をしている段階)で知ることは叶いませんが、百年前には詠まれえなかった句のように思います。

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  24. 集いしずか墨する音も秋  0点
    △何の集いだったのでしょう。芸術的な匂いがします。

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  25. 寒やわらぐ音の雨  0点
    △これは「かん」と読めばいいのでしょうか。

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  26. 頑張った眼に泪卒業してゆく 0点
    △そのままの句となりました。

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  27. よちよちあんよの芽ぶくそら  0点
    △大きく育ちますよう。

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  28. まっすぐ落ちてくる雨の音がかなしい  -2点
    ●とてもよくまとまっているが、磨ききれていないという印象。この場合は『かな
    しい』と直接的に表現せず、情景描写に徹したほうがいいような気がし た。も
    し『かなしい』を使うとしても、推敲の余地はまだまだある。『かなしい雨が
    まっすぐ』とでも。いずれにせよ『雨』と『かなしい』はつきすぎ か。
    ●共感が得やすすぎるので困った。
    △雨音には、感情を露にするなにかがあるのかもしれません

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  29. 空爆の映像にない流された血の色  -1点
    ●感傷的すぎるかと。

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  30. からす遠く鳴いてひとり  -3点
    ●このような句は句会では何の価値も無いが、作者の心象風景の証明というか目印としてなら価値はある。だがこの場は句会なので逆選とさせていただく。俳句が『座の文学』である限り、『座』によって句の評価が決まるのは避けられないのだ
    ●ちょっと月並みかな、と思いました。
    ●句材も情景も好きだけど、狙いすぎという感じがする。
    △これ系の句は、ある種お約束のようなものですから、評価しにくいです。

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  31. 流れの果ての海が煌めく 2点
    ○ 川の水にも帰れる場所があり、そこが煌めく海というのは何とも救われる話ではないか。私もこうありたいが、自分がどの辺を流れているのかまだ見当も付かない
    ○河口近くの光景か。『赤い橋の下のぬるい水』という映画を思い出した。平易な
    言葉の連なりから味わい深い光景を喚起するという点に優れている。良 句では
    あるがただし、当たり前すぎる、という異論があればそれも否定はしない。普遍
    的な美しさを表現するに留まり、それを越える発見には乏しい。
    △河口の話でしょう。やさしい句です。

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  32. ちなみに、佐瀬さん本人には、先日「ぎんなん」の句会でお会いした時に、このブログで勝手に使ってしまって大丈夫かどうかの確認をとらせていただきました。

    俳句からも分かるように、大変に、温厚穏やかな方で、安心しながら選句作業をスムーズに行うことができました。

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    1. 今回の30句は、すべて同一の著者による句であることがすぐにわかりました。確かな句風が流れているのを感じることができたのです。

      どうぞよろしくお伝えください。

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