2012年9月2日日曜日

第一回 VT句会(2012秋)


最高得点句
ふるさとは鞄の底のような闇

最低得点句
およそ天下のすべての男らのてのひらと手の甲とを消毒せよ

互選集計
(8点) ふるさとは鞄の底のような闇 ◎◎◎○○
(5点) 家族はあなただけになりましたと真夜中にぽつり ◎○○○
(3点) ラストシーンに蜘蛛の降りる ◎○
(3点) 豆腐屋の玻璃に「今朝の詩」貼られている ◎○
(3点) 新しき墓と花火みる ○○○
(3点) 趣味 すばやさ ◎○○●
(3点) 喧嘩に負けて恐竜図鑑読む ◎○
(2点) 雨だれに沈む道路の青信号 ○○
(2点) 恐らくはコロスをソグと読んでいる ○○
(2点) もうひとつ傘貸して見送る ◎
(2点) 乾いた音させて犬が食うている蝉だ ○○
(2点) 影、乾いてゆく ◎
(2点) 向日葵やあたまのなかは鏡張り ◎
(1点) 見つけたぞ宝の地図の地図の地図 ◎●
(1点) 座礁晴。 ◎●
(1点) おじさんの団扇の裏に松浦亜弥 ○
(1点) 暑すぎる出来る限りをデストロイ ○
(1点) 世の中ほどに対立もせぬ二人 ○●
(1点) 路上には吸殻と夏雲の影 ○
(1点) 恐竜のもっともくらきミュージアム ○
(1点) 偽名も一緒に眠っている ○
(1点) 穴惑標識朽ちしまま荒野 ○
(1点) きみが空蝉を見せるかわりのなにかがない ○
(1点) 過ちて東京の路地裏の水 ○
(1点) 十円で河童の木乃伊見る青野 ○
(1点) 秒針を追う長針を追う短針よ ○
(1点) 胎盤流れて夏の河またぐ ○
(1点) 笛吹いて蜘蛛垂直に糸垂らす ○
(1点) 眠る恐竜に月光 ○
(1点) 幾たびも飛ぶ夢の崖夕蜩 ○
(1点) 冷麦や朴訥として恐妻家 ○
(1点) 冬銀河一皮むけば腫あれるや ○
(1点) ひとの手の恐ろしく虫殺す毎 ○
(1点) 売女に嘘で媚びてる
(0点) 四十女の陰部を弄る夜が蒸す ○●
(0点) 座布団のご冗談にも程がある ○●
(-1点) 恐ろしやサンバイザーのママチャリが ●
(-1点) 発泡スチロールの甲冑のアイドルらと孔雀と ●
(-1点) 炭酸はじける入道雲 ●
(-1点) 夏空を恐竜二匹が流れ行く ●
(-1点) 撫でる頭が無い ●
(-1点) 腰に提げた赤色灯が俺の所在地 ●
(-2点)  およそ天下のすべての男らのてのひらと手の甲とを消毒せよ ●●


※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。

作者発表

【青山茂根】
眠る恐竜に月光
不在しづかに額縁の向かう側
穴惑標識朽ちしまま荒野
影、乾いてゆく
新しき墓と花火みる

【天坂寝覚】
ひとの手の恐ろしく虫殺す毎
過ちて東京の路地裏の水
空を飛ぶわけにもいかず影を踏む
わざと水たまり踏んで笑う
もうひとつ傘貸して見送る

【丑丸敬史】
恐れよわが影のみちる八月の道
冬銀河一皮むけば腫あれるや
聖痕のまたひとつふゆ鏡餠
大亂の倭國に虹の羽化
空蟬の杯をみたす甘露

【興梠隆】
恐らくはコロスをソグと読んでいる
秒針を追う長針を追う短針よ
ふるさとは鞄の底のような闇
座礁晴。
撫でる頭が無い

【柴田千晶】
恐怖漫画の少女蝿捕蜘蛛まみれ
幾たびも飛ぶ夢の崖夕蜩
十円で河童の木乃伊見る青野
豆腐屋の玻璃に「今朝の詩」貼られている
胎盤流れて夏の河またぐ

【渋谷知宏】
恐ろしいことに君がいない夏は来ぬ
笛吹いて蜘蛛垂直に糸垂らす
路上には吸殻と夏雲の影
腰に提げた赤色灯が俺の所在地
乾いた音させて犬が食うている蝉だ

