2014年12月4日木曜日

第二十九回 研鑽句会

◇最高得点
なにもかも月もひん曲がってけつかる  一石路

◇コンプリート句
場末で夕日となってころがっていた  一石路

◇互選集計
(4点)  なにもかも月もひん曲がってけつかる  ◎◎△
(3点)  場末で夕日となってころがっていた  ◎○○●  (コンプリート句)
(3点)   二階から足がおりてくる寒い顔になる  ◎○△△
(2点)  寒夜わが酔えば生るる金の虹  ◎△
(2点)  シャツ雑草にぶっかけておく  ○○△△
(2点)  ガード下から春があかるすぎる靴みがき  ○○△△
(1点)  仕事失うている梅雨の二階をおりる  ○△△△
(1点)  たたかいはおわりぬしんと夏の山  ○△△△
(1点)  星空の下の人の世のここに泣く男  ○△△
(1点)  ガード下の寒いビラばかりの中のそのビラ  ○△△
(1点)  ロシア映画みてきて冬のにんじん太し  ○△
(1点)  夜雪よごれ孤児ほおたいを巻きかえす  ○
(0点)  ジャズ現つ紙屑を燃す霜の上  ○●△
(-1点) 故郷を出て十年こんなにも空が青い蜻蛉がふかい  ●△△
(-1点)  「人生は花ですよ奥さん」と花屋売りにくる  ○●●△△
(無点)  人間が爆発しそうな出勤電車でちらとさくら  △△△
(無点)  雨の冬帽置くその人をかこむ夜なり  △△
(無点)  クレーン仰ぐみな年つまる男たち  △△
(無点)  せめて漬菜にふる塩を買いにでてきた  △△
(無点)  夜勤明けの男陸橋越すとき汽笛  △△
(無点)  ボンベより顔長い馬工区曇る  △△
(無点)  どしゃ降る夜の白バラたたかいの目を継ぐ  △△
(無点)  青年海猫へパン投ぐ雪がつどうデッキ  △△
(無点)  雪を見る頭上鉄橋の太き鋲  △△
(無点)  これだけの銭で一と月はたらいて落葉した  △
(無点)  孤児たちに映画来る日や燕の天  △
(無点)  妻病むや夜寒の子らと塩買いに  △
(無点)  ここ草原から都会の憂鬱が見えている気球 △
(無点)  朝寒ドックに太い錨鎖がくっきり白  △
(無点)  ネオンと俺との空間が鳴り十二月  △

以上、30句。

※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点、コメントのみ(△)無点として集計。


◇作者発表

【栗林一石路】
星空の下の人の世のここに泣く男
二階から足がおりてくる寒い顔になる
シャツ雑草にぶっかけておく
場末で夕日となってころがっていた
仕事失うている梅雨の二階をおりる
なにもかも月もひん曲がってけつかる
これだけの銭で一と月はたらいて落葉した
ガード下の寒いビラばかりの中のそのビラ
せめて漬菜にふる塩を買いにでてきた
故郷を出て十年こんなにも空が青い蜻蛉がふかい
ここ草原から都会の憂鬱が見えている気球
たたかいはおわりぬしんと夏の山
人間が爆発しそうな出勤電車でちらとさくら
 「人生は花ですよ奥さん」と花屋売りにくる
花屋の卑しい笑いが目に浮かぶようだ。

【古沢太穂】
ジャズ現つ紙屑を燃す霜の上
ロシア映画みてきて冬のにんじん太し
雨の冬帽置くその人をかこむ夜なり
雪を見る頭上鉄橋の太き鋲
夜雪よごれ孤児ほおたいを巻きかえす
寒夜わが酔えば生るる金の虹
孤児たちに映画来る日や燕の天
クレーン仰ぐみな年つまる男たち
妻病むや夜寒の子らと塩買いに
夜勤明けの男陸橋越すとき汽笛
朝寒ドックに太い錨鎖がくっきり白
ボンベより顔長い馬工区曇る
どしゃ降る夜の白バラたたかいの目を継ぐ
青年海猫へパン投ぐ雪がつどうデッキ
ガード下から春があかるすぎる靴みがき
ネオンと俺との空間が鳴り十二月

30 件のコメント:

  1. なにもかも月もひん曲がってけつかる  (4点)

