2014年9月30日火曜日

第二十七回研鑽句会


◆最高得点句

歯を削る機械があつて僕は小さな猿になる  中村一洋

◆互選集計

(4点)歯を削る機械があつて僕は小さな猿になる  ◎○○
(3点)まぎれもせぬ蝶の屍として流れてゆく  ◎○
(3点)ひとりでいるから蟹を怒らせている  ◎○
(3点)アイシャドウ強く塗つて女は冬を笑いつづける  ◎○
(2点)重い扉こんなまぶしい鍵がある  ○○
(2点)ほんとのこといえないゆびさきのさむさ  ○○
(2点)波はいつも同じ位置にくだけてゆく乳房  ○○
(1点)烏賊さいてその夜抱かれる女である  ◎●
(1点)すつかり枯れた景色に灯を吊つておく  ○
(1点)やがて夜明けの 鍋釜ひかりだした  ○
(1点)ひとり欠伸の涙をもらう石蕗の花  ○
(1点)ひまわりにいつも見られる情事の寒さ  ○
(0点)地にことばあるかどくだみの白い夕ぐれ
(0点)ちびた口紅 家計守らねば
(0点)妻のふるさとというても小さき流れ川なり
(0点)こおろぎが近寄るこちらも話したいことあり
(0点)人は草を摘む牛は何処にいる牛のこえ
(0点)不機嫌でくれば水族館のタコふてくされて
(0点)さびしいぞ夜もサクラが満開で
(0点)熱のある子につけておく小さな灯りも明けちかい雨音
(0点)春の雨の靴の下で貝殻が砕ける
(0点)たれか田植えの田にうつるまなこを撮れ
(0点)ひとの家にくらして裏へ廻われば菜が青い
(0点)凍土から芹の香はずんで鳴る受話器
(0点)風でなく猫でなくひるの工房を過ぎた
(0点)昼かなかな夕かなかなに追われて書く
(0点)六時の高さから鵙が冬をくばりにくる
(-1点)とかげの目がぬれて原爆忌祈りの時刻となる  ●
(-1点)初冬のひかりのなかでススキのいのちが終つている  ●
(-2点)人は馬の文明の股を好色の釈尊  ●●

以上、30句。

※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点、コメントのみ(△)無点として集計。

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◆作者発表(『自由律俳句作品史』掲載順)

飯塚朋子
重い扉こんなまぶしい鍵がある
ほんとのこといえないゆびさきのさむさ

竹村国子
烏賊さいてその夜抱かれる女である

坂井千代子
地にことばあるかどくだみの白い夕ぐれ

津田露
ちびた口紅 家計守らねば

中村一洋
歯を削る機械があつて僕は小さな猿になる

中塚檀
妻のふるさとというても小さき流れ川なり
こおろぎが近寄るこちらも話したいことあり

村田治男
人は馬の文明の股を好色の釈尊

浦賀廣己
すっかり枯れた景色に灯を吊つておく

北田千秋子
人は草を摘む牛は何処にいる牛のこえ

中谷みさを
とかげの目がぬれて原爆忌祈りの時刻となる

西村秀治
不機嫌でくれば水族館のタコふてくされて
初冬のひかりのなかでススキのいのちが終つている
さびしいぞ夜もサクラが満開で

勝慶子
波はいつも同じ位置にくだけてゆく乳房

池沼両間子
熱のある子につけておく小さな灯りも明けちかい雨音
まぎれもせぬ蝶の屍として流れてゆく
春の雨の靴の下で貝殻が砕ける

漆原利男
たれか田植えの田にうつるまなこを撮れ

江崎美実
ひとの家にくらして裏へ廻われば菜が青い
やがて夜明けの 鍋釜ひかりだした

切目とき
凍土から芹の香はずんで鳴る受話器

小島花枝
ひとり欠伸の涙をもらう石蕗の花

水谷雅
風でなく猫でなくひるの工房を過ぎた

村山砂田男
ひとりでいるから蟹を怒らせている
昼かなかな夕かなかなに追われて書く

高須梅之助
ひまわりにいつも見られる情事の寒さ
アイシャドウ強く塗つて女は冬を笑いつづける
六時の高さから鵙が冬をくばりにくる

―――

『自由律俳句作品』所収の作品のうち、1920-24年に出生した俳人の句より30句を抽出した。その中には、中塚檀(1922-1993)や北田千秋子(1923-)の名前もみられる。彼らはおよそ、戦前より昭和後期、果ては平成に至るまで生き抜いた。山頭火・放哉以降顕信以前にあって、現代においても読まれるべき様々な句が詠まれていたことについて、私たちはより一層自覚的でなければなるまい。
―――