【春風亭馬提曲】
恐竜の骨に響や法師蝉
川遊び少女のリボン解けけり
暑すぎる出来る限りをデストロイ
売女に嘘で媚びてる
夏空見上げて目が痛むだけ

【中筋祖啓】
恐ろしやサンバイザーのママチャリが
座布団のご冗談にも程がある
雨だれに沈む道路の青信号
趣味 すばやさ
息がえぐる

【中村安伸】
恐竜のもっともくらきミュージアム
向日葵やあたまのなかは鏡張り
秋立つや原稿用紙束厚し
発泡スチロールの甲冑のアイドルらと孔雀と
およそ天下のすべての男らのてのひらと手の甲とを消毒せよ

【馬場古戸暢】
夏空を恐竜二匹が流れ行く
蝉が鳴く根元で弟泣いている
おじさんの団扇の裏に松浦亜弥
汗ばむ夜の薬二錠
炭酸はじける入道雲

【藤井雪兎】
喧嘩に負けて恐竜図鑑読む
くわえてくトースト焼いて遅刻する
見つけたぞ宝の地図の地図の地図
ラストシーンに蜘蛛の降りる
偽名も一緒に眠っている

【松田畦道】
冷麦や朴訥として恐妻家
或る頃はジョニーと呼ばれ生身魂
人型に黴生えておりいつも留守
家族はあなただけになりましたと真夜中にぽつり
きみが空蝉を見せるかわりのなにかがない

【矢野風狂子】
恐ろしき世界へ座敷犬の吠え狂う
遠花火まどろみのなか悪夢に入る
昼座敷蚊遣り香のみ減り続け
陽を縋り蔓草のどこまでもどこまでも
四十女の陰部を弄る夜が蒸す

※五十音順。

66 件のコメント:

  1. 以下、選評。

    ◎……特選
    ○……並選
    ●……逆選
    △……コメントのみ

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  2. ふるさとは鞄の底のような闇(8点)

    ◎『つねに持ち歩き傍らに置いてある鞄だがその底を意識することは少ない。切符とか鍵をなくした時にその闇を手で探るのだが、その感覚とふるさと への複雑な感情を結びつけた発想に意外性があって良かった。』
    ◎『鞄を探るうち、ふとした瞬間に底の見える事がある。いくら物を詰め込んでも、結局それからは逃れられない。ふるさとをこのように考えていた時期が私にもあった。鞄の底から「ある人」の声が聞こえなくなるまでは。』
    ◎『鞄の底には様々なものが溜まっている。飴の包み紙やら街頭で配られたティッシュの広告やら、映画の半券やら。ひっくり返すと何故か、ぱらぱらと砂 のようなものが落ちてくる。故郷に対する感情も長年に渡って積もり積もった、砂のような何かにまみれているものだ。本句はそれを「闇」と簡潔に言 い切った。』
    ○『暗いふるさとですね。鞄の底の闇がかったです。ふるさとは甘い感じがしますが。』
    ○『使い古したボストンを想像したい。思い出に暗く沈む故郷だが、その仄暗き故郷にも未だ老いた父母がいる。特選に取るか迷った。』

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  3. 家族はあなただけになりましたと真夜中にぽつり(5点)

    ◎『「4・6・6・8」の形式。新傾向句調の四辺形式に似ているか。実際自作してみて長律が難しかったので成功している句かと。情景も過不足なく描写されていて、定型で成立しにくい句と思う。』
    ○『寂しい。ほんとは、言ってはいけない事なのではないだろうか。前向きさのかけらも感じないが、染みてくる。不思議だ。』
    ○『葬式が終わった後の夫婦だろうか。「ぽつり」と声が真夜中に響く時、この家族の「形」はゆっくりと変わり始めるのだろう』
    ○『何か重要な要素が欠落していると思うのですが、この場合省略されているのは何だろう。今二人きりになってしまったのではなく、元々孤独な人間の毎夜のつぶやきかとも思う。例えば「家族はあなただけになりましたと真夜中[の洗濯機]にぽつり」』
    △『子供に先立たれた家族か。ぽつり、は直接的過ぎ。』

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  4. ラストシーンに蜘蛛の降りる(3点)

