2014年12月23日火曜日

2014年を振り返る



武里圭一

【自選句】


飛び込めば死ねるトラックが走る
凶悪な憂鬱でバットだけは吸うていた
雨、滴匂い立つ窓が濡れている
かなしみは見えるところにおいておく
訣別したい街の杭

【他選句】

海が薫る橋で泣く 古戸暢
咳、訃報、咳 働猫
乱世 それはそれとして眠たいわたし 久光良一(新懇)
透析生活 旅広告の旅いつもしている 松養榮貞(新懇)
図書館の老いの咳 気がかりに 山浦達朗(新懇)

※総評

 自選は句作帳など何も見なくとも頭で覚えているものを。「飛び込めば死ねるトラックが走る」、この句を詠んだ直後、車に轢かれたらしい鼬の死骸を見たせいか、最も印象に残っています。
 他選の上二句は句会報を拝見した際記憶に残ったものから。下三句は新懇より。「咳、訃報、咳」、働猫さんのこの句は、できれば訃報を聞かなかったことにしてしまいたい、死を認めたくはない、咳でもって誤魔化してしまいたい、そういう気持が読み取れるように思います。古戸暢さんの「海が薫る橋で泣く」、私も海に泣くとでもいう感じはいつもあって、大いに共感できる感覚です。
 今年はプライベートも含めて今までになく変化の多い年でした。まだまだ句歴といえど二年ポッチの私です、駄句でお目汚しすることも多いと思いますが、今後とも宜しくお願い致します。

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畠働猫

【自句5句】

桜咲くかしら痩せた手をとる(働猫)
さよなら揺れてカンパニュラ夜香る(働猫)
迷いは薄墨色の夜に溶く(働猫)
胸にくちづけて秋茜(働猫)
石仏に祈りに戻る(働猫)

【他句9句(鉄塊5句・ゲスト4句)】

かわるがわる地球儀を抱くあにおとうと(藤井雪兎)
冬の檸檬を齧って香気の結晶をみた(小笠原玉虫)
あの猫さっきもおったでおっちゃん(十月水名)
拾いに来ないボールのあって夏の昼(風呂山洋三)
海が薫る橋で泣く(馬場古戸暢)

<鍛錬句会招待者>
電気消す派のきみの骨白かった(りんこ)
会えなくなる人の目玉かわいている(うぐいす)
火事じゃない火の燃え盛る(ロケッ子)

<VT句会>
もうあなたの声聞こえない夜へ風花(タケウマ)

【選評において印象的であったこと】

・第五回VT句会における偶然のコラボレーション
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愛人にするなら誰だ童貞ども(ゆなな子)

 △きゃりーぱみゅぱみゅでお願いします。(タケウマ)
 △木村多江でお願いします。(働猫)

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※総評

【自句5句】

 自句に関しては、今年はこれといった収穫がなかったように思う。今年の句としてぱっと思い浮かぶものが無かった。
 句歴も2年が経過し、自己の内奥にある井戸が枯渇したのかもしれない。そこに充満していた「詠むべき素材」をもう汲み尽してしまった感がある。それはそれで次のステージへ進む時期ということだろう。また、今年は雲庵(錆助)編集の『蘭鋳』に50句を載せていただいた。そちらには今年4月までに作句したものから自選したため、今回の企画では、それ以降の鍛錬句会へ投句した句から選んだ。月毎に出来不出来が鮮明であり、今回選んだ句も特定の月から集中して抜き出すことになった。

【他句9句(鉄塊5句・ゲスト4句)】

 他句については、鍛錬句会およびVT句会において、特選に選んだもの、また強く印象に残った物から選んだ。また、そうして選んだものの中には、鍛錬句会招待者・VT句会参加者の句も多く見られたため、今回それらの句も選ばせていただいた。