出典:上田都史ほか編『自由律俳句作品史』永田書房、1979年。

30 件のコメント:

  1. (4点)歯を削る機械があつて僕は小さな猿になる  ◎○○

    ◎歯科医院の光景でしょうが「小さな猿」という表現に、だれもが歯科に抱く恐怖感を覚えました。(水名)
    ○口を大きく開けて横たわる姿は、客観的に見れば、かなり滑稽なことだろう。「機械」を扱えるは人間だけなのだが、「小さな猿」になってしまうところが面白い。(洋三)
    ○可笑しい。歯医者さんで原始的恐怖にとらわれているのかな。おどけすぎずに面白く歯医者さんのことを詠んだ感じがします。成す術もない感じもいいです。(玉虫)
    △歯医者こわいのですね。いくじなし。(働猫)

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  2. (3点)まぎれもせぬ蝶の屍として流れてゆく  ◎○

    ◎「流れていく」という語から川や流れる水を思い浮かべるべきなのであろうが、自分は印象的な情景を心象風景として持っているため、この句から「水」は想起しない。その情景は、北の神社の境内を散り落ちた桜の花びらが一面に埋めて、風によってそれらが桃色の川のように流れていくというものだ。そこにこの句は蝶の屍を上書きした。さらに、死のイメージが深まった。自分はおそらく春に死ぬ。「願わくば桜のもとにて春死なんそのきさらぎの望月の頃(西行)」せめて「死」ぐらいはパーフェクトなものがほしい。(働猫)
    ○作者の決意が感じられました。(水名)
    △落ち葉なんかと一緒に蝶の死骸が流れていったのかな。なんか好きな句です。(玉虫)

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  3. (3点)ひとりでいるから蟹を怒らせている  ◎○

    ◎意味不明。だが、強く惹き付けられる。(洋三)
    ○これもとっても可笑しい。特選と迷いました。海辺を散歩しながら、見つけた蟹を傘などで突いて怒らせているのでしょう。ちいさな蟹が鋏を振り上げて威嚇している様がまざまざと目に浮かびました。そして、何やってんだろ俺、と思っている詠み人の姿も。暇なときにつまんないことをしてしまうということの可笑しさをあざやかにあらわしていると思いました。(玉虫)
    △二人ならばおいしくいただくところなのだろう。或いは待ち人が来たら茹でる予定の蟹を、てもちぶさたにつついているのか。(働猫)

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  4. (3点)アイシャドウ強く塗つて女は冬を笑いつづける  ◎○

    ◎大変いいです。特選はこちらに。このお化粧はへたくそなんだろうなと思う。年を経た女で、きっと似合いもしない青だの緑だののけばけばしいアイシャドウをしているのでしょう。女は似合うかどうか以前に美しいかどうかすら気にしていない。しかしそれでいいのです。強いアイシャドウで武装した彼女は不敵に笑いつづける。そうすることが唯一の冬への対処法なのです。事実笑って笑って笑い続けていれば、何事もなく冬など過ぎてゆくでしょう。この強さはグロテスクで美しい。ストイックさすら感じます。(玉虫)
    ○こうした女が面白い。(古戸暢)
    △化粧とは精神的な効果もあるのだろう。ちょっと羨ましい気がする。(洋三)
    △「冬」は不遇や意に沿わぬ環境を言うのであろう。それを乗り越えていこうとする女の決意と強さをアイシャドウで巧みに表現している。(働猫)

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  5. (2点)重い扉こんなまぶしい鍵がある  ○○

    ○「重い扉」は、前途への障害となるものの象徴であろう。「まぶしい鍵」はそれを取り除く希望の光だ。しかし扉の向こうが必ずしも幸福とは限らない。その光は悪夢への誘惑かもしれない。そんな希望と不安の両面をよく表現していると思う。(働猫)
    ○カギってなんであんなにピカピカするんでしょう。(水名)
    △期待とか希望の象徴としての鍵なのだろうか。それにしては暗い印象の句。顕信の句が頭をよぎるからかもしれない。(洋三)