    ◎『家で映画を観ている際、よりによってラストシーンにさしかかったところで、テレビの横に蜘蛛が垂れてきている様を想像しました。よくあることではありませんが、日常の偶然をうまく詠んだと思います。』
    ○『映画の最後に蜘蛛が降りてくる。サスペンス映画とかにありそう。リズムがもう一つかな?』
    △『ありがちの映画のよう。発想の飛躍が欲しい。』

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  5. 豆腐屋の玻璃に「今朝の詩」貼られている(3点)

    ◎『描かれている景が鮮やかに立ち上がる。そこからドラマが始まり、世界が広がっていく。早朝5時頃の空気を感じました。』
    ○『決して繁盛していなさそうな店に「今日も頑張りましょう」的な、詩とも標語ともつかぬものが貼り出される。お前が頑張れよ、と突っ込みたくなる。 そんな店は各地にある。うちの近所の場合はとんかつ屋だ。「味ひとすじ」云々と掲げながら、釜飯もやっている。ちっともひとすじじゃない店なの だ。』
    △『残念ながら感興が伝わらず。』

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  6. 新しき墓と花火みる(3点)

    ○『「新しき墓」が一体誰の墓なのか悩みましたが、これは誰の墓でもいいのかもしれません。死の象徴の一つである墓と、鎮魂の意味合いを持つ花火。その取り合わせが優しく、また美しいと思います。あるいは花火の儚さに、いきものの生を重ねたりもするのでしょうか。そうすると途端に墓が重みを増してきて、メメントモリという言葉を思い出しました。』
    ○『この墓が誰のものかで解釈が変わって来るが、仮に自分のだとすると、入る墓が決まったという安堵感と、死期が確実に近付いているという絶望感の中で、これまた華麗さとはかなさの共存する花火を見ていることになる。巧みな構成である。』
    ○『誰の墓と取るか、いろいろ考えられますが、お墓の句なのに何故か明るさが残る。花火見物の穴場を探していたら分譲中の墓地に迷い込んでしまった景でもいい。墓石と肩を並べて花火をながめている後ろ姿が想像できて可笑しい。』
    △『これは亡き妻の墓か、彼女の墓か、今年はこんな形での花火だな、と語りかけているのであろう。』

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  7. 趣味 すばやさ(3点)

    ◎『「は?」皆さんを代表して言わせてもらいました。全くもって共感出来ない作品だが、これを俳句として出すあたりが恐ろしい。変わった事をしようではなく、大真面目にやっている。狂人のようなこの特異な眼差しを肉付けすれば、現代最高の俳人になりうる。時代は変わる!!』
    ○『面白い。ゲームやアニメのキャラでも、趣味に「すばやさ」はないだろう。では実際、このすばやさはなんなのか?多分、生き急ぐ事かと思ったりする。I Hope A Die Before Get Old「老いさらばえる前に死にたいぜ。」(by The Who)こんな感じか。』
    ○『面白すぎる嫌いはありますが・・・・・・何のことだろうと色々楽しめます。単に履歴書の記入欄を書き間違えたのかな。「長所 すばやさ」でも変な人っぽいが。』
    ●『現時点では、まだ未完成過ぎると思う。可能性と未完成は違う。』
    △『「趣味 すばやい」ならまだ理解できるところがあったのですが、名詞形でこられると途端に難しくなります。たとえば「長所 明るさ」も同じベクトルに位置されると思いますが、いったいぜんたい、読み手に何を伝えたいことになるのでしょうね。履歴書を書く際の参考にしたいので、ぜひ解説をお願い致します。』
    △『すばやいこと、鍋の肉を争うとか、が好きなのですね。』

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  8. 喧嘩に負けて恐竜図鑑読む(3点)

    ◎『僕が丁度こういう子供だったので、思わず特選にとってしまいました。そんな贔屓目を差し引いても、いい句だと思います。べそかいた子供の顔が、図鑑をめくるうちにみるみる興奮に沸き立っていく様が見えます。その図鑑が一般の鳥獣魚類ではなく、恐竜と言うところがまた、より夢があって良いです。』
    ○『喧嘩に負けた弱い自分→強い恐竜へのあこがれという脈絡が明らかなのを欠点とする見方もあるかもしれないが、恐竜図鑑を読んでいるうちに喧嘩 のことそのものを忘れていく過程が想像できて面白い。恐竜図鑑にはすべてを忘れるほどに熱中させる魅力があると思う。』
    △『かわいい句ですね。読むにもう一工夫できそう。』
    △『題詠を分けて選句するルールならこの句を特選に。』
    △『「少年時代」の残像ですね。少年の心の傷みは伝わります。』

