2012年12月25日火曜日

今年一年を振り返る

 

 

鉄塊メンバーが、今年一年、2012年を振り返り、

自分自身が一年間に詠んだ句の中から自選5句と、

「鍛錬句会」の句の中から他選5句を選句して感想をのべる、

という、年末おおみそかにピッタリなイベントです。



(年末忙しく、原稿の執筆が間に合わなかった人の分は、年明けに改めて、原稿を収集し、掲載する予定です。)



松田畦道の場合


・自選5句
鴉の形した咳を闇へ放す
花の名を忘れた口へ匙を運ぶ
凌霄花を映した目で狂っている
家族はあなただけになりましたと真夜中にぽつり
かげもくろねこ

(選評)
■皆さんの評価はともかく自分なりに気に入っているもの、得点をたくさん頂けたもの両面から選んだ。
『鴉の形』は私が初めて参加した鉄塊句会に出した一句。酷評はされたが忘れ難い。
続く『花の名』は、初めての最高得点句。嬉しかった。
続く『凌霄花』は、出したときの自信と結果がまるで食い 違っていた一句。
『家族は』はVT句会より。私小説ならぬ『私俳句』を持ち味にしようと、腹を括って挑んだ。
『くろねこ』は句会ではなくブログ近 作より。猫を飼い始めたのは今年の私的重大ニュースだが、句会に猫の句を出すと私の作とすぐバレてしまうので、今のところ控えている。以上、こう して見ると花の句が多いことに改めて気づく。来年はもっと、素材の引き出しを増やしていきたいものだ。


・他選5句
この手のひらを選んでくれた雨粒(藤井雪兎)
俺の願いの落ちとる七夕(馬場古戸暢)
苦瓜をひとつ実らせる人生か(白川玄齋)
皆出て行った花火の音(天坂寝覚)
空蝉のくるぶしあたり(渋谷知宏)

(選評)
■得点と作者名をなるべく見ないようにして、まっさらな気持ちで選んだ。
雪兎さんの『この手のひら』。雨粒にしか選ばれない孤独。切ない。
古戸暢さんの『七夕』は、私のなかでは今年一番の句。方言の柔らかさ、なんともいえぬおかしみ。
玄齋さんの『苦瓜』はそれに続く良句。人生か、という詠 嘆に漂う余韻。
寝覚さんの『花火』は、映画『この空の花』の一場面を思い出させ、タイムリーな一句だった。映画と共に、忘れられない。
渋谷さんの 『空蝉』は、祖啓さんの珍解釈(第三回鍛錬句会報参照)との共作。意表をついた。以上、五句に絞るのはとても難しかった。来年も充実した句会でありますように。






馬場古戸暢の場合


・自選五句
今日からニートの女と歩く
夕餉のにおいの間を走る
深夜の道漕ぐ少年四人
俺の願いの落ちとる七夕
女も知らずに少年は逝く


・他選五句
うでをひろげてそらのまね
花の名を忘れた口へ匙を運ぶ
今度はツヤでくらべるどんぐり
それぞれのにおいのする金で払っている
みんな消えてしまえと叫ぶ声する市営住宅


諳んじることができた句を選んだ。自由律俳句もうたである以上、口誦性の高さは最重要な要素のひとつであろう。また、頭を回転させてようやく理解できる句よりも、一読して景が浮かぶ句の方が、共感性の高い句といえる。ここに挙げた他選五句は、これらの条件を満たした秀句だと考えている。







白川玄斎の場合


まず最初に皆さんに感謝申し上げます。七月下旬から今も入院していて、その間の編集にも携われない間の皆さんの種々の温かいフォローに感謝いたします。メンバーの皆さんは本音で意見を闘わせる一方で、そういう心配りのできる方々です。それで私も安心して投句や選句ができて、とても嬉しいです。来年は元気に頑張ります。

・自選5句
○苦瓜をひとつ実らせる人生か
●私自身は今回一番当たりかなと思う句です。夏から今も入院しており、その頃のグリーンカーテンに苦瓜を植えていて、実をいただいた患者さんがいるということを思い出していました。

○アンドロイドを夢見た少年は機械に命を握られており
●これは私の今の状況をSFチックに書いたものです。呼吸器を少しは外しても良いけれども付けていると楽ですからほぼ終日つけています。

