※鉄塊衆名簿自選五句より
天坂寝覚
どこまでも飛ぶ鳥もどこかに帰る
鳥たちが夕焼けの中を飛んで行く様を想像できる句。なかには一匹程度、どこかに帰らない鳥もいるのかもしれない。出会ってみたいものである。
昨日がまだ枕に残っていた
枕カバーの洗濯を、ついつい忘れてしまう。その結果気が付けば、昨日どころか過去が匂う枕となっていることがままある。気を付けたい。
錆びたような髭なでて暮れた
「錆びたような髭」とはどんな髭だろうか。決して明るい髭ではない気がする。
どこかが死んだような水の味する
この水は水道水だろう。世界のどこかが死ねば、どこかとつながっている世界全体に変化が生じる。その変化を、世界を駆けてきた水道水の味にみたのである。
心臓だけが夢をおぼえて居た
ブラック・ジャックか何かで、心臓にも記憶が宿るという話を読んだ記憶がある。掲句のようなことも、案外毎日起こっているのかもしれない。
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地野獄美
食はせてもらつてけふの不機嫌
いい句だと思う。ただ、私自身が普段は現代語ばかりを用いているため、こうした表記をみると「どうしてあえて用いるのだろうか」という疑問が浮かぶ。
雷に怒鳴られまだ慰めてほしいか
「まだ」で詰まってしまい、いまいち句意をとれていない。「まだ怒鳴られてほしいか」であれば、まだ「まだ」の意味を理解できる。
抑える手も震へる手である
怒りか病気か老いかわからないが、面白い句。「える」と「へる」を使い分けるのは、何かそういう規則のようなものがあるためなのか。
屋上の階段届く空がある
五七五の韻律にもみえるが、「屋上の階段・届く・空がある」と読みたい。十代のあの頃を、どことなく想起させる。
もう忘れよ捨てられた森のこと
平成狸合戦ぽんぽこを思い出した。多摩の森は、外的要因の存在が大であったにせよ、狸たちに捨てられた森とみなすこともできよう。
『昨日がまだ枕に残っていた』
返信削除髪を洗わず寝てしまった翌朝、と読みましたが、もっと秘密めいた何事かを匂わせているのかもしれません。以前まとめて読ませて頂いた寝覚さんの作のなかでも、本句は印象に残ったもののひとつでした。
『抑える手も震へる手である』
地野さん自選のなかではこちらを頂きます。一人で震えを抑えていると読むのが普通でしょうか。私も字を書くときはこんな感じになることがあります。手の震えている誰かを、もう一人が「しっかりしろよ」なんて言いながら抑えようとしているのだが、その手も震えている、と読んでも面白い景色です。
五句全てに独特の呼吸があって、自由律の何たるかを『知っている』人の作だとの印象を持ちました。
お二方のご活躍をお祈りします。
今後ともよろしくお願い致します。