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  9. 雨だれに沈む道路の青信号(2点)

    ○『一瞬を捉えていて、良い句だと思う。』
    ○『激しい雨の中軒下で雨宿りをしていたところ、軒先から雨だれがとどまることなく滴り落ち、道端の青信号もよくみえなくなった様とよみました。沈むといく表現が、雨の激しさを物語っているようです。』
    △『ここは歩行者信号の人型のシグナルが面白い。それを暗示させることができれば面白い。』

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  10. 恐らくはコロスをソグと読んでいる(2点)

    ○『ほのぼのとしていて、ちょうど良かった。』
    ○『笑いました。味があります。』
    △『「コロスをソグ」が生きているだけに「恐らくは」が余計で残念。』

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  11. もうひとつ傘貸して見送る(2点)

    ◎『無駄がなく簡潔ながら状況がとてもよくわかります。たまらなく切ないです。』
    △『ドラマがあるのだろうが、残念ながら「もうひとつ」読み切れない。』

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  12. 乾いた音させて犬が食うている蝉だ(2点)

    ○『乾いた音といわなくても分かりそう。乾いた音のところ、私なら何か別の音にするかも。最後が蝉だで終わったほうがいいのか? 言葉の順番はなんかもっと考えられそう。』
    ○『犬って蝉食うの?』
    △『蟬の乾きが犬に憑る。犬は乾いていく。』

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  13. 影、乾いてゆく(2点)

    ◎『この瞬間、魅力的だ。子供のころから、今も、これからも、きっと、この瞬間は好きであり続けると思った。普遍的な生命力。そういえば、焚き火を見ているときもこんな気分になるなあと思った。』
    △『できている。背景の物語の広がりが読める。』

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  14. 向日葵やあたまのなかは鏡張り(2点)

    ◎『鏡張りという発想が面白い。鏡張りの頭に、いったい何が映っているのか?何にも映ってなくてギラギラしているのかもしれない。驚きました。』
    △『鏡張りは狂気に通じる。向日葵ばたけで向日葵に囲まれて触発された狂気か。』

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  15. 見つけたぞ宝の地図の地図の地図(1点)

    ◎『遠いなぁ。宝の地図の地図の地図…(笑)どこまでもたどり着けないそんな感覚は、なんか共感出来る。作中主体はそれでも喜んでいるようだ。』
    ●『いくらなんでも、無茶だ。』
    △『並選を五句とれれば必ず入れていた。大好きな一句。』
    △『面白いのですが、センスが子供っぽい?』

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  16. 座礁晴。(1点)

    ◎『短い!でも物語が見える。好きです、こういう句。「。」も効いている。「ちっ、座礁しちまったぜ」とか明るく天を見上げて独り言ちたいです、ジャック・スパロウのように。』
    ●『俳句というより俳句になる前の素材をそのまま持って来られたような感じ。『晴れた空の下での船の座礁』という題材としてはなかなかの情景なのだから余計勿体無い。』
    △『「晴」が気になって「座礁」調べてしまった。暗闇や荒天などでなくても起きるのですね。「干潮時に、水路での進路選択のミスによる座礁。」などもあるそうです。だとしたら、実景としても取れるし、ちょっと描写仕切れておらず苦しいが座礁船に日の光が降り注ぐさまとも。動きのある情景の、スローモーションな座礁のさまをもっと描いた句であったら、と非常に惜しい気がする。』

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  17. おじさんの団扇の裏に松浦亜弥(1点)

    ○『ご本人にはたいへん失礼ながら、旬を過ぎたアイドルと、おじさんの団扇との取り合わせが絶妙。何年か前のものなのか少し色褪せて、端っこが少し破 れて。そのうち、遊びに来た孫か誰かに鼻毛と眼鏡を書き加えられ、飽きられて捨てられる。人気商売の切なさとでもいったものを言い当てた佳句だと 思う。』
    △『アイドルの写真が貼られた団扇はアイドル応援グッズの定番。この団扇に裏表があるとするなら、松浦亜弥の写真が印刷されているほうが表のはず だが、この句で「裏」としているところに、おじさんとこの団扇との距離感があらわれていて興味深い。』
    △『作者が感じたインパクトが伝わらず。今やおじさんはAKBのTシャツだって着ます。』