○電話の先に本当にいるのか確かめたくなり
●電話の先で話しているのは人間なのかなと思うときがありました。

○この一瞬のために死んでもよいと言わなくなり
●論語にも道のために我が身を殺して云々とありますが、これも粉骨砕身努力するということであって、本当に死ぬわけではないのです。巷の「〜のために死ぬ」というのは素敵な生き方でもあるのですが、入院中に二回ほど死にかけた私には、本当はできないことを敢えて言って人の耳目を集めようとするようなことはできないと思いました。

○恥で済めば安いものだと六十八の父
●鉄塊に入った直後に詠んだものです。父とお酒を飲んでいるときの話が句を作るときによく思い出します。勉強だけでは決して出てこない言葉、これも私の課題のひとつです。


・他選5句
○今朝夢でころしたひとと笑う  天坂 寝覚
●初めてこの句を見たとき、「えっ?」と思いました。私は親しい人に殺される夢をよく見ます。翌日にその人と会ったときは数分間は表情に苦労していました。荘子の胡蝶の夢という言葉もありますが、夢と現実が混じり合うような感覚を覚えた句でした。

○みんな消えてしまえと叫ぶ声する市営住宅  松田 畦道
●今の時代を連想させる句です。叫ぶ人と声を聞いて怯える人との両方の気持ちが理解できます。みんなギリギリのところで生きていることを思います。

○女も知らずに少年は逝く  馬場 古戸暢
●以前読んだライトノベルに太守が自分の妻を殺した若い暗殺者に、吟遊詩人の恋の歌を聴かせるという復讐のエピソードを思い出しました。人としての楽しみを知らないことを後悔しながら処刑される、とても残酷な場面を思い出しました。

○何かしら言い訳しているイルミネーション  本間 鴨芹
●各地のイルミネーションが美しい眺めを見せながら、周りの暗黒を意識させない、そんな社会的状況の比喩、そんな風に思いました。

○それぞれのにおいのする金で払っている  藤井 雪兎
●マネーロンダリングの前の、マフィアたちが各種のシノギで稼いできた人の血のつまった金、とてもリアルなものを想像していました。

◎次回に向けて
私は来年に向けて二つの目標を立てました。
一つ目は、私の句へのコメントにあった、私の句が標語になってしまうという部分からの脱却です。句と標語との違いを、雪兎さんは「象徴の有無」と述べていました。ここで私は歌人の岡井隆さんが短歌の教本に書いていた、「感情をそのまま詠むのではなくて、その感情を言い表している物を使って表現する」という言葉を思い出しました。漢詩でも重要なポイントです。
二つ目は、自由律ならではの表現にしていくことです。少し手直ししたら短歌や俳句になるものはむしろそうすべきで、「この句を自由律にしたのは自由律でなければ表現できないからだ」と言えるほどのものを、これからの人生で追究できればと思います。では、よいお年を。






藤井雪兎の場合


【自選五句】
ハートの外側通って君の家に着いた
ちょっとだけ死をくすぐって君は美しい
二番目に好きなことなら教えた
野球捨てた筋肉が鉄を打っている
たっぷりと血のつまったぼくら笑いころげて


【他選五句】
あー死にたい。でも死ねないのは君のせいだよ(知宏)
恥で済めば安いものだと六十八の父(玄齋)
たった一つのめしを食う夜(寝覚)
今日からニートの女と歩く(古戸暢)
花の名を忘れた口へ匙を運ぶ(畦道)


【総評】
自選は鉄塊句会以外からでも可ということでしたので、
なるべく結社誌にしか載せていない句を選びました。
「鉄塊」に参加していたからこそ気付けた事がかなりありましたね。
これからも、従来の俳句では当たり前とされてきた常識をもう一度見直し、
そこからこぼれ落ちたものを拾い上げ、
定型俳句や短歌ともまた違った自由律俳句独自の世界を追求して行きたいと思います。
皆様、2013年もよろしくお願い致します。






中筋祖啓の場合


自選5句
・きっと今そうなんだろうツバメ飛ぶ
・趣味 すばやさ
・溶けたのか世界が雲へ消えてゆく
・日常生活流忍者
・ミミズのどうしようも無い真剣さ


※選評
今年の一年を振り返り、印象強かった5句です。
特に一番印象強いのが、「趣味 すばやさ」です。この、たった一句をめぐって、数々の疑問、議論、ハプニングやアクシデントが次々と起きましたので、まさに祈念すべき一句でした。
また、一番最近詠めました「日常生活流忍者」という、へんてこな感性が、来年、一体どのように成長していくのか、楽しみにして、新たな年を迎えたいと思います。よろしくお願いいたします。

