2013年7月27日土曜日

第十五回 研鑽句会


(最高得点句)
すべなし地に置けば子にむらがる蝿(8点)




(8点)すべなし地に置けば子にむらがる蝿◎◎◎○○△
(6点)あわれ七ヶ月のいのちの、はなびらのやうな骨かな◎○○○○
(3点)わらふことをおぼえちぶさにいまもほほゑみ◎○△
(3点)炎天子のいまはの水をさがしにゆく○○○
(3点)この骨がひえるころのきえてゆく星○○○△
(3点)ふところにしてトマト一つはヒロちゃんへ、こときれる◎○△△
(3点)くりかえし米の配給のことをこれが遺言か◎○△△△
(3点)なにもかもなくした手に四まいの爆死証明○○○
(2点)母のそばまではうてでてわるうてこときれて◎△
(1点)いまは、木の枝を口に、うまかとばいさとうきびばい○△△
(1点)こときれし子をそばに、木も家もなく明けてくる○△
(1点)とんぼうとまらせて三つのなきがらきょうだい○△
(1点)とんぼう子たちばかりでとほくへゆく○△
(1点)ほのほ、兄をなかによりそうて火になる○△
(1点)なつくさ妻をやく所さだめる○△
(1点)炎天妻に火をつけて水のむ○△
(0点)月の下ひっそり倒れかさなってゐる下か○●△
(0点)まくらもと子をほねにしてあはれちちがはる◎●●△
(-1点)十八年の妻にそひねして此の一夜あけやすき●
(-1点)降伏のみことのり、妻をやく火いまぞ熾りつ●△
(-1点)闇にかすかな光を、師にたまはりし『露』の字●△
(-2点)玉音あまくだるすべてをうしなひしものの上○●●●△
(無点)月の下子をよぶむなしくわがこゑ△
(無点)母をたづねあぐみてひとり月くらき壕のうち△
(無点)この世の一夜を母のそばに、つきがさしてゐるかほ△
(無点)外には二つ、壕の内にも月さしてくるなきがら△
(無点)とんぼう子をやく木をひろうてくる△△
(無点)やさしく弟いもうとを右ひだり、火をまつ△
(無点)かぜ、子らに火をつけてたばこいっぽんもらうて△
(無点)あまのがは壕からみえるのが子をやくのこり火△
(無点)あさぎりきょうだいよりそうた形(なり)の骨で△
(無点)みたりの骨をひとつに、焼跡からひろうた壷△
(無点)ちちをすうてこれもきえむとするいのちか△
(無点)短夜あけてくるみたりの子を逝かしたふたり△
(無点)夏草身をおこしては妻をやく火を継ぐ△



(以上、35句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆作者紹介

【松尾あつゆき】(1904~1983)
 長崎県に生まれる。
 長崎高等商業(現長崎大学経済学部)卒業後、長崎市立長崎商業学校にて英語教諭となる。
 23歳で層雲に入門。荻原井泉水に師事。
 その後、長崎市立商業学校を退き、長崎大浦食料営団勤務。
 1945年8月9日。
 敦之(41歳)、妻 千代子(36歳)。
 長女 みち子(16歳)、長男 海人(12歳)、次男 宏人(4歳)、次女 由紀子(1歳)。
 長崎市にて原子爆弾被爆。
 次男 宏人(4歳)、次女 由紀子(1歳)被爆により死去。
 翌8月10日、長男 海人(12歳)死去。
 8月13日、妻 千代子(36歳)死去。
 8月15日終戦。四枚の爆死証明書を受け取る。
 その後長女とともに長野県へ移り、後遺症に苦しみながらも高校教諭として勤務しながら句作を続けた。
 1983年79歳にて死去。
 句集に『火を継ぐ』『原爆句抄』などがある。



 
(編集担当より)
 今回の句は、あつゆきの全句集である『花びらのような命』(竹村あつお 編 龍鳳書房)中から採った。
 その際、「層雲句稿 昭和21年6月9日」の項に35句掲載されており、自分の主観によって30句に絞るよりもそのまま35句を出した方がよいと判断した。
 事前の相談なく句数を増やしてしまったことをお詫びする。
 また、今回上げた句は、句集等への収録の際に改訂されているものも多い。
 そちらの形をご存じの方には混乱を与えてしまったかもしれない。併せてお詫びしたい。