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  18. 暑すぎる出来る限りをデストロイ(1点)

    ○『あまりにも暑すぎて頭がおかしくなると、このように不条理な殺意が。不条理感がうまく詠めている。』
    △『したくなるのはよく分かるが、それでは詩にはならない。』

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  19. 路上には吸殻と夏雲の影(1点)

    ○『ストリートの匂いが感じられる。青春性と、ひと匙の不良っぽさ。』
    △『この吸殻は本人が今捨てたもの。その横には夏雲の影。夏雲は過ぎ去り日の少年の残像(影)。望んで捨て去って来た過去への郷愁がふと(一秒にも満たず)頭を過る。これは仕事の前のスナイパーかスパイか。』

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  20. 恐竜のもっともくらきミュージアム(1点)

    ○『ミュージアム――博物館自体がそもそも薄暗いイメージなのですが、確かに恐竜のコーナーは、より暗さを強調しているような気がします。あるいはこの『くらき』は、恐竜自身が持つ畏れも表しているのでしょうか。化石か再現模型かわかりませんが、恐竜の物々しさを強く感じます。』
    △『暗い恐竜がいいですね。ミユージアムでふつうになったかな。』
    △『何故「博物館」ではいけないのか、作者に聞いてみたい。』
    △『ナイトミュージアムですね。』

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  21. 偽名も一緒に眠っている(1点)

    ○『定型で詠むと冗長になる。描写しすぎず、引くものもこれ以上ない句。』
    △『全ての人間はペルソナという偽名を持つ。眠る時こそペルソナから解放されたい。脱ぎ捨てた偽名も横で眠りにつく、か。』

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  22. 穴惑標識朽ちしまま荒野(1点)

    ○『荒野感ハンパ無し。キュッと締まっていて気持ちがいい。』
    △『できている。ただ「朽ちしまま」が直接的過ぎて惜しい。』

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  23. きみが空蝉を見せるかわりのなにかがない(1点)

    ○『空蝉は何かの比喩かもしれませんが、ここはそのまま蝉の抜け殻として読みました。となると、この句が言う『きみ』は幼い子供を指しているのでしょう。そうすると句に、子供と大人のやり取りが見えて、ほほえましいと思いました。』
    △『すぐに切り返せない自分がもどかしい。物がないのなら返歌でも思うが、空蟬が『源氏物語』の空蟬を暗示するなら脈がないので退散せねば。』

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  24. 過ちて東京の路地裏の水(1点)

    ○『「路地裏を夜汽車と思う金魚かな」(攝津幸彦)の句を踏まえて愚考。路地裏に過ってできし水たまりは何を思う。過って一夜現れし金魚は何を思う。』
    △『気持ちはわかりますが、そんな気分の時はもっと綺麗な水にふれましょう。』

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  25. 十円で河童の木乃伊見る青野(1点)

    ○『野原で遊ぶ子供たちの景か。十円出せばカッパのミイラを見せてやるぜ、とガキ大将。なけなしの小遣いをはたき、夏草の中でひからびた動物の死骸を 見る。なんとなく映画「スタンド・バイ・ミー」を思い出した。十円で河童の木乃伊見る、があまりに秀逸なだけに、季語は不要な気もするが、どう か。』
    △『つげ義春のマンガ風。怖い俳句、ですね。』

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  26. 秒針を追う長針を追う短針よ(1点)

    ○『遅いほうが早いほうを追うという絶望的状況。「短針よ」の部分、リズムを活かす止め方があったかも。』
    △『秒針を追う長針を追わず短針、なら詩に近づけたが。』

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  27. 胎盤流れて夏の河またぐ(1点)

    ○『「8・8」なので、連句や短歌の七七を想起させて読みやすい。シュールな想像の句か。でも、インドのガンジス河なら実景だろう。』
    △『これは「胎盤流れる夏の河」をまたぐ、のか。「胎盤流れて夏の河」、「またぐ」なのか。もし後者なら「胎盤流れて夏の河」だけが好ましい。』

