2013年9月28日土曜日

第十七回研鑽句会

最高得点句

  咳をしても一人 

(7点)咳をしても一人  ◎◎◎○△
(5点)こんなよい月を一人で見て寝る  ◎○○○
(4点)入れものが無い両手で受ける  ◎○○△
(3点)墓のうらに廻る  ○○○△
(2点)一日物云はず蝶の影さす  ◎△△
(2点)すばらしい乳房だ蚊が居る  ○○△△△
(1点)月夜戻り来て長い手紙を書き出す  ○△△
(1点)たつた一人になり切つて夕空  ○△△
(1点)淋しいぞ一人五本のゆびを開いて見る  ○△△△
(1点)足のうら洗へば白くなる  ○△
(1点)なんと丸い月が出たよ窓  ○△△
(1点)春の山のうしろから烟が出だした  ○△△
(0点)山水ちちろ茶碗真白く洗ひ去る  △△
(0点)つくづく淋しい我が影よ動かして見る  ○●△△
(0点)なぎさふりかへる我が足跡も無く  △△
(0点)鐘ついて去る鐘の余韻の中  △△△
(0点)氷がとける音がして病人といる  △△
(0点)うそをついたやうな昼の月がある  △△△
(0点)漬物桶に塩ふれと母は産んだか  △△
(0点)花火があがる空の方が町だよ  △△
(0点)肉がやせてくる太い骨である  △△△
(0点)久し振りの雨の雨だれの音よ  △△
(0点)すつかり暮れ切るまで庵の障子あけて置く  △△△
(0点)爪切つたゆびが十本眼の前にある  △△
(0点)障子の穴から覗いても見る留守である  △△
(0点)夫婦で相談してる旅人とし  △△
(-1点)柘榴が口あけたたはけた恋だ  ●△△
(-1点)月夜の葦が折れとる  ●△
(-1点)汽車が走る山火事  ●△△
(-2点)口あけぬ蜆淋しや  ●●△△

※以上全30句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。

―――――

作者発表

全句、【尾崎放哉】。
ただし、通し番号25-30の句は、井泉水による添削前のもの。


32 件のコメント:

  1. 19. 咳をしても一人(7点)

    ◎「特選。これを避けることはできない。ここまで簡潔に一つの世界(あるいは宇宙)を表現できるものか。この寂寥と孤独。見るたびに嫉妬と尊敬を感じる。でも、みんないつかこれを越える句を作るだろう。そう、鉄塊のメンバーならね。」(働猫)
    ◎「本当だ。」(祖啓)
    ◎「ひとつの完成型か。」(古戸暢)
    ○「この句を初めて読んだとき『何これ』と思ったのを覚えています。しばらくして、実際に自分が風邪をひいた時に、ようやくこの句の味がわかりました。私にとってきっかけの句。」(洋三)
    △「このような句を作らずにはいられない状況とは、どのようなものなのだろうか。」(雪兎)

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    1. あまりにも有名過ぎるのであえて取りませんでした。
      というか働猫さんのコメントがiPhoneのCM(笑)

      この句を初めて読んだのは国語の教科書ででしたが、その時教室中が騒然としたのは今でも覚えております。

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  2. 11. こんなよい月を一人で見て寝る(5点)

    ◎「寂しい感じはあるが、秘かな高揚も感じてしまいます。たぶん、これを書いている今日が十五夜だからかもしれない。」(洋三)
    ○「並選。美しいものを見れば、それを共有すべき人がいない孤独がより強調されるのだ。」(働猫)
    ○「おすそ分けしてくれてありがたい。」(祖啓)
    ○「あるいはこんなよい月だからこそ。」(古戸暢)

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  3. 17. 入れものが無い両手で受ける(4点)

    ◎「人や自然が見せる何気ない瞬間に、この世界の真実を垣間見ることがある。思うにそれは、自由律俳句の理想の境地の一つだ。この句はその代表的なものである。」(雪兎)
    ○「並選。手塚治虫の『どろろ』でも採用された一場面ですね。このどうしようもなさは経験しなくては表現できないことなのだろう。」(働猫)
    ○「初めてこの句を読んだ時、憐れな感じがしました。実は感謝の気持ちを詠んでいるとの解説がありますが、それでも憐れな感じは消えません。もしかしたら自嘲の句なのではと。」(洋三)
    △「仏教的だな~といつも思っている句。好きです。悟りに近いものを感じます。静かなようでいて鬼気迫るものがあるな~。」(玉虫)