    ◎実は震災句とのことだが、それを知る前でも、悲鳴のようなものを感じていた。非常に印象的な句。(洋三)
    ◎これがいちばんいいでけつかる。(働猫)
    △もう理屈抜きに「ひん曲がってけつかる」が大好き。句意はよく分かんないけど、世界がひん曲がってやがるって思ってるんでしょう。或はただ酔っ払っているのか。いずれにせよ自分の方がひん曲がってるってことのパラドックスなのでしょうね。面白いし大変好みです。(玉虫)

    返信削除
  2. 場末で夕日となってころがっていた  (3点)

    ◎大変いいです。今回の研鑽句会は好きな句ばかりでしたがこちらがいちばん好きです。やけくそ、投げやり、の果ての開き直りで、いっそ気持ちいいくらいです。夕暮れ時に場末でクソーと寝っ転がったということなんだろうけど、「夕日となって」という語が不思議で、このやけくその人そのものが太陽でもあるみたいな面白い効果を出していると思います。場末だしやけくそなのに、王でもあるみたいな。ちょっとねじくれた唯我独尊て感じがして大変好みです。リズムもいいと思います。過去形なのでいまは立ち直ったのかもしれないと思わせるところにも救いがある。なかなかズルいですね。(玉虫)
    ○ 情景がドラマティックな句だと思う。夕日が沈んで暗くなるように、場末でころがる姿は更なる転落を暗示させる。(由紀)
    ○世界が夕日に染まり彼我の区別もなくなる感じ。「ころがっていた」という客観的表現は、おそらく路上で眠りこけ夕方ようやく目覚めた自分を発見したということだろう。どれだけ飲んだのだろう。牧歌的でもある。(働猫)
    ●付き過ぎなくらいダウン系な言葉が並んでいる。それだけに非常に印象的な句。ここは逆選でいただくとしたい。(洋三)

    返信削除
  3. 二階から足がおりてくる寒い顔になる  (3点)

    ◎ 「足がおりてくる」が効果的。足が浮かび上がることでほかの部分が暗く感じ、寒々しさや怖さをもたらしている。寒い顔なのは降りてくる人なのか、降りてくる人を見ている人か迷うが、いずれにしても両者に緊迫感があると思う。(由紀)
    ○いいですね。まさに自由律俳句って感じがする。最初に足が見えて、うーさぶさぶと家人が現れたのですね。こういう一瞬を切り取るのが俳句の面白さだなと思うのです。日々のスナップショットのようです。俳句は日記じゃねんだよみたいな意見も世間ではあるみたいですが、わたしたちの生そのものがアートですから、日記でもいいのです。日記上等じゃと常々思っております。わたしもこういうものをたくさんたくさん詠んでおきたい。(玉虫)
    △「足」から「顔」への視線の移動が効果的。(洋三)
    △なんだか色っぽい。(働猫)

    返信削除
  4. 寒夜わが酔えば生るる金の虹  (2点)

    ◎現代では逮捕されかねない。(古戸暢)
    △妄想、幻覚だろうか。(働猫)

    返信削除
  5. シャツ雑草にぶっかけておく  (2点)
    ○肉体労働の休憩時間をイメージした。「ぶっかけておく」。堪らなくカッコいい。
    ○ 「ぶっかけておく」の荒い言い回しが、無造作な様子をきれいに出している。「シャツ雑草に」と、助詞を挟まずに一気に行く様子もテンポが良い。雑草も人間もエネルギッシュに感じられる。(由紀)
    △好き。もう「ぶっかけ」がいいですね。乱暴に草の上に脱ぎ捨てたのでしょう。こういう語がたまらなく好きなんだな。(玉虫)
    △アダルトビデオ文化の発展の過程で「ぶっかけ」はいやらしい言葉になってしまいましたね。(働猫)

    返信削除
  6. ガード下から春があかるすぎる靴みがき  (2点)
    ○復興期の雰囲気。(古戸暢)
    ○ 靴がぴかぴかになる喜びと春の明るさが呼応していると思う。ガード下の薄暗いところから明るい場所に出ていくのも、春らしい。(由紀)
    △希望を感じる。(洋三)
    △「あかるすぎる」のは「春」か「靴みがき」か。それによって「靴みがき」(これは少年であろう)の様子が変わる。「春があかるすぎる」のであれば、少年の生活の暗さが際立つ。(働猫)