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  28. 笛吹いて蜘蛛垂直に糸垂らす(1点)

    ○『これは雨月物語の一場面でもあるか。笛に誘われて出し蜘蛛は亡き妻の変化。夫婦の交情。』

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  29. 眠る恐竜に月光(1点)

    ○『恐竜展示館かはたまた発掘現場かわかりませんが、もう起きることのなくなった恐竜たちに、月光がやさしく降り注いでいる様を想像しました。この句の短さが、この夜の静かさをよくあらわしていると思いました。』
    △『これは往時の風景だろうか、それならばもう少しポエジーが欲しい。それとも博物館の恐竜の展示物に月光が、ということか。それならまだ良いが、それがそれとなく分かるようにする工夫が欲しい。例えば「眠る恐竜に窓よりの月光」とか。』

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  30. 幾たびも飛ぶ夢の崖夕蜩(1点)

    ○『夕蜩の鳴き声は何かが滅ぶ音だ。それを聞いていると、一種の催眠状態になって、滅ぶつもりも無いのに滅びたくなって来る。私も崖から飛び降りる夢は何度か見たことがあるが、一回飛び降りれば大抵目が覚めた。だがこの句はそうならない。何度も繰り返している。おそらく夕蜩の鳴き声のせいだ。』
    △『夕蜩が、上五中七に響いている。』

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  31. 冷麦や朴訥として恐妻家(1点)

    ○『この食卓に居合わせると楽しそう。』
    △『「朴訥」が惜しい。』

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  32. 冬銀河一皮むけば腫あれるや(1点)

    ○『一皮むけるという慣用的な表現を逆手にとって質のよい諧謔に転化したが、季語の選択は一考を要するか。』

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  33. ひとの手の恐ろしく虫殺す毎(1点)

    ○『そう思うのが一番恐ろしい。』
    △『「恐ろしく」と言ってしまって恐ろしさが減殺。』

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  34. 売女に嘘で媚びてる(1点)

    ○『いやあ情けない男だよ。ほんと毛嫌いするね。そこまでしてやりたい⁉売女に媚びて、しかもそれが嘘…「おれは、JALのパイロットなんだぜぇ」いやいや、「俺?いま会社員。」これぐらいの嘘レベルじゃなかろうか。妙にリアルで選ばざるを得ない。』
    △『背後ノ物語性ガ俯瞰デキズ、句ヲ解釈スルマデニ至ラズ。』

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  35. 四十女の陰部を弄る夜が蒸す(0点)

    ○『真夏の夜の情事ですね。女は齢を重ねるごとにますます求めるようになるとききますが、この四十女は果たしてどうだったのか。最後の「夜が蒸す」が少し弱いかと一読目は思いましたが、三読目には汗まみれの部屋と二人の様をうまく表していると考えるに至りました。』
    ●『陰部を弄るは露骨すぎるようだが、いやらしさを感じさせない。夜が蒸すもほどよい後味をくれる。しかし四十女は私の倍の年齢なので吐き気がした。だから逆選。閉経後もしくは閉経間近の女は終わってる。』
    △『「四十女」、「陰部」、「弄る」と畳み掛けて直接的過ぎる。バレ句はうまくつくらないと恥ずかしいだけの句になる。』

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  36. 座布団のご冗談にも程がある(0点)

    ○『定型で選ぶのが難しく、なんとなくこの句に。無季ですが、中七下五の付けあわせが絶妙。慣用句の付けながら、情景描写的なおかしみ。小道具の座布団が効いていて、座布団をこねくりながら訴えているさま、このあと座布団が飛ぶのかも、などと。川柳と紙一重といえばそうなのだが、連用形でないからかろうじて。』
    ●『ナンセンスで面白い。読み解けないのが悔しい。悪いわけではなく、どういう読みをしたらよいのか、是非知りたくて、逆選に(作者の方、すみません)。』
    △『意味はよくわかりませんが笑ってしまいました。『座布団』の後にこう続くとは思わなかった。よっぽど汚い座布団だったのでしょうか。』

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  37. 恐ろしやサンバイザーのママチャリが(-1点)