他選5句
・おねがい。もうちょっとしがみつかせて   渋谷
・苦瓜をひとつ実らせる人生か        玄斎
・それぞれのにおいのする金で払っている   雪兎
・若気の至りの上限にいる          馬場
・桃そっと置かれたまま腐っとる       矢野


※選評
なんといっても、渋谷さんの「しがみつかせて」が優勝です。
完全に私の個人的な趣味ですが、この句はぜひともスカウトしたいです!
また、玄斎さんの「苦瓜」は、鍛錬句会の句を、内容的に眺めた場合、これが、今年で一番良かった、と思いました。うーん、苦瓜をひとつ実らせる人生か・・・・、と、中毒性のある句です。
ほかの三句も、それぞれ魅力的です。
上の二句が横綱だとすると、次席の三句は、大関くらいの存在でした。
選句によって、その人の趣味が反映される、という事が浮き彫りになるので、面白い結果となったと思います。





 

本間鴨芹の場合


自選五句
何かしら言い訳しているイルミネーション
ソフトクリームと書かれ寒風の幟
枯葉集まるここが新居です
枯葉頭に乗せて徐行してください
正露丸一粒国後島を望む

他選五句
うでをひろげてそらのまね 藤井雪兎
俺の願いの落ちとる七夕 馬場古戸暢
急いでなにか建ててるそこはかつて工場だった 松田畦道
空が青い風邪をひいたことにしよう 天坂寝覚
どっかの犬が吠え続ける夜を帰る 矢野風狂子

 自選は鉄塊以外からも可ということでしたが、敢えて鉄塊関連の句から選びました。とはいえ11月入会の僕には現時点では11月句会とVT句会に出した8句(うち定型2句)しかないので、ここにあるのがほぼすべてということになります。多分来年もこの企画はあると思うので、その時自分がどれくらい成長しているのか、その比較基準としての5句とします。
自由律という世界で自分が何をしたいのか、まだ手探りの状態です。その中の道しるべになってくれそうな5句を他選として選ばさせていただきました。





 

渋谷知宏の場合


自選五句
春の雨の軒下の知らない猫と居る
躑躅の甘い匂いがして学生はまだ知らないらしい
あー死にたい。でも死ねないのは君のせいだよ
お願い。もうちょっとしかみつかせて
秋刀魚の目の丸さ瞬きもせず


記憶
今年は激動の一年でした。
それを象徴するかのように見事に夏頃から句が変わっていきました。
でもこうしてみると面白い句が出たなとも思います。
秋刀魚の句のみVT句会であとは鉄塊に投句した句です。


他選五句
桃そっと置かれたまま腐っとる 錆助

空んなった手をまだなめる犬の舌あったかい 寝覚

彼方からパンツと告げし乙女二人 祖啓

たっぷりと血のつまった僕ら笑いころげて 雪兎

寒空そびえる生足 古戸暢


記憶
第一回よりも二回、二回よりも三回と皆の句が変わって行くのが、ほんとよくわかって楽しかったし、刺激を受けました。
ここにあげた句に限らず印象に残る句が多かった。
今後も良い刺激を受けて、僕も成長させていただきたい。
2013年もよろしくお願いします。





 

天坂寝覚の場合


自選五句
題名知らない歌を覚えた母が好きで
てんごくの話するふたりで海に行く
ここに死があったという花が汚い
傘借りてまだ居る 
夏の色の舌出して拗ねてる

他選五句
靴擦れを隠して輪に入った 藤井雪兎
たっぷりと血のつまったぼくら笑いころげて 藤井雪兎
彼方からパンツと告げし乙女二人 中筋祖啓
花の名を忘れた口へ匙を運ぶ 松田畦道
桃そっと置かれたまま腐っとる 矢野風狂子

  自選は鉄塊に投句したものでなくてもいいということなので、twitterに投稿したものから。他選は過去の鍛錬句会で選に取ったものから、今好きな句を。鍛錬句会や研鑽句会等を通して色々な句を知り、ようやく自分なりの句とかスタイルとかを模索する時期に入ったのが2012年だったのかな、と思う。そういうものが確立されるのはまだまだ先のことだろうけれど、ともあれ2013年もよろしくお願い致します。

2 件のコメント:

  1. 渋谷さんの記事も、追加掲載されました!

    どうぞ、ご覧ください。

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  2. 祖啓さん、どうもありがとうございました。
    興味深く読ませていただきました。
    とてもいい企画だったと思います。
    一年後が楽しみです。

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