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  4. 22. 墓のうらに廻る(3点)

    ○「俳句はある意味『死角の文学』だと思う。そして自由律は、季語が必要無い分、死角をより直接的に表現することができる。これはそのお手本のような句。」(雪兎)
    ○「並選にとらせて頂きました。これ、何なんだろうって個人的にずっと考え続けている句です。何?墓参りしてるの知られたくない親戚か誰かが来て隠れたとか?それとも裏に回って墓石の裏側もよく拭いてやって丁寧にお参りした、とかなのだろうか。ほんとに考えれば考える程分かりません。分からな過ぎて気になり過ぎて。これ何なのか、鉄塊衆の皆さんと語り合ってみたい。」(玉虫)
    ○「並選。放哉の句はツイッターで流れていてもおかしくないと感じるような即時性がある。(あるいは普遍性というべきなのか)『墓のうらに廻るなう』とか呟いたら、『なwwwwにwwwやっwwwてwるwwのwwwww』(註:無理をしました)のようななリプライがあるだろう。それくらいに『何でそんなことやってんの?』と謎を投げかける良句である。気になってしかたがない。」(働猫)
    △「この句を知ってから、墓参りの度に裏へ廻ります。なぜこんなにもこの句に惹かれるのか不思議でならない。」(洋三)

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  5. 4. 一日物云はず蝶の影さす(2点)

    ◎「大好き。このかたの句は孤独なの非常に多いけれど、最も一人ぼっち感が表れていて、かつ詩的な句だなと思います。そう、一人だと喋らないんですよね。黙ったまま一日が終わり、夕方の障子にふと蝶の影が映ったようなイメージ。一瞬も迷わず特選です。」(玉虫)
    △「蝶のかすかな動きを詠むことで主体の動きのなさを表現している。うまいなあと思う。」(働猫)
    △「『蝶の影』とは、なかなか気づきにくいもの。孤独な時間の長さを感じました。」(洋三)

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  6. 14. すばらしい乳房だ蚊が居る(2点)

    ○「乳房と聞くとどうしても人間のものを想像してしまうが、考えてみたら牛にも乳房はあり、そうなるとこの句は、途端にのんびりとして平和な句になる。どちらも乳房としての機能は同じなのに不思議なものである。」(雪兎)
    ○「すばらしい。」(古戸暢)
    △「このかたおっぱい好きですよね(笑) たしか女乞食のおっぱい超デッケー!みたいな句もあったはず。作者の女性関係って結構気になってるんですがどうなんだろう。この句は絶対いたしてるんでしょう。夏の夜のなまめかしいイメージ。好きな句です。」(玉虫)
    △「おっぱい。おっぱい。」(働猫)
    △「もうこれは頭から離れない句です。すばらしい乳句です。」(洋三)

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  7. 3. 月夜戻り来て長い手紙を書き出す(1点)

    ○「『月夜』と『長い手紙』の組み合わせは説得力がある。長い手紙を書くには、思考を重ねなければならないが、それには月夜が適している。」(雪兎)
    △「長い手紙になることはわかっている。思いつめて月夜を歩いてきたのだろう。朝には破り捨てることになるやつだ。」(働猫)
    △「月に感化されたということでしょうか。特に満月の日には人を高揚させる作用が働くらしいです。今日の私がそうです。」(洋三)

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  8. 8. たつた一人になり切つて夕空(1点)

    ○「並選にとらせていただきました。いいですね。一人ぼっちで今日も夜が来る。夜が更けて、夜が明けて、またずーっと一人で夜が来て。無力感。もしかしたら早く終わってほしいと思っていたかもしれない。あああと頭を掻き毟りたくなります。」(玉虫)
    △「一人の先の一人。孤独の向こう側であろうか。平凡な作。」(働猫)
    △「ぽつーん。寂しいとしか言いようがありません。」(洋三)

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  9. 12. 淋しいぞ一人五本のゆびを開いて見る(1点)

    ○「なにげに腕白。」(祖啓)
    △「いいですね。淋しいぞってハッキリ言っちゃってるのがまず好き。で、淋しいな~暇だな~って指をわきわきしてひとり遊びしてるんでしょう。分かり過ぎる。こういう感じの句好きです。」(玉虫)
    △「『淋しいぞ』は言わないでほしい。平凡。」(働猫)
    △「一人遊び。『淋しいぞ』は自嘲か。」(洋三)