    ●『スキーのゴーグルをしているとみんな可愛く見えるのに、同じように顔を隠して何でこんなにこわいのか。確かに恐ろしいのはわかるのですが、どこに詩を見いだすか、ですね。』
    △『残念ながら、恐ろしさが伝わらない。ママチャリが暴走?』

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  38. 発泡スチロールの甲冑のアイドルらと孔雀と(-1点)

    ●『なんだろうか、詩情が感じられない。アイドルの説明がちと饒舌すぎるんじゃないかな。もう一捻りが欲しい。』
    △『孔雀が以外。実景ではあるまいが、孔雀は「発泡スチロールの甲冑のアイドル」を相対的に貶めるための小道具か。』

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  39. 炭酸はじける入道雲(-1点)

    ●『清涼飲料水の広告に添えられるコピーのよう。短く決めにいったのはいいが、入道雲と炭酸(=ソーダ水?)はつきすぎの感。あるものを並べてみただ けに留まり、それ以上のイメージの拡がりに欠けていると思う。せっかく入道雲が大きくそびえているのだから、何かもっと意外なものをはじけさせて 欲しかった。』
    △『「炭酸はじける」と「入道雲」の二物衝突としてもよいし、「炭酸はじける」、「はじける入道雲」とはじけるを両方にかけてもよい。』

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  40. 夏空を恐竜二匹が流れ行く(-1点)

    ● 『恐竜のような雲が二つ流れて行く、ということでしょうか。景色を浮かべてみて、これは確かに「流れ行く」と言うところだよなあ、と思ったのですが、そこがどうも。「恐竜」と「流れ行く」の取り合わせがチグハグと言うか、座りが悪い気がします。』
    △『これは昼としてもよいし夜空としてもよい。プレシオサウルス等の首長竜が良い。「流れ行く」がよいか、「泳ぎ行く」がよいか。もし雲の形からそう見えたとしても、「流れ行く」だと恐竜の死体のようにもみえる。』
    △『気持ちがいい句ですね。でも平凡な気が。』

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  41. 撫でる頭が無い(-1点)

    ●『意味が無数にとれるので、句としては不十分なのではないだろうか。ホラーな景は、自由律に生きる素材と思うが、少し悲しみの要素を強く感じた。』
    △『いわゆるひとつの「怖い俳句」ですね。我が子の頭か、自分の頭か。』

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  42. 腰に提げた赤色灯が俺の所在地(-1点)

    ●『決して悪い句ではないと思う。ただ「俺の所在地」という強烈な自我意識がすこし苦手である。』
    △『赤色灯を腰に提げて何をしているのだろうか「俺」は。まさか、遭難してSOSを発信しているのではあるまい、腰に提げて悠然としてそうだし。それとも、確信犯で遭難して悠然としているのか、見つけられたら今後の俺の人生は吉。発見されずのたれ死にしたら、それまでよ。』
    △『私も警備員のバイトをやった事がありますが、赤色灯の光って頼もしいぐらい強いんですよね。』

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  43. およそ天下のすべての男らのてのひらと手の甲とを消毒せよ(-2点)

    ●『逆選はむずかしいですね。案外とんでもない句がなかったし。この句の無意味さを面白いと思えるのか? 手の消毒ってふつうじゃないですか? なんか別の部位のほうが面白くなるような気がします。』
    ●『文の意味はわかりますが、何を読み手に伝えたいのかが見えてこず、共感できませんでした。また、韻性がうすく、句と呼ぶことに戸惑いを覚えます。』
    △『作者は吊革は汚いから摑まないような女性の設定です。いっそ、男性の全身を加熱消毒して、生き残った者をアダムとし自らをイヴとして人類を再びつくったらどうでしょう。小汚い男性はゴキブリと同一視されても止むを得ません(笑)』

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  44. 不在しづかに額縁の向かう側(無点)

    △『キリコの絵、東山魁夷の絵を想起。ただし「しづか」と直接言わずに暗示できれば大したもの。』

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  45. わざと水たまり踏んで笑う(無点)

    △『作者は子供?』

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  46. 恐れよわが影のみちる八月の道(無点)

    △『戦没者の霊だろうか。とはいえ、単なる反戦句と受け取るのは面白くないだろう。彼等を恐れる理由は人それぞれだ。』

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  47. 恐ろしき世界へ座敷犬の吠え狂う(無点)