第十五回 鍛練句会



(最高得点句)
母の指差す空に私はなんにも見えない(8点)



(8点)母の指差す空に私はなんにも見えない◎◎○○○○△
(4点)叱られて歩く子も一人前の荷物◎○○△
(3点)寝てはいけない人と寝る外は雷○○○△△
(3点)はばたいたミサゴは必ず次へゆく◎○△△
(3点)地球儀を指で止めてここへ行きたいここで死にたい◎○△△
(3点)さっきと違う人が寝ているベンチ◎○△
(2点)月あかりそうっと戸を開ける◎△△
(2点)記念碑をずっと眺めていたい気分○○△△△
(2点)風邪の床のぞく明け暮れ○○△
(2点)この雨は新宿の地下水となる立ち止まる◎○●△△(コンプリート句)
(2点)生乾きのにおいのする昼めしだ○○△△
(2点)火のついた手紙いつ離そうか○○△△△
(2点)文芸コーナー居並ぶ夏の無精髭ども○○△△△△
(1点)誘蛾灯があおく蛾もこない部屋です○△△
(1点)処女だったおんなに子供ができた◎○●●△(コンプリート句)
(0点)雨上がり苦笑い青い傘の男さ○●△△
(0点)悪夢に跳ね起きる凌霄花窓から覗き込んでる○●△
(-1点)死者おちんこも隠さずに●△△△△
(-3点)がたがた音たてやがって寝れねぇじゃねぇか●●●△△
(無点)朝起きていきなりすぐの朝ごはん△△
(無点)風のかたちに夜のジョギング△△△△
(無点)からっぽの花瓶からすぐに指抜き△△
(無点)青色クレヨンが雨になったよ△△△
(無点)選句結果をまとめる手の玉葱くさい△△△
(無点)一日動かない部屋の空気のおもたさ△△△△
(無点)無愛想なレジの女ピアスの穴が膿んでる△△
(無点)七夕飾り雨を纏って秘密囁いている△△




(以上、27句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆作者発表(投句順 編者除く)

【馬場古戸暢】
風のかたちに夜のジョギング
さっきと違う人が寝ているベンチ
選句結果をまとめる手の玉葱くさい

【中筋祖啓】
朝起きていきなりすぐの朝ごはん
はばたいたミサゴは必ず次へゆく
記念碑をずっと眺めていたい気分

【松田畦道】
無愛想なレジの女ピアスの穴が膿んでる
叱られて歩く子も一人前の荷物
地球儀を指で止めてここへ行きたいここで死にたい

【藤井雪兎】
火のついた手紙いつ離そうか
この雨は新宿の地下水となる立ち止まる
からっぽの花瓶からすぐに指抜き

【小笠原玉虫】
寝てはいけない人と寝る外は雷
悪夢に跳ね起きる凌霄花窓から覗き込んでる
七夕飾り雨を纏って秘密囁いている

【風呂山洋三】
文芸コーナー居並ぶ夏の無精髭ども
雨上がり苦笑い青い傘の男さ
生乾きのにおいのする昼めしだ

【シブヤTヒロ】
誘蛾灯があおく蛾もこない部屋です
がたがた音たてやがって寝れねぇじゃねぇか
青色クレヨンが雨になったよ

【天坂寝覚】
月あかりそうっと戸を開ける
一日動かない部屋の空気のおもたさ
風邪の床のぞく明け暮れ

【畠働猫】
死者おちんこも隠さずに
母の指差す空に私はなんにも見えない
処女だったおんなに子供ができた


2013年7月24日水曜日

句をよみたい

句を詠みたい。

私の句は、景を感じて五秒から十秒以内に浮かび終わる言葉のことだと思っている。
それを携帯でメモして、後でパソコンでワードに打ちこんで、それでおしまい。
長いこといろいろ考えていろいろ変えたりするのは、頭使うから苦手。

もしかしたら投句するかもしれないけど、しないかもしれない。
少なくとも「自分だけの句」は、投句せずに内緒にしておきたい。

表現の新古は、読み手の好みに影響を与えることはあっても、句の善し悪しの評価に何の影響も及ぼさない。だからそういうのは考えずに、好きな句を好きなだけ詠んで生きたい。