    返信削除
  7. 仕事失うている梅雨の二階をおりる  (1点)
    ○よいです。(古戸暢)
    △語のリズム、動作の推移、短い物語の展開が自由律俳句のお手本って感じで好きです。しんと絶望している雰囲気もグッド。放哉以来の伝統が真っ直ぐ表現されていますね。(玉虫)
    △ 梅雨のじめじめした様子や曇った様子は心情を投影しているのだろうか。やることがなく、気持ちもすぐれない印象。(由紀)
    △どこへ移動しても状況は変わらないのだが。(働猫)

    返信削除
  8. たたかいはおわりぬしんと夏の山  (1点)
    ○国破れて山河あり。(古戸暢)
    △恐らくは玉音放送を聞いている景ではないだろうか。異様なばかりの静けさの余韻を感じる。(洋三)
    △ 夏の山の深い緑が、たたかいの熱気も吸い取ってしまっているように感じられる。「山眠る」とは、また違う静けさが句にはあると思う。(由紀)
    △兵どもが夢のあと、ですか。(働猫)

    返信削除
  9. 星空の下の人の世のここに泣く男  (1点)
    ○マクロからミクロへの視点の移動か。物語の冒頭にも見える。(働猫)
    △いいですね。もう一句並選がとれるとしたらこちらとります。わたしの好みでいえば、ベクトルは、泣く男→人の世→星空すなわち宇宙、って感じで、最終的に宇宙を感じさせる方がぐっとくるんですが、広い広い宇宙そしてこの星この国にひとりの泣く男、ってことでもいいといえばいいような気がする。ちなみに海紅では宇宙→人のベクトルがよしとされてるんだっけかな。そんなふうに注意されたことがあったなと思い出しました。(玉虫)
    △ 「の」の繰り返しが良い。畳み掛けられることで、句の中にどんどん浸っていく。男が舞台の中心に立っているように見え、「泣く」もいい意味で芝居がかった印象を受ける。(由紀)

    返信削除
  10. ガード下の寒いビラばかりの中のそのビラ  (1点)
    ○ちょっとくどいかなとも思うんですが、妙に気になる句。汚いガード下にビラがガーッと貼ってあって、ほとんどはくだらないものなんだけど、そこからひどく気になる一枚を見つけ出したのでしょう。こういう邂逅は宝物のようです。羨ましい。(玉虫)
    △ビラの内容は分からないが、殺伐とした印象を受ける。(洋三)
    △「ビラ」の内容は時代によって変化するものだろう。戦意高揚のものか、エロチラシか。たまたまそのうちの一枚を手にとって見入っている。そこからどんな感情を読み取るか。時代によって解釈が揺れる。(働猫)

    返信削除
  11. ロシア映画みてきて冬のにんじん太し  (1点)
    ○取り合わせが素晴らしい。(洋三)
    △ロシアのにんじんは細いのかな。どうして太さに気づいたのだろう。関係ないのかな。(働猫)

    返信削除
  12. 夜雪よごれ孤児ほおたいを巻きかえす  (1点)
    ○戦災孤児だろうか。かなしい景色だ。(働猫)

    返信削除
  13. ジャズ現つ紙屑を燃す霜の上  (1点)
    ○カッコいい。ハードボイルドな印象。(洋三)
    ●好きなんですよ。好きなので、あえて可能性を信じて逆選に。景もいい、言いたいことも分かる。けどちょっと気障すぎるかな。気障っぽいことはもっと気障と思わせぬように混ぜ込んだ方が生きてくると思うのです。自分ならどうするか、鉄塊衆の皆さんと語り合ってみたい句です。(玉虫)
    △「現つ」ってなんだ。(働猫)

    返信削除
  14. 故郷を出て十年こんなにも空が青い蜻蛉がふかい  (-1点)
    ● 心情とはいえ「こんなにも」が仰々しい。「故郷を出て十年」が設定を述べているように見えることも気になる。(由紀)
    △ちょっとくどいけど、言わずにいられず溢れ出た感じがいいですね。青い空にトンボがすぅっと吸い込まれていく様が目の前にバァッと広がりました。望郷の念ももちろんありましょうが、これは故郷を出てきたことに対してほっとしているように思える。胸に迫るものがある句です。(玉虫)
    △「蜻蛉がふかい」とはどういうことだろう。色(茜色?)だというのでは解釈が浅い気もする。(働猫)