    △『恐ろしき世界と書いたとたんに恐ろしくなくなるが、それが吠え狂う座敷犬と取り合わせられたことによってなんとも言えない滑稽さにつながって いる。』
    △『「恐ろしき」が直接的で成功していない。』

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  48. 聖痕のまたひとつふゆ鏡餠(無点)

    △『好きな句ですが、頂くにはもう一つでした。』

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  49. 息がえぐる(無点)

    △『方言でしょうか、文意を理解できませんでした。息がいったい何をえぐるのか、どうにもわかりません。解説をお願い致します。』
    △『読み切れず降参。』

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  50. 空を飛ぶわけにもいかず影を踏む(無点)

    △『「空を飛ぶわけにもいかず」が説明口調になってしまって惜しい。「空を飛べず影を踏む」くらいに抑えた方がよい。もしくは「空を飛んできて影を踏む」のような飛躍があってよい。』

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  51. 恐竜の骨に響や法師蝉(無点)

    △『余韻が残り続けて響き続けているというような詩的広がりが欲しいとこころゆえ、「響」より「残響」で「恐竜の骨に残響法師蝉」ではいかが。「きょう」音の繰返しも「響」きを助長する。』

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  52. 陽を縋り蔓草のどこまでもどこまでも(無点)

    △『中高生のポエジーのような天真爛漫はあるが。』

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  53. 汗ばむ夜の薬二錠(無点)

    △『この薬がどんな薬か想像して下さい、と謎をかけられている。勿論、物語性のある薬を作者は求めているわけだから、こちらも礼をつくして考えよう。堕胎後の痛み止め、化膿止めの薬とか。「汗ばむ」がちょっと設定を限定していて惜しい。「その夜(よる)の薬二錠」くらいが想像が膨らませてちょうど良くはないか。』

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  54. 川遊び少女のリボン解けけり(無点)

    △『中高生のポエジーに留まっている。』

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  55. 或る頃はジョニーと呼ばれ生身魂(無点)

    △『少し魅力的。「ジョニー」がある時代の人々を思わせて。ただ、すでにあるパターンか。』
    △『その当時ジョニーと名乗っていた人に纏わる情報がないので勝手に欠かせてもらうと、粋なバンドマンか何か、いわゆる一つの「女泣かせ」だったのであろう。それが今は。。という。いい時代があったんだから、いいじゃないですか、羨ましいばかりです。』

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  56. 空蟬の杯をみたす甘露(無点)

    △『カッコいいけど、それだけの気が……。』

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  57. 昼座敷蚊遣り香のみ減り続け(無点)

    △『伝統俳句的につくっているのか。現実にそうだとしても作者の感興が伝わって来ない。』

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  58. 秋立つや原稿用紙束厚し(無点)

    △『「秋立つ」と「束厚し」が響き合えず残念。』

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  59. くわえてくトースト焼いて遅刻する(無点)

    △『途中で男子生徒と女子生徒がぶつかって、パターンですね。』
    △『マンガだ。』

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  60. 遠花火まどろみのなか悪夢に入る(無点)

    △『できたら「悪夢」と直接言わずに「悪夢」が暗示できると良い句になりそうなのですが。』

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  61. 恐怖漫画の少女蝿捕蜘蛛まみれ(無点)

    △『楳図かずお、の世界。世代として皆知っていると思うが、ちょっとそのままかな。』
    △『「恐怖漫画の」と言ってしまって恐ろしさが半減。惜しい。』

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  62. 大亂の倭國に虹の羽化(無点)

    △『好きだが、何とも仰々し過ぎる。』

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  63. 蝉が鳴く根元で弟泣いている(無点)

    △『小学校唱歌の「あめあめふれふれ」を想起させた。裏設定があるのでしょうが、ちょっとありがちなセンチメンタルか。』

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  64. 夏空見上げて目が痛むだけ(無点)

    △『それはそうでしょう、としか……』

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  65. 人型に黴生えておりいつも留守(無点)

    △『はい、怖いです。いつから黴になったのか。』

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  66. 恐ろしいことに君がいない夏は来ぬ(無点)

    △『「恐ろしいことに」が説明になってしまい残念。「恐ろしい君がいない夏が来る」と積極的に誤読を誘うような句でもよし。』

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