数百年後あたりに、詠み人知らずとなった自句が誰かに呟かれていたら嬉しい。

句を読みたい。

たくさんの句を読んで、よい句と出会いたい。
頭の中に、いろんな句を入れて生きたい。

青空をみつけたら、「うでをひろげてそらのまね」と叫んでうでをひろげて、
羊雲をみつけたら、「空にぽこぽこ羊雲」とつぶやいて、
老いて行く祖父をみながら、「花の名を忘れた口へ匙を運ぶ」を思い出して、
山を歩いたら、「分け入つても分け入つても青い山」と諳んじて、
子どもの成長をみながら、「あるけてあやういあんよ」と言ったりして、
秋雨に降られたら、「秋雨が骨を打つ」と格好つけて、
妊婦と出会ったら、「生まれて来る子よ腹を蹴りなさい」と話しかけたりして、
二人を生んだ女をみたら、「そのすらりとした足の間から二人も生まれた」と思ったりして(すらりとしていれば)、etc..........

そしたら、世界が輝いているような、あるいは、どうでもいいような感じがして、毎日楽しそうたい。
よい句を詠んでくださった皆さんに、感謝多謝。

ほんとはこれで十分だなと、ふと思った夏の夜の独り言でした。

2013年7月13日土曜日

きやらぼくを読む

※きやらぼく No.372(2013年5月)より。
※きやらぼくHPはこちら

虚空いざなう鳶を撃つ  三好利幸
どことなくは惹かれるところがあった。何を(誰を)いざなっているのだろうか。

沸点超えた日も窓に雨打つ  ゆきいちご
ここでいう沸点は、怒りの沸点だろうか。やかんの沸点と読んでも面白い。

献血する私の一滴さくらんぼ形  ゆきいちご
血が少しこぼれたところを詠んだものとみた。よくぞ気付いたと思う。

杖つく影を追い越さないでゆく  藤田踏青
狭い道での出来事だろうか。いつもとは違うゆっくりとした歩みを楽しめたことだろう。

わかり切った事もう言うな月が出て来た  天野博之
夫婦の会話のひとこまと読んだ。話をごまかそうとしているようにもみえる。なお、同氏によるエッセイも面白い。

眠るばかりの君に春の雲ながれ  幾代良枝
誰がどうして眠ってばかりいるのかわからないが、淡々としたあたたかい日常をみる。

2013年7月6日土曜日

自由律俳句を広める?

※2013/07/06付、元鉄塊衆の自由律俳人・粟野賢太郎氏とのメールでのやり取りより抜粋

:どうして自由律俳句を広めたいのか?

:①私たちが詠んだ句が、時を超えて数百年後の未来にも残ることに浪漫を感じます。自由律俳句を読む(詠む)人を増やした方が、そうなる可能性が増えると考えます。
②裾野を広げることで自由律俳人が増えれば、ますます多くの佳句がでてくるように思います。そうした句に触れてみたいと、個人的に考えています。

:現状の活動では、不十分だと思う。

:①一朝一夕に、行動の結果が目に見えて現れるとは考えていません。数年、数十年レヴェルで、効果があらわれればよいのです。今の行いに意味があるかないかということは、時の流れが判断してくれます。自分たちの行動を無駄とみなすにはまだ早いのです。必要なのは、継続することです。
②もっとも、ご指摘のとおり、他にもさまざまな活動を行う必要はあるでしょう。この点については、他の自由律俳人の方々(「自由律句のひろば」など)がいろいろと行動してくださっているように思います。今後、議論が活発化することを願います。

:俺には実らない種を播いて死ぬまで水をやり続けてる風にしか見えない。

:実るかどうかは、今はわかりません。私が死ぬまでに実る必要は必ずしもないとも考えています。その時は、次の世代が引き継いでくれればよい。成功があれば、次の世代も作業をしやすくなるでしょう。失敗があれば、次の世代はそれを反省して、同じことを繰り返さなくなるでしょう。そこに、私は意味を見出します。向かおうとする意志さえあれば、いつかはたどり着きます。

以上、賢太郎氏とのやり取りをもとに、私個人の自由律俳句を広めることに関する考えを書きました。
これをたたき台にして、皆さんのお考えを書き込みいただければ幸いです。