    返信削除
  15. 「人生は花ですよ奥さん」と花屋売りにくる  (-1点)
    ○いいですね。とてもいいことを言っているのにゲスい。ゲスい花屋の顔が浮かんでくるようです。きっとこの花屋はあわよくば人妻を口説こうみたいな気持ちもある気がする。花屋がゲスいってのが大変面白いです。(玉虫)
    ●よくわからない。(古戸暢)
    ●これはいやらしい話ですか。(働猫)
    △花屋の卑しい笑いが目に浮かぶようだ。(洋三)
    △ 意図はつかめないけれど惹かれる。果たしてこのようなことを花屋が口にするのだろうか。科白や花の美しさが相まって、夢の中にいるような印象を受ける。(由紀)

    返信削除
  16. 人間が爆発しそうな出勤電車でちらとさくら  (無点)
    △救いを感じた。(洋三)
    △ 人間の過剰さ・スーツの色の濃さと、さくらの淡い色合いとの対比が良い。さくらのひらがな表記が、よりまぶしく、より淡い。ぎゅうぎゅう詰めの車内で、さくらは報われない救いのように感じられる。(由紀)
    △満員電車の窓からちらっと見えた春の情景か。つらい労働の中で美しいものを探してしまう。共感できます。(働猫)

    返信削除
  17. 雨の冬帽置くその人をかこむ夜なり  (無点)
    △恐らくは深刻な話し合いが為されたのであろう。(洋三)
    △なんだか暖かい夜を思いました。(働猫)

    返信削除
  18. クレーン仰ぐみな年つまる男たち  (無点)
    △ クレーンは救済の象徴か、それとも自分たちではどうしようもない理不尽なことの象徴か。実景に、緊張感が含まれている印象。(由紀)
    △肉体労働。ワーキングソングですね。(働猫)

    返信削除
  19. せめて漬菜にふる塩を買いにでてきた  (無点)
    △さみしいお話ですが、語のリズムが好き。でてきたまでタンタンタンと進む感じがいい。このリズムをわたしは自分に焼き付けたいんだな。(玉虫)
    △「せめて」が悲しい。(働猫)

    返信削除
  20. 夜勤明けの男陸橋越すとき汽笛  (無点)
    △瞬間の切り取り。眠たい体にさぞ刺激となったことだろう。(洋三)
    △これも好きな景である。疲弊した身体に響いてくる汽笛。さびしい。(働猫)

    返信削除
  21. ボンベより顔長い馬工区曇る  (無点)
    △何やらユニークな句。(洋三)
    △故圓楽師匠を思い出しました。(働猫)

    返信削除
  22. どしゃ降る夜の白バラたたかいの目を継ぐ  (無点)
    △「栗林一石路逝く」との前書きあり。「白」が印象的。
    △なんのことかわからないがタキシード仮面様。(働猫)

    返信削除
  23. 青年海猫へパン投ぐ雪がつどうデッキ  (無点)
    △「雪」は「海猫」の比喩としても機能しているのであろう。視界一面が白で覆われるのだ。(洋三)
    △フェリーですね。(働猫)

    返信削除
  24.  雪を見る頭上鉄橋の太き鋲  (無点)
    △「鉄橋の太き鋲」が寒さを尚掻き立てる。(洋三)
    △視点の移動がおもしろい。(働猫)

    返信削除
  25. これだけの銭で一と月はたらいて落葉した  (無点)
    △身につまされる。給料が上がるといいな。(働猫)

    返信削除
  26. 孤児たちに映画来る日や燕の天  (無点)
    △移動映画、幻燈会か。わいも田舎の子供だったので、経験があります。たいしておもしろい作品ではないのだが、非日常が楽しくてね。(働猫)

    返信削除
  27. 妻病むや夜寒の子らと塩買いに  (無点)
    △ああつらい。(働猫)

    返信削除
  28. ここ草原から都会の憂鬱が見えている気球 (無点)
    △「気球」に「都会の憂鬱」を見ているのだろうか。それとも視点の移動によって発見された新しい対象なのか。ちょっとどちらとも判断できない。よくわからない。雰囲気だけか。(働猫)

    返信削除
  29. 朝寒ドックに太い錨鎖がくっきり白  (無点)
    △好きな景。(働猫)

    返信削除
  30. ネオンと俺との空間が鳴り十二月  (無点)
    △「鳴り」はネオンのバチバチという音か。近年なくなりつつある光景といえる。(働猫)

    返信削除