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  6. (2点)ほんとのこといえないゆびさきのさむさ  ○○

    ○冬の夜。屋外で電話をしている姿を想像した。平仮名遣いが良い。(洋三)
    ○手をつなぐこと、或いは相手に触れること。それが叶わぬ悲しみを「ゆびさきのさむさ」は表現している。本当の気持ち、その愛を、どれだけの愛が秘せずにいられるものだろうか。「さむさ」は多くの共感を得るだろう。(働猫)

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  7. (2点)波はいつも同じ位置にくだけてゆく乳房  ○○

    ○胸部より上まで波が来るような深いところへは、なかなか入って行けない。(古戸暢)
    ○エロスよりも「豊穣の海」を感じました。(水名)
    △女性と海に来ておっぱいばかり見ているということか。正直なことである。「波」を「彼」と誤って記し送信してきた選者も非常におっぱいに正直な男であると言える。(働猫)
    △いいですね。足がかろうじてつくくらいの深さのところで遊んでいる海水浴のイメージ。波がからだにぶつかる感触を生々しく思い出しました。夏、若さ、弾力にあふれる句で大変好みです。(玉虫)

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  8. (1点)烏賊さいてその夜抱かれる女である  ◎●

    ◎惹かれる景。(古戸暢)
    ●あからさますぎてあんまり好きではありません。(玉虫)
    △さきいかだろうか。よく手を洗ってほしいものだ。珍味のにおいのする指先では営みも醒めてしまう。あるいはつぼ抜きした烏賊を自らになぞらえこれから裂かれる身を思っているのか。(働猫)

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  9. (1点)すつかり枯れた景色に灯を吊つておく  ○

    ○いいですね。秋の、枯草なんかも目立ってきた庭に灯りを出す感じ。そうして虫の声でも聞いているのでしょうか。冷たくなってきた空気、ちょっとしたさみしさ、そしてこれからちいさないきものに確実に訪れる冬と死の予感がある。好きな句です。(玉虫)
    △明かりを灯しせめてもの慰めとするのか。それとも景色なんかには特に興味もないのだろう。そんなぞんざいさも感じる。(働猫)

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  10. (1点)やがて夜明けの 鍋釜ひかりだした  ○

    ○好きな景。(古戸暢)
    △怪奇現象であろうか。付喪神か。(働猫)

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  11. (1点)ひとり欠伸の涙をもらう石蕗の花  ○

    ○そんなに涙出るかなと思うが美しい句だ。(働猫)

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  12. (1点)ひまわりにいつも見られる情事の寒さ  ○

    ○確かにそれは「寒い」かもしれない。「ひまわり」と「寒さ」の取り合わせなんて、意外で面白い。(洋三)
    △夏でありながらもう醒めた二人の情事は寒いのだろう。さっさと次の相手を探せばいい。(働猫)

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  13. (0点)地にことばあるかどくだみの白い夕ぐれ

    △あるか、ではなく耳を傾けてみればことばは聞こえるものだろう。(働猫)

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  14. (0点)ちびた口紅 家計守らねば

    △おかん。おかんの句ですね。(働猫)

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  15. (0点)妻のふるさとというても小さき流れ川なり

    △相方が帰属するものはあまり悪く言わない方が無難だと思います。故郷にせよ、家族にせよ。(働猫)

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  16. (0点)こおろぎが近寄るこちらも話したいことあり

    △既読感あり、鉄塊の過去の研鑽句会を探したところ、第九回句会に該当の句があった。「こおろぎが近寄るぼくも話したいことあり(中塚壇)」同じ作者の推敲であろうか。当時は「カマドウマを想像してしまいおぞましくて共感できない」として逆選にとったが、今の私は近づいているのはこおろぎそのものではなく虫の音であろうと、冷静に判断できるようになった。成長である。(働猫)

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  17. (0点)人は草を摘む牛は何処にいる牛のこえ

    △広い牧場の様子を思う。放牧された牛の姿はここからは見えない。でも声は聞こえてくる。最後の「こえ」は「声」と「肥(うんち)」との掛詞かもしれない。草を摘んでいてうんちが落ちてる。しかし牛の姿はない。まだ温かい。遠くへは行っていないはずだ。(働猫)

