2014年5月28日水曜日

第二十四回 研鑽句会


(最高得点句)

俺はここに居てはいけない海風(5点)




(5点)俺はここに居てはいけない海風◎◎○△
(3点)寒い手に寒い手がぬくい◎○△
(2点)雨を来て来ただけ◎○●(コンプリート句)
(2点)うそつきになって会いに行く秋雨◎△△△
(2点)傘借りてまだ居る○○△
(2点)眠れない口からものがたりこぼれた○○△△
(1点)なんにも無い鳩をからかう○△△
(1点)さくら咲いた道に出て仕事のことなど○△
(1点)まっすぐに帰らない満月○△△
(1点)家の焼けあとは畑になり胡瓜がとれた○△△
(1点)よく燃えそうな家の誰か出てきた○△
(1点)春が立ち上がる道の黒く○△
(1点)朝日顔ざっと洗う○△
(-1点)やわらかいところばかり触れ合ってさびしいふたりで○●●△
(-1点)俺の老後なんか気にして母は老いてる●△△
(無点)雨のあと光る道へ出た△△△
(無点)誰も物言わず影から出てくる△△
(無点)昨日がまだ枕に残っていた△△△△
(無点)だまって恐ろしくなり蝋燭のまわり△
(無点)あおい夜の夜へ行く電車△
(無点)闇へ戸を開ける△△
(無点)あかり消えた海がわらえてくる△△
(無点)犬の舌が長い日陰に入る△△
(無点)きょうだいげんかの兄弟で泣いている割れ窓△
(無点)皆が出て行った花火の音△△△
(無点)遠く来てわがままを言わなくなってしまった子と日暮れ△
(無点)忘れた声が聞こえたら春△
(無点)猫が出て行った影に入る△△
(無点)夕空迎えに来た姉の手ほそい手△
(無点)まだ帰らない人もいる海の風のするどさ△△


(以上、30句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆作者紹介

【天坂寝覚】(1985~)

 天坂寝覚として自由律俳句、雨鼠として短歌を創作している。
 雨鼠(うそ→amenez)は寝覚(しんかく→nezame)の読みを変えたアナグラムである。
 ツイッターを中心に活動する若手表現者の間ではカリスマ的な存在である。
 私(働猫)にとっても、最も注目し、かつ刺激を受けている才能である。

 今回の句群は、以前見せていただいた100句のうちから、
 私(働猫)が特選あるいは並選でとるであろう30句を選んだ。
 そのため、今回自分では逆選を選ぶことができなかった。


30 件のコメント:

  1. (5点)俺はここに居てはいけない海風◎◎○△

    ◎決断を思わす句。虚子の例の句を思い起こしましたが、こっちの方が強い気がします。「俺」句だからでしょうか。(洋三)
    ◎これ大好き。初めてみたのはさ行で、だっけかな。この居心地の悪さ、馴染めなさ、孤独の表現がたまらないですね。そう、異邦人感とでもいうべき居心地の悪さ、これをいうためにわたしは文学をやってるのかもしれない、子供の頃から。憧れを覚える句。ほんと大好きです。(玉虫)
    ○中二的という言葉で片付けてしまえばそれまでですが、自分もこんな風に素直に思えていたら、もっと違った人生があったのかなと思う時がある。(りんこ)
    △「いてはいけない感」である。「置いてけぼり感」の先に生まれた寝覚のもう一つの自己規定だろう。(働猫)

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  2. (3点)寒い手に寒い手がぬくい◎○△

    ◎類句はあろうが、佳い。(古戸暢)
    ○ロマンティックな句。素敵。(洋三)
    △満たされない者同士がよりそってあたたまっている。こうした瞬間を作者は本当に幸せだと感じているのだが、読む人にとっては「悲しみ」なんかを読み取って憐憫の情を抱こうとする。馬鹿げた話だと思う。(働猫)

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  3. (2点)雨を来て来ただけ◎○●(コンプリート句)

    ◎この句群の中でもっとも好きな句である。一目会うために来た。雨を冒して。目的はそれで達成されていた。あとは言葉も行動もいらないのである。魂で結びついている相手というのはそういうものだ。(働猫)
    ○若々しさを感じる。(古戸暢)
    ●いまひとつピンとこない句。ここは逆選でいただきます。(洋三)