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  10. 15. 足のうら洗へば白くなる(1点)

    ○「たったそれだけのことが何故かジンとくる。不思議。」(洋三)
    △「あたりまえである。それに気づくくらいに汚れていたのだろう。」(働猫)

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  11. 21. なんと丸い月が出たよ窓(1点)

    ○「放哉には月がよく似合う。」(祖啓)
    △「ひょうげた感じがあるがどうにも悲しみがつきまとう。」(働猫)
    △「ふと窓の外を見ると満月だった。有季定型では難しいとされる満月の句を、こんなにさらりとユーモラスに詠んでしまうとは。」(洋三)

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  12. 24. 春の山のうしろから烟が出だした(1点)

    ○「そこに何を思ったか。」(古戸暢)
    △「『烟』は何だろう。炊煙であろうか、山火事か。ともかく自分とは関係しない世界の出来事なのだ。自分はそこに関係できず眺めているばかりなのであろう。」(働猫)
    △「心なごむ長閑な句。これが絶句というから、少し羨ましい気がします。」(洋三)

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  13. 1. 山水ちちろ茶碗真白く洗ひ去る(0点)

    △「『ちちろ』ってなんだろう。」(働猫)
    △「すっきりとした気持ちを感じます。」(洋三)

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  14. 2. つくづく淋しい我が影よ動かして見る(0点)

    ○「並選にとらせていただきました。分かる。ぼっちで、ああ暇だな~みたいな時ってこういうひとり遊びしますよね。五本の指を開いてみるの句と共に、そういうひとり遊びかなと解釈しております。」(玉虫)
    ●「『淋しい』なしに、つくづくな淋しさをあらわしてほしい。」(古戸暢)
    △「暇すぎる感じがよく出ている。もてあましているのは暇だけではないのだろう。」(働猫)
    △「一人で自分の影が動くのを見る。何だか小学校の帰り道を思い浮かべました。本当に『つくづく淋しい』」(洋三)

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  15. 5. なぎさふりかへる我が足跡も無く(0点)

    △「波に消された足跡を詠んでいるのだろう。だがたぶんそれは象徴的なもので、なにものをも成してこなかったこれまでの人生を思っているのだろう。」(働猫)
    △「確かに足跡は波に掻き消されてしまいます。『足跡』はダブルミーニングか。」(洋三)

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  16. 6. 鐘ついて去る鐘の余韻の中(0点)

    △「『ピンポンダッシュして去るピンのあたりで』現代でいうとこういう感じか。」(働猫)
    △「これもなかなかの発見。」(雪兎)
    △「おだやかな心持ちにさせてくれる句です。」(洋三)

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  17. 9. 氷がとける音がして病人といる(0点)

    △「もう話すこともないのだろう。病室の見舞いであろうか。帰るタイミングを失う。そういう居心地の悪さを感じる。」(働猫)
    △「しんみりとした感じが『氷がとける音』に言い表されています。」(洋三)

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  18. 10. うそをついたやうな昼の月がある(0点)

    △「わかる。」(働猫)
    △「確かに昼の月は嘘くさい。」(雪兎)
    △「『昼の月』に感じる違和感をうまく言い表しています。」(洋三)

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  19. 13. 漬物桶に塩ふれと母は産んだか(0点)

    △「産んでくれた母に申し訳ない気持ちなのだろう。どうしてこうなった。」(働猫)
    △「自責の句。辛いです。」(洋三)

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  20. 16. 花火があがる空の方が町だよ(0点)

    △「自分がいる場所は華やかさがない。そうした寂しさを表現しているのか。」(働猫)
    △「つまり自分は町には住んでいないということか。見物客で賑わうであろう場所から離れて花火を見る。つくづく、一人な。」(洋三)

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  21. 23. 肉がやせてくる太い骨である(0点)

    △「いいですね。痩せちゃったから骨が目立ってるということなんだろうけど、体は弱って来てるけれどまだ負けちゃいねぇぜみたいな図太さを感じます。好きな句です。」(玉虫)
    △「これも好きな句である。自分を客観的に見ている。末期の眼であろう。」(働猫)
    △「自らをみつめる客観的な眼差し。衰弱すらも句にできるものなのかと思いました。」(洋三)

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  22. 25. 久し振りの雨の雨だれの音よ(0点)