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  18. (0点)不機嫌でくれば水族館のタコふてくされて

    △「不機嫌」と「タコ」はつきすぎかどうか悩んでしまう。でも、面白い。(洋三)
    △人は他者に自分を投影しがちである。タコがふてくされることなどはない。(働猫)

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  19. (0点)さびしいぞ夜もサクラが満開で

    △確かに誰もいない夜の桜はさびしい気がする。だが、放哉を真似しなくてもいい気がした。(洋三)
    △美しいものや楽しみの前で、突然に「ひとりであること」が強調されることがある。それを共有すべき相手、一緒にその感情を保存してくれる相手がいないということ。今その場にいてほしい人を思う。そうした孤独を、やや無邪気に表現しているようだ。(働猫)

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  20. (0点)熱のある子につけておく小さな灯りも明けちかい雨音

    △不安で寂しい情景をよく表しているが、ややしゃべり過ぎの感がある。(働猫)
    △いいですね。切ない。回復しない子供の部屋にも朝が来て、雨が降っている。常夜灯の光が雨の朝のよわい光にかきけされていく。この目のつけどころがとっても好きだなと思いました。(玉虫)

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  21. (0点)春の雨の靴の下で貝殻が砕ける

    △白砂利に混ざった貝殻であろうか。それとも海辺を歩いているのか。「の」の繰り返しは意識的なものかと思うが、「貝殻が」と「が」を用いていることから、強調したい視点の中心は「貝殻」なのだろう。そうして見ると、前半の「の」のくり返しは、やや煩わしく感じる。(働猫)
    △こちらもすごくいい。雨と砂浜の、匂い、感触がまざまざと感じられる感じ。(玉虫)

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  22. (0点)たれか田植えの田にうつるまなこを撮れ

    △美しいものをみつけたとき、それをそのまま誰かに見てほしいと思うことがある。そういったときこうした気持ちになるものだ。しかし撮れないからこそ、保存できないからこそ美しいものもある。これもそうしたものなのだろう。あるいは田んぼに目が浮かび上がるという怪奇現象なのか。泥田坊か。(働猫)

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  23. (0点)ひとの家にくらして裏へ廻われば菜が青い

    △所在ない感じがよい。「菜」の青さも他人事であり喜びにはつながらないのだ。(働猫)

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  24. (0点)凍土から芹の香はずんで鳴る受話器

    △やがてくる春への喜びを感じる。(働猫)

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  25. (0点)風でなく猫でなくひるの工房を過ぎた

    △よくわからない。風でも猫でもなく自分のままで工房の前を通り過ぎた、ということか。(働猫)

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  26. (0点)昼かなかな夕かなかなに追われて書く

    △汗を書きながら原稿に向かう姿を思い浮かべた。(洋三)
    △一日中原稿を書いていたのか。追われるという言葉から、締め切りのある仕事なのだろう。好きなことも仕事になると辛くなるものだ。(働猫)
    △非常に好みなんですが、「書く」は「歩く」とかのほうが好みだなぁ。(玉虫)

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  27. (0点)六時の高さから鵙が冬をくばりにくる

    △「六時の高さ」とは何か。秋の空の高さを言うのか。早起きをして上空から鵙の声を聞いたか。あるいは高い枝に昨夜はなかった速贄をみつけたのか。(働猫)

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  28. (-1点)とかげの目がぬれて原爆忌祈りの時刻となる  ●

    ●説明的に過ぎるか。(古戸暢)
    △とかげにも涙を投影して見ているのか。(働猫)

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  29. (-1点)初冬のひかりのなかでススキのいのちが終つている  ●

    ●ススキすきです。「ススキのいのち」という表現も好き。ただ前半の「初冬のひかりのなかで」が説明的すぎるかな、と感じあえて逆選に。(水名)
    △命の循環を冬の輝きの中にみつけたのだろうか。それとも枯れたすすきに自分の前途を思ったか。(働猫)

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  30. (-2点)人は馬の文明の股を好色の釈尊  ●●

    ●下ネタなのは分かるのだが、まったく面白味を感じない。(洋三)
    ●これは何を言っているの?(働猫)

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