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  4. (2点)うそつきになって会いに行く秋雨◎△△△

    ◎相手を思っての優しさでつくうそなのか、うそをつかないと会えない自分なのか。晴れていたらうそがばれて会いに行くことは出来ない人なのだろうか。単語の組み合わせもとても好きです。(りんこ)
    △雰囲気がとてもいい。こういう句は句意が図れなくてもいいと思います。(洋三)
    △そだね。理由なんてあとから何とでも言えばいいよね。会いたいときは何しても会いに行くべきだね。にっこり。(玉虫)
    △情景が目に浮かぶ。「もう会わない」という約束を破るのだろうか。雨はその後ろめたさや不安を洗い流してくれるのだろうか。(働猫)

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  5. (2点)傘借りてまだ居る○○△

    ○面白い句。帰りづらくなっている様子を想像したがどうでしょう。解釈が別れるところ。(洋三)
    ○弾まなかった会話。去り際にそのまま帰しては悪いような気がして、つい一言声をかける。それが何故か話弾んで。そんな一幕が見える。居てほしかったのか、帰ってほしかったのか。読む者の経験から読みが変わる点も面白い。(働猫)
    △雨が止むまでいるんじゃないだろうか。(りんこ)

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  6. (2点)眠れない口からものがたりこぼれた○○△△

    ○連れ合いの口からこぼれたものがたりだったと思う。(古戸暢)
    ○眠れない夜は失うものしかないと思っていた。眠れない夜は辛いだけではないと信じたくなる。(りんこ)
    △「そういえば。俺、昔さ」みたいな感じでしょうか。雰囲気が良いです。(洋三)
    △一人ではない状況。新しい寝覚。眠れない夜だからこそ言葉が生まれる。そして言葉は自身の経験や思想を物語として整理していく。そうした夜を潜り抜けて人は成長を実感するものなのだろう。(働猫)

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  7. (1点)なんにも無い鳩をからかう○△△

    ○いいですね。なんにもない、ってのは勿論詠み人のことを言ってるんだろうけど、鳩の方もである、と考えると、なんかぐらりと揺れるような気がしませんか。鳩。あいつら不思議ですよね。鳩と金魚は不思議だ。この、足元に危険な大穴が空いているような不安感がいい。詠み人はやっぱ天才と思う。(玉虫)
    △鳩をからかっているようで、想像してみるとその姿は少し滑稽にも思える。(りんこ)
    △互いになんにもない感じがよく出ている。実際には鳩には家族や子供があり、充実した生活があり、生きている実感があるのだ。なんにも無いのは作者の方である、というところまで読む人が気づけるかどうか。それで評価は変わるだろう。(働猫)

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  8. (1点)さくら咲いた道に出て仕事のことなど○△

    ○無事に仕事が決まった話をしていたのだと読みたい。(古戸暢)
    △世の人はそれほど風流を解さないものだ。そういった寂しさを創作者は時折感じるものだ。(働猫)

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  9. (1点)まっすぐに帰らない満月○△△

    ○大変いいです。満月を詠んだ句はそれこそ無数にあるけれどこれは素敵。どこに行くあてがあるわけでもないけれど、月が綺麗すぎて帰りたくない。この句も不思議とひとりぼっちのような気がする。月と俺しかいない深夜。実に美しい光景です。(玉虫)
    △満月の夜の高揚感でしょうか。それとも単に満月を眺めてから帰るということでしょうか。これも解釈が別れるところでしょう。(洋三)
    △いい光景。こんなよい月をひとりで見て寝ないために、寄り道をして帰ろう。(働猫)

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  10. (1点)家の焼けあとは畑になり胡瓜がとれた○△△

    ○無常感でしょうか。良いです。(洋三)
    △わたしが大好きな「人が住んでたところに誰もいなくなる」シチュエーションで、好きな句。これは空家どころか家の痕跡すらなくなっちゃったか。でも胡瓜とれたんならよかった。この土地は生きている。(玉虫)
    △諸行無常。力強さもある。「焼けあとは」の「は」がリズムを殺しているが助詞の意味を生かすために採用しているのだろう。「畑になって」とする方法もあるか。(働猫)

