2013年3月13日水曜日
兎を読む、虫を読む
※鉄塊衆名簿自選五句より。
※俳号に「生き物」が多い集団だと思いました。
藤井雪兎
泣き疲れて夕暮のまんなか
『草原』においても話題となった一句である。自身の姿とも、誰か他者の姿とも読めるだろう。どちらにせよ、あまりにまばゆい夕陽の中で泣き疲れている様がありありと浮かび上がってくる。
自分の影に鍬振り下ろしている
農事に従事する日常を詠んだ一句。飛び散る汗が影に沁み込む様までみえてくる。
あしあとだけがおれのふるさと
振り返る価値があるのは、おれが歩んできた軌跡だけである。おれがどこから来たかなんて、そんなこともうどうでもいい。
クッキーの香り残して転校していった
最後にクッキーを渡されたのだろうか。それとも、いつもクッキーの香りのする子だったのだろうか。ここでは異性と読みたい。
ちょっとだけ死をくすぐって君は美しい
君の手首には切り傷がたくさんあると読んだ。そんな君の生はなによりも美しくみえるのが不思議である。
―――――
小笠原玉虫
えのころ草ふとほぐす雲暗くなる
誰もが経験したことがあるようなないような景。哀愁を感じるのはだからこそだろう。
月ばかり明るい小銭しかない夜道だ
ポケットにいれた小銭を数えながら夜を歩いてゐるのだろう。ろくに金もない俺の心のことなど考えもせず、月だけがやけに頑張っているのであった。
犬の背に鼻埋める失敗した夜
犬とともに暮らしていないと詠めない一句。明日の再生へ向けて、こうして癒されながら眠りにつくのだろうか。
胸の中にクサリヘビを飼う
クサリヘビといえば、毒蛇の一種だとまず思いつく。さて胸の中に毒蛇を飼うとは、なんとも怖いもの知らず。それでも飼わねばならぬ、作者の胸中はいかに。
頭から毛布かぶる点滴の痕疼く
点滴を受けたのは最近かそれともずっと昔か。ともかく、頭から毛布をかぶろうとも、点滴の痕はやけに疼くのである。捨てられないあの頃が詰まっているためか。
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泣き疲れて夕暮のまんなか 藤井雪兎
返信削除泣いているのは作者本人と読みました。句の前半後半で、視線の変化があります。涙も涸れてふと我に返ると、夕暮れの広場か校庭のような場所でぽつんとひとりぼっち。それを客観視しているような趣。いくら泣いても、時間は冷酷に過ぎ去っていく、ということでしょうか。雪兎さんの代表句だと私は思います。
えのころ草ふとほぐす雲暗くなる 小笠原玉虫
本句も選んだポイントは『視線の変化』でした。手元のえのころ草から、暗い空へ。ふと、の辺りに何かを匂わせつつも、感情はあらわにせず視線を空へ移す。巧みだと思いました。そのまま土砂降りの雨に打たれるのを待っているような余韻があります。鉄塊でのご健吟、楽しみにしております。
>古戸暢さん
返信削除丁寧な句評をありがとうございました。特に「ちょっとだけ~」の句評にはドキリとさせられました。全くその通りでしたので。
>畦道さん
ありがとうございます。「泣き疲れて~」の句は私にとっても不思議な句でして、これをポジティブにとらえる人もいれば、ネガティブにとらえる人もいるのです。「夕暮れ」の持つイメージの大きさ、それに人々が乗せた感情の量がそうさせるのでしょうか。
>玉虫さん
ツイッターにも書きましたが、「犬の背に鼻埋める失敗した夜」をいただきます。鼻を埋められるぬくもりがあるのは幸せなことですね。
> 古戸暢さま
返信削除丁寧な句評、誠に有難うございました。
憧れの雪兎さまと一緒に取り上げていただき、恐縮すると同時に感激いたしました。
こちらの自選五句は、鉄塊入会時の「句通し」に出させていただいたもので、
結果をうかがうまでそれは緊張して待っておりました。
いまこうして読み返すと、いつもの癖でセンチメンタルに流れて酔っているような節があり
少し恥ずかしく思います。
句に情念を乗せすぎだ、と、よく言われております。
感情を全面に出さずに読み手に想像していただけるように作句したいと思っております。
> 畦道さま
有難うございます。
夏休みの午後四時くらい、厳しい西日の原っぱに、ぽつんと自分だけいて、
寂しいような、満たされているような、そういう時間が好きでした。
真夏の西日、ぽつねんと在ること、時間が流れること、小さな命を手に取ること、
そういう子供の頃の空気を思い出しつつ作った句です。
夕立に打たれてもいいやという投げやりな気持ちも、まさにその通りでドキリとしました。
伝わった、という嬉しい気持ちでいっぱいです、本当に有難うございました!
> 雪兎さま
「泣き疲れて夕暮のまんなか」こちらがダントツで好きだなと思いました。
拙句えのころ草と共通するムードがあるように感じて嬉しくなりました。
ひとりぼっちの子供に、原っぱと日差しは優しい。
孤独に泣いたあと、日が暮れて、さあおうちに帰ろうと思わせてもらえる
優しい句だなと感じました。
「ちょっとだけ死をくすぐって君は美しい」
こちらも、若々しく、みずみずしく、痛くもあり美しくもあり、
個人的に雪兎さまの大ファンなのですが、ファンになる決定打となった
「たっぷりと血のつまったぼくら笑いころげて」
にも通じる世界観があるなと感じました。実に美しい句です。
ただ、女性としては、こういうタイプの女性が非常にモテるという事実は
誠に腹立たしくもありますwww
雪兎さまと同じフィールドで俳句を学んでいくこと、嬉しい反面
非常に緊張もしております。
日々精進してまいります。今後ともよろしくお願い申し上げます。
>玉虫様
削除ありがとうございます。私はまだまだ足りない人間ですので恐縮です。こちらこそよろしくお願い致します。
>ただ、女性としては、こういうタイプの女性が非常にモテるという事実は誠に腹立たしくもありますwww
やっぱりモテるんですかねえ(笑) モテるからこうなってしまうものだとは思っておりましたが。
口語短歌も好きで、その世界は若さで溢れているなあと常々思っておりましたので、自由律でもそのような表現ができないかと模索しているところです。