    △「これは平凡。」(働猫)
    △「雨だれの音を楽しんでいるので しょうか。達観という言葉を思い起こしました。」(洋三)

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  23. 26. すつかり暮れ切るまで庵の障子あけて置く(0点)

    △「好きです。個人的過ぎる感想で恐縮ですが、子供の頃祖父の家で過ごした長期休暇を思い出します。おじいちゃんこうやって孫たちが遊びに来てる時は賑やかだけど、誰も来てない時は、この家で夜を迎えて、実は想像を絶する程淋しいんじゃないか、と思った瞬間、眩暈を覚えた小五の夏休みを思い出します。何とはなしに、真っ暗になるまで開けて置かれる障子。外気と触れている方が淋しくないというあの感覚はなんだろうか。今でもよく考えているのですが、あの時の感情を呼び覚ましてくれるような句だと思っています。」(玉虫)
    △「もしかしたら誰かが来てくれるかもしれない。山頭火の庵にはよく人が訪れているが、そうではない作者の孤独をよく表している。」(働猫)
    △「これもまた何気ない日常の切り取り。添削後も好きですが、こちらも素直な感じでいい。」(洋三)

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  24. 27. 爪切つたゆびが十本眼の前にある(0点)

    △「もう寝た方がいい。」(働猫)
    △「冷静に考えれば、だからどうしたとツッコミを入れたくもなる。だが、こんな当たり前のことに感じ入るものがあることに自由律の良さがあると考えます。」(洋三)

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  25. 28. 障子の穴から覗いても見る留守である(0点)

    △「せっかく訪ねてみたが留守だった。もしかしたら居留守かもしれない。疑念と淡い期待から覗いて見たのだろう。残念でしたね。」(働猫)
    △「日常に潜む非日常的な空間。文字通りユーモラスな視線が利いています。」(洋三)

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  26. 30. 夫婦で相談してる旅人とし(0点)

    △「二人旅いいなあ。『価値観がそっくりそのまま輝いた』相手と出かけたいですね。」(働猫)
    △「すっかり旅人の顔となった夫婦。日常から解放でしょうか。」(洋三)

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  27. 7. 柘榴が口あけたたはけた恋だ(-1点)

    ●「逆選。これはひどい。」(働猫)
    △「柘榴って何であんなに生々しい形してるんでしょうね。存在自体が愛憎劇のような果物です。嫌いじゃないですが。」(雪兎)
    △「取り合わせの句。こういうのも面白い。」(洋三)

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  28. 18. 月夜の葦が折れとる(-1点)

    ●「写生句なのでしょうが、いまひとつ味がわからない句。」(洋三)
    △「どうして『折れとる』なんて言うのかな。おれとるか?おれとるなーおほほ。町田康。」(働猫)

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  29. 20. 汽車が走る山火事(-1点)

    ●「語呂が悪い。」(祖啓)
    △「あ、こんなのあったっけ。という句。汽車から山火事を見たのか。山にいて汽車を見ているのだったらもうおしまいだ。」(働猫)
    △「汽車が走ると煙で山は火事のようになるということでしょうか。ちょっと面白い句。」(洋三)

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  30. 29. 口あけぬ蜆淋しや(-2点)

    ●「淋しや、が、なんか昭和初期歌謡みたいで抒情的過ぎるかな~と思ってしまいました。スウィート過ぎる。もっとこう、ズケズケした言い方してほしい気がします。」(玉虫)
    ●「この句の場合、『口あけぬ蜆』について誰もが淋しいという感情を抱くとは限らない。『悲しい』という人もいれば、『空しい』という人もいるかもしれない。つまり『淋しや』と感情を限定することによって、読み手が抱くそれ以外の感情を否定してしまっているのだ。感情は非常に個人的なものであり、共感を呼ぶにはある程度の説明を要するが、それは俳句のような短詩型文学では難しい。これが俳句に抒情はいらないとよく言われる所以なのだと思う。」(雪兎)
    △「それでも出汁は出るんじゃないかな。大丈夫、大丈夫。」(働猫)
    △「蜆さえも口を開いてくれない。自嘲の句でしょうか。」(洋三)

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  31. やはり井泉水による添削前の句がいくつかありましたね。
    俳論や添削では、やはり井泉水は随一の俳人でした。
    また、井泉水と放哉の信頼関係も、名句を生む原動力の一つだったのでしょう。
    師匠の添削に弟子が怒るというのは、俳句では日常茶飯事ですから。

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