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  11. (1点)よく燃えそうな家の誰か出てきた○△

    ○ちょっと意地悪な視線が面白い。きっとゴミ屋敷なんだろうと思います。ゴミ屋敷って怖いもの見たさでじぃっと見ちゃいますよね。で、見てたら家人が出てきた。ヤベッと目を逸らす。そんな瞬間を見事に切り取っていると思います。(玉虫)
    △邪悪さもあり、ユーモアもあり。空き家かと思えるほど粗末な家なのだろう。自身が貧しさを知らなければこういう句は詠めないだろう。(働猫)

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  12. (1点)春が立ち上がる道の黒く○△

    ○道はアスファルトだろうか、土だろうか。いずれにせよ、「黒」が力強い春の息吹を感じさせる。北国に暮らす者としては、雪が解けて道が表れてきた景として実感できる。(働猫)

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  13. (1点)朝日顔ざっと洗う○△

    ○前向きさがある。ポジティブに生きるということはこういうことだ。そんな鼻息の荒さが見えるようだ。(働猫)
    △ざっと洗って仕事にいくのだろうか。(りんこ)

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  14. (-1点)やわらかいところばかり触れ合ってさびしいふたりで○●●△

    ○さびしい二人が触れ合っていてもいてもさびしいままなのだろうか。やわらかいところを触れ合えばなんとかその場は乗り越えてしまえそうで逆に悲しい。(りんこ)
    ●好みの景だが、冗長に過ぎるか。(古戸暢)
    ●なんかちょっとありがちで感心出来ない。オレはかたいところに触れたいもんだけどね。(玉虫)
    △身体なのか心なのか、核心には触れられない。触れれば何かが壊れてしまう。それがわかっている寂しさがよく表現されている。ふたりでいながらどちらも孤独なままなのだ。(働猫)

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  15. (-1点)俺の老後なんか気にして母は老いてる●△△

    ●母も自分も老いていく。母親は生きている限りどうやっても心配するし、老いていく生き物であるとは思うが「なんか」とか言ってないで心配させないようには出来ないだろうか。できないな。自分にも当てはまるので苦しくなる。(りんこ)
    △カーチャン(´;ω;`) 母ちゃんを思うときのかなしさでいっぱいになる句だね。(玉虫)
    △ここに表れている感覚も「いてはいけない感」といえるだろう。今のままではいけない。動き始めたからこそ得られた気づきだ。(働猫)

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  16. (無点)雨のあと光る道へ出た△△△

    △「光る道」がいいです。雨上がりの爽快感を感じました。(洋三)
    △いいですね。大好き。雨上がりの濡れた歩道に日が当たっている。もしくは、歌舞伎町みたいなところの夜で、極彩色のネオンを反射してきらめいているのか。いずれにせよ雨はあがり、希望のようなものを感じさせますね。この短さも好き。非常に完成度の高い句です。(玉虫)
    △きれいな景である。雨上がりの道路に残った水たまりが乱反射しているのだろう。希望を感じさせる。(働猫)

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  17. (無点)誰も物言わず影から出てくる△△

    △いつも傍観者でいるような句が気になってしまう。(りんこ)
    △集団の中で誰もが抱える孤独をよく表している。(働猫)

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  18. (無点)昨日がまだ枕に残っていた△△△△

    △朝目覚めても昨日の出来事を思い返してしまう。大体は悪いことだったりするから困りものです。(洋三)
    △ああ~分かるな。昨夜恋人が来て、匂いが残っていると捉えてもいいけど、これは自分の匂いがしている、ひとりぼっちだ、と捉える方がぐっときますね。昨日は鬱々としながら眠りについた感じ。起きても、昨日の鬱な気分が残っている。自分の体臭がしつこく絡んできて、起きることが出来ない。もう少し寝てしまおうか。そんな光景ととりました。(玉虫)
    △今日はもう始まっているのに昨日が残ったままになっている。なかなか前に進むのが難しそうだ。(りんこ)
    △残り香であろう。シャンプーの匂いだろうか。また逢いたいと思えるかどうか、匂いによって左右される部分は大きいように思う。(働猫)

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  19. (無点)だまって恐ろしくなり蝋燭のまわり△

    △震災句であろうか。小さくとも火は、人の心を温めてくれるものなのであろう。(働猫)

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  20. (無点)あおい夜の夜へ行く電車△

    △こんなのも作っていたのか。という印象。夕方から夜にかけての時間か。あおいのは作者自身の未成熟さ、あるいはその頃の思い出か。(働猫)