【選評において印象的であったこと】 

 次に、今年一年を振り返るに当たって、選評においても印象的だった件を挙げておく。

 タケウマさんはご招待させていただいた鍛錬句会においてもVT句会においても、これまで全句評をしてくださっている。自分も「読む」機会として鉄塊の句会では全句評を心掛けているため、自然、タケウマ評と自分の読みを比較することになる。そうして見ると、選にとるかとらないかは異なるものの、評の内容については共通した部分が多く、勝手ながらシンパシーを感じてしまう。上記に挙げたのはその顕著な例である。VTでは編集作業もしているため、投句・選評ともに自分の分を終わらせてから他者のものを見る。したがって上記の例は全くの偶然である。この奇跡がもしかすると皆さんには伝わっていないかと思い、今回取り上げさせていただいた。

 最後に他句9句についての選評を再掲させていただく。

 まとまりのない文章となってしまったが、それも師走らしかろうかと思い、推敲を省く。

▽かわるがわる地球儀を抱くあにおとうと(藤井雪兎)

 幼い兄弟のほほえましい姿を思い描いた。地球儀を取り合う理由が、久しぶりに帰ってきた父のみやげだからか、それとも世界征服を宿命づけられた兄弟だからか。地球儀を句材にもってきたのがとてもよかった。(働猫)

▽冬の檸檬を齧って香気の結晶をみた(小笠原玉虫)

 これは美しい句だ。五感のすべてを刺激する。「冬」が寒さを感じる触覚、「齧って」が音と味を連想させて聴覚と味覚、「香気」が嗅覚、「みた」が視覚。おそらくは意識的に盛り込んだのであろう。句そのものはもっと整理ができそうであるが、上記のように五感を詠み込むことを目的としたのだと考えれば、これ以上削ることはできなかったのであろうと理解できる。だが、ここまで丁寧に描写しなくとも良かったかもしれない。推敲の余地はまだありそうだ。それにしてもこの一瞬の情景をよく切り取ったものである。(働猫)

▽あの猫さっきもおったでおっちゃん(十月水名)

 「あ(a)の猫さ(sa)っきもお(o)ったでお(o)っちゃん」偶然であるが、韻の踏み方が自句の「た(ta)どりついた羽(ha)蟻を看(mi)取るリ(li)ノリウム」と同じであったので、すぐに意識的な配置と判断できた。内容もほのぼのした情景が想像できてとてもいい。通りに面した床几に座っているのだろうか。それとも公園のベンチか。猫好きなおっちゃんとそれほど猫好きでもない作者との心の交流が微笑ましく描かれている。(働猫)

▽拾いに来ないボールのあって夏の昼(風呂山洋三)

 ぽつり、という音が聞こえそうなよい景だと思います。ただ、変なことも思い出しちゃったな。公園のベンチに座っている。そこにボールが転がってくる。でも子供たちは自分には近づきたくないらしく、拾いに来ようとせずに遠巻きに見守っている。田舎の小学生だったころ、そうやって避けるべき相手として認識していた人物が複数いた。「えぼっちゃん」と「体操じいさん」だ。今思えば、なんらかの障害を持った人とただの老人だったのだが。無知な子供であり、異質な存在は恐怖の対象だった。田舎特有の差別の強さで、大人たちも近づくなと教えていた。自分が無知であったことを振り返るのは本当に嫌なものだ。(働猫)

▽海が薫る橋で泣く(馬場古戸暢)
 「海が薫る橋」でもうすばらしく美しい。こうした情景は想像では描けない。そしてそこでは何をしても絵になるだろう。「泣く」。泣いてしまうのである。涙や悲しみはやがて海へと流れてゆくだろう。美人であってほしい。いや、この景は美人でしか成り立たないものだ。(働猫)

▽電気消す派のきみの骨白かった(りんこ)


 「電気消す派」という表現はなかなか色っぽい。性癖はさまざまであるが、「電気消す派」と「電気点けたまま派」とで明確に二分することができる。「消す派」は、視覚を制限することによってより興奮するというタイプの場合もあるだろうが、やはり一般的には羞恥心の表れと考えるべきであろう。そんな羞恥心の持ち主だった人が、今はその骨の白さまで露わにされてしまっている。そのことが故人への憐憫として表れ、さらにはかつての触れ合いや言葉なども想起させるのだろう。物語が凝縮された句である。自分は相手に合わせる派です。どのみち眼鏡はずしたら線しか見えないのでね。(働猫)