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  21. (無点)闇へ戸を開ける△△

    △夜、これから出掛けるのか、それとも帰ってきたところなのか。独り暮らしの部屋に帰ってきたところを想像しました。(洋三)
    △なぜ開けた。だれか来てくれるかもしれないという期待か。それとも出ていこうとしているのか。「闇」である。期待もできない。前途としても不安があり過ぎる。ただ、闇が太陽よりもやさしく感じることもある。時には闇に甘えてみるのもよいかもしれない。(働猫)

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  22. (無点)あかり消えた海がわらえてくる△△

    △夜の海は怖いが惹かれる。わらえてくるのは誰なんだろう。海かな。自分だったらすごい。(りんこ)
    △暗い海は恐ろしいものだ。恐怖と笑いとは紙一重とよく言うが、一線を越えてしまってかえって「わらえてくる」ということなのか。これも震災句であろうか。(働猫)

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  23. (無点)犬の舌が長い日陰に入る△△

    △いいですね。真夏の真昼って感じがします。よそんちの犬がはあはあしている。それを見て、今日ほんと暑いよなと思いながら日陰に入る。その時の温度差までが生々しく伝わってきます。非常に完成度の高い句と思います。(玉虫)
    △夏の暑さをうまく表現した。「犬の舌」はよく見つけたな、と思う。痩せた野良犬を思ったが、近年、野良犬というものは存在しなくなってしまった。幼い日の夏休みを思い出した。キン消しを集めていた。(働猫)

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  24. (無点)きょうだいげんかの兄弟で泣いている割れ窓△

    △割れた窓から聞こえてくる声を聞いているのか。微笑ましいというには「割れ窓」はあまりに凄惨。今割れたのなら兄弟喧嘩もひどい部類だし、窓を入れられない貧しさであれば兄弟の境遇が気にかかる。こうした不幸を切り取る視点は、自身の中にそうした不幸がなければ持ち得ぬものだろう。(働猫)

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  25. (無点)皆が出て行った花火の音△△△

    △風邪などで自分だけ留守番している様子を想像しました。寝床で聞く花火の音。(洋三)
    △みんな浮かれて出かけて行った花火大会の日。詠み人は人混みが苦手だったりして留守番をしているのでしょう。そして遠くの花火の音が響いてくる。ちょっとだけさみしい。でもいいもんねと思う。こういうことをよくこれだけ短く表現出来たよなと感心しきり。好きな句です。(玉虫)
    △寝覚句のこういった「おいてけぼり感」はやはりぐっとくる。本人が意識せずに出している場合に限るが。(働猫)

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  26. (無点)遠く来てわがままを言わなくなってしまった子と日暮れ△

    △「子」は自分だろうか、それとも小さな客体としての子がいるのだろうか。いずれにせよ、すべては変わってしまう。大きな事件があればもちろん大きく変わる。震災句としても読めるし、一般的・普遍的な情景としても読める。(働猫)

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  27. (無点)忘れた声が聞こえたら春△

    △「声」はだれのものだろう。人間だろうか、あるいは鳥だろうか。いずれにせよ、長かった冬の苦しみに終わりを告げる声は喜びに満ち溢れているだろう。作者の「声」への愛情も感じられる。春と嘯く蟲の仕業かもしれないから、その点は注意が必要だ。(働猫)

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  28. (無点)猫が出て行った影に入る△△

    △車庫を想像しました。表現の妙です。(洋三)
    △猫にすら遠慮している様子。卑屈でよい。(働猫)

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  29. (無点)夕空迎えに来た姉の手ほそい手△

    △迎えに来てくれる人がいるからこそ、そうでないときの「置いてけぼり感」を強く感じてしまうのだろう。(働猫)

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  30. (無点)まだ帰らない人もいる海の風のするどさ△△

    △冷たい海の風が恋しい。(りんこ)
    △震災句として読んでも、海に家族を奪われたもっと一般的な景として読んでも成立する。震災句にせよ、戦争句にせよ、その背景を抜きにしても成立しなければならないと自分は感じている。「百縛百句」という企画をしてみたが、縛りが無くても成立する句でないと大喜利になってしまうと自分は考えている。その辺りが季語ありきの俳句に自分が違和感を覚える理由かもしれない。(働猫)

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