▽会えなくなる人の目玉かわいている(うぐいす)


 眼を見開いたままの死者というのは非常に凄惨な光景である。今まさに恋人の命を奪い、茫然としている情景を思い浮かべた。凄惨ではあるがそうした情景には愛と美しさをも感じてしまうのだ。(働猫)

▽火事じゃない火の燃え盛る(ロケッ子)
 「火事じゃない」と非常を常とする視点がおもしろい。大きな災害で痛みを受けた人の句であろうか。火は恐ろしいものであるが、それを用いずに我々の生活はもはや成り立たない。原子力をはじめとした科学技術全般にも言えることであるが、こうした視点の背景には、詠者の経験や思想が表れるものだ。そしてそれこそが自由律俳句の特徴と言えるのではないだろうか。(働猫)

▽もうあなたの声聞こえない夜へ風花(タケウマ)

 特選。今回の句群(※該当句会は第五回VT句会78句)の中で最も美しい愛の句である。失われたのは当然、声だけではない。風花の冷たい美しさには同時に儚く失われるものを想起させられる。顔を覆い、夜のように黒く長い髪を震わせ、静かに泣く美しい女性を思い浮かべた。(働猫)

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風呂山洋三

【自選五句】


夜の疲れた影と出掛ける
拾いに来ないボールのあって夏の昼
壁と話す人のいる夜が明けた
隣から悲鳴のあって夏めく夜だ
春めく道で拾ったナイフだ

【鉄塊五句】

ちょうどよい月のないすきま 水名
子猫いなくなった家のチャイム鳴る 古戸暢
咳、訃報、咳 働猫
それぞれの傘でまっすぐな道 ロケッ子
母娘さざめく風呂場の下を通る 玉虫

※総評
印象鮮烈をテーマに今年一年、句作を続けて来ました。これは選にも言えることができます。来年も引き続き印象鮮烈にこだわり精進して参りたいと思います。

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小笠原玉虫

【自選五句】

にじんだ月に泣いてやらない
母娘さざめく風呂場の下を通る
かなしい辛いものを食べる
お前のいい匂いの秘密に触れて春待
どこまでもよそんちが続くつるばらつるばら

【他選五句】

春めく道で拾ったナイフだ  風呂山洋三
お前の名前で乾いた唇切れた  風呂山洋三
バス間違えてマッコウクジラが見える  十月水名
マグカップ恥ずかしいほど割れて目の前に落ちる  りんこ
約束は昨日だったビビデバビデブウ  うぐいす

※総評

今年の鉄塊鍛錬句会は招待制度が始まり、多彩な参加者さまに恵まれましたね。
りんこさん、うぐいすさんと、女性の参加が多かったのがとても嬉しかったです。
鉄塊衆のなかでは洋三さんが冴えていらっしゃいました。
「春めく道で拾ったナイフだ」は中でも非常に優れた句と思います。今年いちばん印象に残っています。
十月さまのマッコウクジラも忘れ難い句。雄大でファンタジック、神話のような趣があると思いました。
わたくし自身は、家族に病気の者が多く、つらい一年となりました。
常に上の空で過ごしているような感じで、春~夏は特にその傾向が強かったように思います。
句の出来もいまいちでした。
が、いまいちなりに自分では気に入っているものを自選いたしました。
「どこまでも~」は海紅に投句したものになります。つるばらつるばらの反復部分が自分ではお気に入りです。

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馬場古戸暢

【自選句】

真昼の月あり発泡酒のみきれぬ
子猫いなくなった家のチャイム鳴る
人が燃えたと話す女と新宿におる
薬効いてくる部屋に水滴の音
笑顔の頬へ日射しやわらかい

【他選句】

桜咲くかしら痩せた手をとる  働猫
隣から悲鳴のあって夏めく夜だ  洋三
約束は昨日だったビビデバビデブウ  うぐいす
ふたり汚した雨強くなる  働猫
拾いに来ないボールのあって夏の昼  洋三

※総評
自選句と他選句ともに、鉄塊鍛錬句会投稿句のうち記憶に残っていたものより。


皆さま、よいお年を。



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